タイムアウト東京 > 音楽 > インタビュー:テイ・トウワ
テキスト:多屋澄礼
写真:谷川慶典
テイ・トウワの変名プロジェクトとして1997年にスタートし、16年ぶりに活動再開となったSWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINE(スウィート・ロボッツ・アゲインスト・ザ・マシーン)。過去2作に参加した砂原良徳と、お笑いタレントだけでなく脚本家や作詞家の顔を持つバカリズムが加わり、3人体制で制作されたアルバム『3(さん)』が、今年7月に発売された。
バカリズムが脚本と主演を務めたドラマ「架空OL日記」で、オープニング曲にテイ・トウワの"Love Forever”が使用されたのをきっかけに、今作『3』には同ドラマに出演した女優、夏帆がゲストボーカルとして参加している。ジャケットを手がけたのは、ソロ作品に引き続き五木田智央。ファーストアルバムへのオマージュなど、サウンドとデザインがトータルで遊び心を感じさせる作品となっている。
1990年にDeee-Liteのメンバーとしてアメリカで音楽キャリアをスタートさせてから、コンスタントにソロ作品を発表し、METAFIVEへの参加やDJ、音楽制作など、とどまるところを知らない活動を続けるテイ・トウワに、制作プロセスやアナログレコード愛について語ってもらった。
二人羽織の不自然さを音楽に
ーSWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINE(SRATM)では16年ぶりのアルバムですが、バカリズムさんが加わることで制作面の変化はありましたか。
ソロでは、インストもあれば歌モノもあって、歌モノは歌ってくれる人を考えて作詞をするんです。ですがバカリズムさんは僕にとっては「言葉の人」って認識で、バカリズムさんと組むことで、自分は言葉の部分を考える必要がなくなりました。そこは大分違いますね。
ーテイさんはトラック(作曲)に集中して制作に取りかかれますもんね。
普段はどういうことを歌ってもらうとか、全部自分で決められる、コントロールフリークの楽しさもあるけれど、全部自分の責任になるわけで。責任を分担できるのがグループの良さだね。人のせいにもできるわけだし。
ー今回参加している砂原さんも責任を負ってますね。
音が悪いって言われたら砂原くんのせいにして、音が良いって言われたら僕の手柄にできるしね(笑)。ソロの時は、チャンス・オペレーション(作曲の中で偶然起こるコントロール不可能な要素)を待っていても、基本的に自分の打ち込んだことしかコンピューターは返してくれない。グループでの制作になると、勝手に色々な方向に転んでくれる。二人羽織ってあの不自然さが面白い。その面白さを音楽にも取り込みたいと思ったんだよね。
テイ・トウワ
ー『3』にはナンセンスな歌詞が多いですよね。会話のような会話じゃないような。バックトラックとのバランスをとるのは大変でしたか。
例えば、10曲目の「かわいい(Kawaii)」のレコーディングの時にはバカリズムさんが不在で、用意してもらっていた歌詞が曲の途中で終わっちゃったんですよ。それをバカリズムさんに聴かせたら、その歌詞を「かわいい、でもかわいくない。でもかわいい。」ってコピペして書き換えたんですよ。僕は自宅のスタジオでそのコピペした原稿に合わせて録ったボーカルを編集しました。最終的にそれに合わせてアレンジも変えたりもしましたね。
ーそれってどこかサンプリングにも似ていますよね。
まさにそうですね。そしたらバカリズムさんも「こっちの方がいいですね」って言ってくれて。以前、ダウンタウンさんや今田耕司さんとやったプロジェクトではそういうやりとりはあまりなくて。
ーバカリズムさんの笑いの独特のリズムが歌詞にも反映されていますね。
バカリズムさんの言葉の使い方って「笑かすぞ」って感じじゃなくて、つい「くすっ」と笑ってしまうような笑いが多いですよね。
3人でスタジオに集まったのは1回だけ
ー今作も、録音も軽井沢の自宅のスタジオだったんですか。
今はMacがひとつあれば、温泉地とかどこでも作業できます。東京で借りている部屋の近くに小さいスタジオがあるので、そこで毎回90分くらいで1、2曲録るペースで進めました。あまり雑談もなく、すごい効率的にレコーディングが進みましたね。「昨日暑かったですね。さあ、やりましょうか」って感じで。
ーバカリズムさんと曲について意見を交換することはありましたか。
バカリズムさんは曲のパートをすごく理解していて、必要があればさっき言ったように録った後に提案してくれたりするんですけど、その機会もほぼなくて。
ー砂原さんはそこにどんな風に絡んでくるのでしょうか。
ほぼ絡んでこない。3人でスタジオに集まったのも砂原くん作曲の7曲目「捨てられない街角(Boxes)」を録るときの1回だけ。レコーディングが終わった後も、バカリズムさんも砂原くんもお酒を飲まないので、あっさりしてて。砂原くんは全然飲めないタイプじゃないけど、「なんで普段飲まないの?」って聞いたら、「酔ってる自分が嫌い」って言ってました(笑)。
自分ひとりで作ったらこういった作品にはならなかったと思います。あんまり自分の作品を通して聴いたりはしないけど、今回の制作中に久しぶりに前の作品を聴いてみて、全然別物だなって印象を受けて。セカンドアルバムを作った時点で、もう僕はSRATM名義を使うことはないなって思ってたけど、僕的には今作を違うユニットでやるよりは、なんかしっくりきましたね。
「便利=ベスト」ではない
ーCDだけでなくアナログでもリリースしていますが、やはりレコードに対してのこだわりがありますか?
ずっとありますね。一時はDJでCDをかけることもあったけど、インターフェイスとしてCDは腑(ふ)に落ちないところがあるというか、なんか中途半端な気がして。パソコンでDJをすることはあります。レコードを運ぶのに重くて大変だなって思って、ちょうどマネージャーが女の子に変わった時期にパソコンでDJをやり始めました。曲をパソコンに入れてさえあれば、急に思い出してかけたりもできるし、今日はレゲエセットにしようと思った時にも対応できるから。
『3』はUKっぽくインナースリーブは黒がいいとか、回転数も45と33で悩んだんですけど、結果的には45にしたことで高音が伸びてよかった。33だと内周に近づくにつれて音が劣化したり、レコードは奥深いですね。
ー今でもレコードショップでレコードを掘ったりしますか?
行きますね。9月にジャケットの絵を描いてくれた五木田くんとロサンゼルスに1週間行くんですけど、車をチャーターしてレコードショップを廻る予定。
ロンドンに行ってた時期に、知らない番号から電話がかかってきたことがありました。かけてきてるのはレコードのディーラーなんですけど、そのディーラーの家に行って飛行機に乗るギリギリまでレコードを買ってて、「テイさん、後15分でここを出ないと帰りの飛行機に乗り遅れますよ」ってマネージャーに言われたな(笑)。
ーニューヨーク時代も同様ですか。
ニューヨーク時代が一番買ってた。昼はレコードを買って、夜はDJやって。それが自分のファンデーション(土台)になってると思う。レコードが好きなのは変わらないですね。
パソコンはやはり便利だけど、「便利=ベスト」ではないですよね。音楽を聴くって行為そのものが、きっとCDとかパソコン、配信ってもののせいでいつの間にか減ってしまったのかな。
東京で音楽を作り続けることに限界を感じていた
ー五木田さんの息子さんが今回イラストを描いているじゃないですか。それを見てテイさんの息子さんと一緒に音楽をやることはないのかな?って思いました。
それがないんですよね、実は。息子はもう社会人でサラリーマンなんですけど、僕もカミさんもすごい内向的なのに、パリピですね(笑)。
このご時世、草食系の男の子が多いけど、彼はいつもワチャワチャ友人を引き連れてどっか行ったりしていて、たくましく育ってます。
ー息子さんが生まれたのがきっかけで、軽井沢に拠点を移したんですよね。
自分は、子供ができてから一番価値観が変わったなって思いますね。それまでは、急な締め切りにも対応することもあったけど、そういうしがらみから抜け出ようと思えたのは、息子のおかげ。一番最初に考えたのは、息子をどんな環境で育てるかってことでしたね。息子は喘息(ぜんそく)気味だったけれど、軽井沢に引っ越したらすぐに治ったんですよ。長野オリンピックの時期に、東京から軽井沢まで新幹線で1時間ちょっとっていうのを知って、これだったら通えるなって思って。それに僕自身も正直、東京で音楽を作り続けることに限界を感じていましたね。
ーリミットを感じたのはどんな時だったんですか。
仕事が終わったらバーとかでビル・エヴァンスを聴きながらリフレッシュしたいと思っても、噂話とかいらないノイズが耳に入ってくるし、窓がないスタジオで音楽を作り続けられる人もいるけど、僕はそれを続けるのは無理だと気づいてしまって。軽井沢に引っ越したタイミングでは、まだノートパソコンで作業はできなかったんですけど、ADSLがちょうど普及した頃だったんで、音の納品はできたから。ちょっと早いけど、いい時期に移住したなって思いますね。
何かを具体的に作りたくなる気持ちが大事だなって思いますね。それが来るのを待っている。待っているって言っても、ただ日向ぼっこして待ってるんじゃなくて、映画観たりとか、レコードを聴いたりとか(して待っています)。そうしている時間が、今は一番大事な気がしてますね。
バカリズムさんとは、もっと違ったチャンネルでやれることもある
ー先日はフジロックにSRATMで出演しましたが、この先ライブなどは考えていますか。
楽しかったですね。フェスなので4曲プラス、トークという構成で。SRATMは基本的にライブでもトークを主にやっていきたい。大学とかでの講演会もいいかもしれないですね。ずっとくだらない話を展開して、「では、最後に聴いてください」って感じで(笑)。オファーがあれば全然いきますよ。
ーこれからどんな展開をしていきたいとか、テイさんの中でビジョンはあるのでしょうか。
今回はアルバムを作るってことで集まりましたけど、バカリズムさんとやることはもっと違ったチャンネルもある気がしてます。テレビ番組とか。映画でもいいんですけど、NetflixとかAmazonプライムとかから予算をもらってオリジナル番組を作るのが一番しっくりくるかな。
すごいかわいい女の子がどんどんDJとして成功していく(物語)とか、もしくは超売れっ子DJだった人がどんどん落ちていって、最後バイトを始めるっていう話とか(笑)。バカリズムさんはDJのことあんまり知らないから、逆に面白い内容になりそうだなって。(バカリズムさんの「架空OL日記にちなんで)仮タイトルは既に「架空DJ日記」って決まってます(笑)。
ー最後に女優の夏帆さんが出演しているPVも最高な「ダキタイム」にちなんで、テイさんが一番好きなのは「何タイム」ですか?
ダキタイムのPV
実際はレコタイムやオトタイムだけど、それをダキタイムってするだけで肉食化するのが面白いって思って。その響きは清々しさすら感じますね(笑)。
実はこの「ダキタイム」ってワードが生まれたのは、METAFIVEのライブだったんですよ。ライブ転換でトークをする代わりに、オーディエンスとじゃんけんをして勝った人がゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ)を抱くのがいいんじゃないって話になって。初めてやった時にたまたま巨乳の可愛い女の子が勝ってミラクルが起こってましたけど、二度目の時にはライブにゴンちゃんの娘さんも来ていて、中学生くらいのお年頃の娘さんだから「パパ不潔」って泣いちゃったんですよ(笑)。「ダキタイム」って面白い企画だったけど、残念ながら2回で終わってしまって。
あの曲に出てくる◯◯タイムは、だいたいが僕の日常ですね。でも、抱いてはいないですけどね(笑)。