鈴木慶一、高橋幸宏によるユニット、ビートニクス(THE BEATNIKS)が、1981年のデビュー以来、通算5作目、前作から約7年ぶりとなる最新アルバム『EXITENTIALIST A XIE XIE(エキジテンシャリスト・ア・シェーシェー)』をリリースした。
はちみつぱいやムーンライダーズとしてロック史に軌跡を刻み、時代の空気を吸い込みながら、尽きることのない好奇心を爆発させている鈴木慶一と、サディスティック・ミカ・バンドや、海外からも評価されたジャパニーズ・テクノ、ニューウェーブの先駆者となったYMOでドラマーを務め、現在ではMETAFIVEとして活躍する高橋幸宏。2人の波長が交錯して生まれる知的なサウンドは、実験的でありながらもポップで、聴く者たちのイマジネーションを刺激してくれる。アルバム制作の経緯や、2人の関係について語ってもらった。
忙しい時にやるのがビートニクス
−新しいアルバムを作ろうと思った動機は何だったんですか。
高橋:ライブ用や番組のテーマ曲を作っているうちに曲が増えていったんだよね。
鈴木:赤塚(不二夫)さんの生誕80周年イベントでライブをするためにスタジオに入り、「シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・Ya・Ya」と「鼻持ちならないブルーのスカーフ、グレーの腕章」を作った。その後、8月くらいにNHKの番組「J−メロ」のテーマ曲を作ったんだ。ほかにストックも2曲あるから、アルバム作れちゃうんじゃない?って。そう思ったのが去年の秋くらいだった。
−7年ぶりのアルバムを出してどんな気持ちになりましたか。
鈴木:7年ってすごく短かかったな。
高橋:本当だね。今回はすごく短く感じた。
鈴木:7年間にいろんなことがあったしね。いいことも悪いこともあって。だから次の7年とか、10年とか考えるのは嫌だね(笑)。
鈴木慶一
ーリリースしたばかりですが、次のアルバムについての計画はありますか?
鈴木:今は全く考えてない。この7年があっという間だったのもあるから、早めに作ったほうがいいかもしれないって気にはなってるけど。
高橋:7年前って言ったら2011年でしょ。結構せわしない年だったな。入院もしたし。
鈴木:私は還暦を迎えたし。ムーンライダーズは活動を休止することになり、そのアルバムを作るのでいっぱいいっぱいだったな。
高橋:慶一は活動休止だけど、僕は退院直後にJ-WAVEのイベントのキュレーションをしたり、YMOが活動再開して、ハリウッドボウルとサンフラシスコでライブやって、帰国したらNHKのスタジオライブがあったりして、目まぐるしかった。
ー激動の中での制作だったんですね。
高橋:忙しい時にやるんだね、ビートニクスって。1981年の時もそうだったけど。今作の時は、慶一が忙しかったんだよ。
鈴木:映画やドラマの音楽制作が数作続いていて、その中でのレコーディングだったから、同時に色々なプロジェクトが進行していた。曲を作ってて、ちょっと壁にぶち当たると歌詞作ったりして、また曲に戻るみたいなね。歌詞作るの楽しいなって思ってる時に歌詞を書いて、歌詞作るのに煮詰まってくると、音楽作る。楽しいと思わないとできない。コンピューターに向かってブツブツ言ったりもするけど、わりとマゾヒスティックなんでね。大変だなって思っている時に、脳内に快感を覚えるんだよね。
高橋:コンピューターに向かって独り言をブツブツ喋るって慶一は言ったけど、昔は人間そんな独り言喋ったりしないでしょってずっと思ってたけど、結構言ってるよね。実は最近気がついたんだよね。
鈴木:本当は気がつかないだけで、昔から言ってるんだよ、きっと。
高橋:確かにそうかもしれない。「参ったなあ」とか言っちゃってる。
鈴木:そうそう。「あ!ちょっと急がなきゃ」とかね(笑)。
最後はバカバカしく終わった方がいい
−レコーディングの時は二人で会話を交わすのですか。
鈴木:する時もあれば、しない時もある。没頭している時は喋らないかな。新たな発見だったんだけど、レコーディングで同じスタジオの中で、同時に別々の音を鳴らしてても、平気になったってことは驚きだった。
高橋:どうかしてるよね。こっちはキーボード弾きながら「今の慶一のギター、ちょっと録ってくれない?」って。
鈴木:こういうのどうかな?みたいなことは絶対言わないね。とりあえず音が意見であって。
高橋:鳴らされた音をこっちが勝手に切り取っていく。
−今作ではニール・ヤングをカバーしていますが、その曲を選んだ理由は何だったんですか?カバー曲はだいたいアルバムのボーナストラックに収録されていることが多いですが、2曲目だったのも斬新でした。
鈴木:カバー曲の候補はいくつか挙がっていて、出したり引いたりして選んでいく中で、「I'll be waiting for you」が残ったんだよね。
高橋:ASH(AFTER SCHOOL HANGOUT)のライブでもカバーしているんだけど、ASHではボーカルだけに徹していて、ただこの曲は生ドラムのイメージが強かったのと、ビートニクスでやったらもっとロックになると思ったんだよね。
鈴木:幸宏の頭の中には曲順というか流れがあって、1曲目のインスト終わりにどかーんってギターで出たいって思いがあったんだろうね。2011年のレコーディングの時は、幸宏が曲順を書いたメモを持ってきたんだよ。まだ曲もないのに(笑)。1から10まで数字が書いてあって、1曲目はこんな感じってイメージが書いてあるメモ。それを見ても、ここでしっとりしてとか、ここでドカンとするとか。8分の6拍子とか断片的なものしか書かれていなかったけど、既に全体の流れはできていて。
高橋:まだゼロ曲だったけど、何かきっかけがないとアルバムは作れないって、その時は思ってたのかもしれない。
高橋幸宏
−今回はそういったメモはなかったんですか。
鈴木:今回はなかったね。でも曲順はすんなり決まった。一番最後の曲をどうするかっていうのは、最後の最後まで決まらなかったけどね。
高橋:「Speckled Bandages」で終わるのがいいと思っていたけど、出来上がったのを聴いてみると、これで終わったら出口がないし、いよいよ死が最後かって。そしたら次のアルバム作れないぞって思って。
鈴木:それで最後はバカバカしく終わったほうがいいやって。寸前のところで「シェーシェーシェー」に決めた。
−前作は小説にインスパイアされた曲がありましたが、今作で影響を受けたものなどありましたか。
鈴木:今作は、コンセプトを設けて曲を作るってことをしなかったんだよね。今歌詞にしたいようなものを(曲に)していけばいいんじゃないかなって。そこで「シェーシェーシェー」はコミックソングみたいな、オシャレ度に関してはビートニクスにとってギリギリのところをいってるよね。
高橋:あれはね、ビートグループっぽいサウンドに、「シェーシェーシェー」が乗ることによって、すごく面白いものになってる。最初はこの曲はアルバムに入れないで、ライブバージョンをボーナストラックで収録しようよって言ってたんだよね。というのも、あの曲のプロトタイプには、オリジナルじゃないカバーのパートがあったから。それをちゃんとオリジナルに録音し直して。あんな振りまで付けちゃった。
2人で歌うと新たな別人格が生まれる
−制作する過程で意見が衝突することなどはないのですか。
高橋:100パーセントないね。
鈴木:絶対こっちがいいよとか、絶対ってものはない。ムーンライダースの時もそういうことは言わなかった。
高橋:YMOもMETAFIVEでもないかな。それは絶対ないって強く言うことはないけど、そういうニュアンスに持っていくことはあったような気がしないでもないかな(笑)。
−おふたりにとって、ビートニクスとはどんな存在ですか。
鈴木:いい意味ガス抜きかな。ソロとも違うし、バンドとも違うし、2人だと曲を作るスピードが速い。
高橋:どっちかが休んでると、もう1人が進めてくれてるからいいよね。そういう意味では、2人ともあんまりサボることもないし。
鈴木:唯一サボれるのは、幸宏がドラムを録音してる時だね。あの時は寝てられる(笑)。一番特徴的なのは、サウンドもそうだけど、やはりボーカルだよね。2人でユニゾンで歌うと、高橋幸宏でもない、鈴木慶一でもない、新たな別人格が生まれる。そこが面白い。それぞれやっている音楽とは違う科学変化が起きる。
鈴木:誰かに依頼されるとかではなく、何もないところから生み出すのがビートニクス。何がそうさせるかって言われたら、相性とか信頼感だろうね。
高橋:スタジオに入ったら2人のどちらかが音を鳴らし始めるから、それに寄り添って作っていっちゃうってだけ。
−ビートニクスを始めた頃にはこんなに長く活動すると思ってましたか。
鈴木:もともと音楽を始めた時に、こんなに長くはやるって思ってなかったしね。
高橋:今まで色んなバンドをやってきて、YMOが5年間でしょ。ビートニクスは1回も解散しなかったから、実は一番長い。解散してまたやっても別にいいんだけどね。引退とか解散とかあまり言ったことないから、一度は言いたいなって思ったの、最近。
鈴木:「高橋幸宏を解散」っていうのはないの?昔、近田春夫解散か?ってのあったけど。
高橋:それやってみようかな(笑)。