Brain Buster
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ライブハウスのバーカウンター的音楽配信

リアルとオンラインの両立を考えるBrainbusterプロジェクト

Mari Hiratsuka
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テキスト:高木望

トラックメイカーのライブパフォーマンスに対し、リアルタイムで「ガヤ(にぎやかし)」が入る「対三密式トラックメーカーライブセットコメンタリー実況生配信プロジェクト」こと『Brainbuster』。関西に縁のあるメンバーを中心に企画された配信チャンネルが、2020年8月27日に第6回の配信を迎える。

あたかもライブハウスのバーカウンターにいるかのような、不思議な感覚に陥るこのチャンネル。初回配信では、2時間の放映でなんと20万円以上ものドネーションを集めた。発起人となるメンバーらに、企画の発端について話を聞いた。

ゲストのライブにツッコミを入れる

現在Wall&Wallに所属するイベントオーガナイザー、鬼塚基と、大阪の音楽プロデューサーである有村峻(in the blue shirt)、トラックメイカーとしてパソコン音楽クラブで活動するにしやま。この3人によるテレビ通話がきっかけで『Brainbuster』は生まれた。

鬼塚は経緯について 「ライブハウスのイベントをキャンセルする代わりに、新たな面白い配信をやりたいと、二人にオンライン通話で相談していたんです。画面越しにもコロナの影響による彼らの気持ちの落ち込みようが伝わってきて、とにかく自分たちが楽しめるような配信をしよう、と思いました

ちょうどその頃は、音楽の配信チャンネルが乱立し始めたタイミング。単に演奏するだけでは物足りないし、現場の下位互換的な配信にしかならないと思っていて。どうやったら楽しめるかを考えた先に 『ゲストのライブに僕らが都度ツッコミを入れる』という構想が生まれました」と話す。

この、一本の電話会議から始まった企画が、翌日には動き出した。メインホストとなるメンバーとして、配信システムの知識を持つトラックメイカーのピアノ男に加え、トークのまとめ役に関西で活動を行うDJ、消しゴムをアサイン。

各コメンテーターが自宅から配信する様子が一つの画面に表示されるよう、Discordを核とした配信システムを準備した。同時にライブの映像も急ピッチで収録。

撮影のメンバーは最小限に抑え、出演者ごとに入り時間をずらしながら、ライブハウスで事前収録を行った。またトークが長引いて進行が遅れないよう、台本も準備した。

メンバーが共有する簡易的な台本。流れは「型」を作っており、初回からほぼ変わらず

配信では得がたい空気を感じられる瞬間

コメンテーターとして参加するホストメンバーのにしやまは、初回の様子を次のように語る。

「人のライブにガヤを入れる、というある意味不謹慎な行為が、果たして受け入れられるのか。心配も少しありつつのスタートでした。ただ蓋を開けてみると『クラブで音楽を聴きながら友達と話す』という、配信では得がたい空気を感じられる瞬間もあった。そこはやる意味の一つだなと思います。

今、直面している状況の重さはアーティスト個々の仕事の性質(作曲家なのかプレイヤーなのかなど)によってかなり左右されており、個人の努力でどうこうできることは本当に少ないです。ただ配信技術など、この状況で以前より劇的に進化した部分もある。そういった部分をポジティブに捉えて、今だからできるアイデアを考えている人こそが強いと思いました」

同じくホストメンバーであり、初回にライブパフォーマンスを行った有村は、参加者の反応を見たことで「前向きな気持ち」になると同時に、自身の活動で必要だったことが浮き彫りになった、と振り返る。

「トラックメイカーのライブという行為自体が世間的にはそもそも謎であるわけで、改めて自分は説明の努力を怠っていたな、と痛感しました。楽しみ方をきちんと伝えられれば、好意的に受け止めてくれる人はもっといることも分かりました。チャンネルが小さなコミュニティーのままであり続けるとは思いつつ、地道ながらも、打ち込み音楽のいろんな楽しみ方が伝わればいいなとは思っています」

当初はコロナ収束後に、生の現場で『Brainbuster』を開催することが目標だった。しかし鬼塚は「コロナが収束しても、配信は継続していく」と語る。

「コロナが収束し、できるだけ思い切りやれる状態で初めたリアル『Brainbuster』を開催したいと思っています。ただ、リアルイベントとオンライン配信は全くの別物。たまたま始まった企画なので、コロナに関係なくいずれはやっていたかもしれません」

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自分たちが楽しむ場所をアーティストと作る

とはいえ、先の読めない状況下でずっと配信を続けていくことは、心身ともに負荷を伴う場合もある。オーガナイザーやアーティストにとって苦境といえる状況の中、なぜチャンネルを継続できるのか。鬼塚は、初回で番組の「型」を決めたことが鍵だったと教えてくれた。

「数々の決まりごとを作ったことで、システム的な改善をあぶり出すきっかけになりました。初回からたくさんの要素を詰め込んだから、2回目以降は細かい改善を重ねていくだけ。進行がすごく楽になったんです。 僕らの目的は収益ではなく、この状況で『自分たちが楽しむ』場所を作ること。採算以前に、出演するアーティストも楽しめるような要素がないと意味がないと思います。

そして初回で死ぬほど考えを詰めることができたのは、メンバーであるアーティストの存在が大きいです。彼らと対話して、お互いのやりたいことを伝え合ったことが今回の企画につながっています。今後はハコとアーティストの人間が一緒に何かを作り、実験する過程が必要なんだと思いました。

ちなみにのミーティングは、毎回話がふくらみすぎて収集がつかないのですが、必要な事だけを抽出して取りまとめ、ミーティング終了と同時に全員に共有する消しゴムの統率力はすごいです。彼女がいないと番組はいつまでも開催できないので、視聴者の皆さんは開催ごとにあの人を褒めてください(笑)」

配信形態が特殊だから反響を呼んだ訳ではない

新型コロナによる緊急事態宣言が発せられてから、ライブハウス側は「表現の場を提供する」という本来の役割を続けることが難しくなり、ミュージシャンも「現場で表現する」という役割を奪われた。

その中で、あらゆるオーガナイザーやミュージシャン、ヴェニューが、生き延びるために、配信という手法を見出す。『Brainbuster』の初回放送が数ある配信の中でひときわ異彩を放ち反響を呼んだのは、単に配信形態が特殊だから、ではなかった。

悲惨な状況下で「誰かのため」ではなく「自分たちのため」に配信を継続させる、というスタンスを率先してとったからだ。登録者数やドネーション金額といった数字を追うことがないからこそ、ゲストもホストも自由に配信できる。そしてその自由さが、「ライブハウスに知り合いが集まる」というプリミティブな現場体験に近しい楽しさを、視聴者にも与えているのだ。

なお、次回『Brainbuster』の配信は2020年8月27日22時から開催。ゲストにはShi-Tzu、ホストメンバーはビンゴ 有村(in the blue shirt)、西山(パソコン音楽クラブ)、ピアノ男、消しゴムが登場する。

配信先URLはこちら

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