インタビュー：コンドームソムリエAi

10年、20年経っても変わらないセックスの悩み

コンドームソムリエとして活動するきっかけは、以前のパートナーがセックスの際にコンドームを着けようとしなかったことに始まる。

「お付き合いした人の中で初めてコンドームを『着けない派』の男性に出会って、いい年齢の大人が避妊に全く関心がないという事実に驚いたんです。その後も同じ状況の男性に出会ったことや、仕事柄受けるセックスに関する相談で『コンドームを着けてくれない』悩みがこの10年、20年間で変わらないことを知って、その背景や原因はどこにあるのかなと思って」

性教育を学び損ねてしまった大人たちに

元々は英語教師を目指していた彼女。しかし、担当科目に限定されず全校生徒を見ることのできる仕事内容から保健室の先生を志すようになったのだそう。高校で勤務した際は生徒の妊娠や、小学校では性暴力に遭う児童も見てきた。日々働く中で性に関するトラブルは多いのにもかかわらず、教科書で教える範囲の狭さを知り、性教育の重要性に気づいたと語る。

「現在日本の中学校で教える保健体育の授業では、年間を通して性教育に触れる内容がたった1コマか2コマが限度。教えるのは基本的に体育の教員で、彼らはスポーツなど体育を教えるプロであっても性教育のプロではないですよね。

さらには中1で教える受精の仕組みの後は、中3で教える性感染症のくだりまで『コンドーム』が出てこない。まず、この期間に起きるであろう性への興味関心の高まりとトラブルに対して教科書が不十分過ぎるんです」

かつてのパートナーを振り返って、性教育の不十分さが避妊や性感染症予防に無関心な大人を生み出している事実を知り、教育者の立場として現場に疑問を抱きつつも教育の制度までを変えるには限界があった。学び損ねた人たちに対して、性教育に触れる機会、学べる機会を作りたいと思ったのだという。

「例えば『セックスをする上でどのような性的同意をとれば性暴力にならないか』といった根本的なコミュニケーションを含めた再教育が必要だと考えたとき、まずは性教育を学び損ねてしまった人たちへ発信することが大事だと気付いたんです」

ピルやミレーナをはじめ、さまざまな避妊方法も

日本で流通する最も一般的な避妊方法はコンドーム。とは言え、昨今ではピルや子宮内避妊具（IUS／ミレーナ）、国外には体に貼ることでホルモンの増幅に作用し避妊を促すパッチ（シール）、腕に埋め込む避妊インプラント、避妊注射など、コンドーム以外にもさまざまな避妊方法がある。性教育を叫ぶ活動をする上でなぜ今コンドームに注目したのか、素朴な疑問を聞いてみた。

「日本の避妊方法に関する問題点について活動をされている方々はたくさんいるけれど、一般層までは浸透していないのが現状。もっとキャッチーで興味が無い人にも届けるにはどうしたら良いか。専門家ではない私にも扱えて、一番アプローチが必要な層に知ってもらうことを考えました。そこで教科書にもAVなどのアダルトコンテンツにも出てきて、コンビニでも手に入るコンドームから始めようと思ったんです。

まずはコンドームを着けるところから始めて、着けるようになったらコンドームの種類を選んでみる。種類を選ぶようになったらピルのことも調べてみて、ピルを調べたら日本でメインの避妊方法はなぜこの2択だけなんだろうと考える。そんな風に、段階を踏んでさまざまな方向に興味を持つところまで導きたい。

その一歩として、コンドームに対して面倒臭いイメージから、選ぶのって意外と楽しいなと思ってもらえたら。望まない妊娠や性感染症から自分を守ることを億劫にさせないという、意識の変移を起こしたいなと思っています」

「着けると痛い、ゴムアレルギーなど色んな言い訳に対してこれだけ種類があるんだよと」

現在日本国内で販売するコンドームの種類は、その数なんと100以上もあるという。その中でも手に取りやすいものを紹介してもらった。

「例えばこれはラテックスアレルギーの人でも使えるコンドーム。『サガミオリジナル 0.01』はポリウレタン、不二ラテックス『SKYN』はイソプレンラバーという合成ゴムを素材に使っていて、ラテックスアレルギーの人でも使用できます。

コンドームの摩擦が苦手、生感が欲しい人にはジェクスというメーカーから出している『ZONE』がおすすすめ。こってりとしたゼリーが外側に塗布してあって、摩擦による痛みを感じにくいことから受け手側はもちろん、なぜか装着側にも生感覚が感じられると人気があります。

サイズの悩みに対応したものもあるし、学生カップルには『オカモトコンドーム ニャンボーVer.』がいいかな。猫のパッケージがかわいく手に取りやすい上に、12個入り×3箱（計36個）で1,000円くらいとお財布にも優しいんですよ。手に取りやすいもので言えば『無印良品 コンドーム』もおすすめ。パッケージがシンプルなのでカバンに入っていても違和感がありませんし、何よりさわやかな無印良品でも買えることで、購入に対するハードルが下がるのではないでしょうか。

私はたまにゲイバーでコンドームを配るボランティアを行なっているんですが、男性は避妊という大義名分がない分、着けて欲しいと言いにくく性感染症の発症率が実は女性よりも高い。性別に関わらず、自分に合うコンドームをちゃんと持っていたいものです。

また、膣内を傷つけない配慮から生まれたコンドーム風のフィンガーグローブ『Findom』もあります。これはセックスだけでなく、セルフプレジャーなどにおいて、爪やささくれなどでデリケートな粘膜が傷つくのを防いでくれます。月経カップの交換時などにも着けると指が汚れなくて便利ですよ」

コンドームを買いやすい場所のおすすめには、渋谷のMEGAドン・キホーテ3階をチョイス。5階のアダルトコーナーでなく、コンタクトレンズ用品なども並ぶ生活用品の並ぶ棚にあることから、気楽に足を運びやすいそう。

また都内のコンドーム専門店として有名なコンドマニア 原宿店は地区開発から閉店したと思われがちだが、移転してちゃんと現存している。渋谷パルコに新しくできるコンドマニア 渋谷パルコ店もヘルシーに入れそうだ。

射精に至らないセックスがあってもいい

性教育を広めるインフルエンサーとして1周年を迎え、活躍目覚ましいコンドームソムリエAi。今後は実際に触ってみるコンドーム試触会のほかに、学生に向けた公演なども各地でも予定中だ。最後に今伝えたいことを聞いてみた。

「日本には性教育の不十分さとともに、セックスカウンセラーなど性の悩みを専門家に相談できる場所が一般的ではありません。個人的に日本人のセックスレス率の高さは、毎回100点満点、もしくは100パーセントの熱量のセックスを目指そうとするプレッシャーにあるのではないかと思います。

セックスはコミュニケーションですから、必ずしも射精を頂点としなくてもいい。今日は体力が無いからここまで、いちゃいちゃするだけ、抱き合うだけとか、さまざまなセックスの形があっていいと思うんです。私自身アダルトコンテンツ寄りの過激な表現が苦手なこともあり、セックスはいわゆる精力盛んな『エロい』人たちだけのものではないことを伝えたいですね。

ちなみに言い出しにくいセックスの要求にも、コンドームはおすすめです。『今日はこのコンドームでこういう風にしてみたい』うまくいかなかった時もコンドームのせいにして『じゃあコンドームを変えてみよう』ってね。コンドームを介すことで相手を傷つけずに要求を伝えやすくなります。

フィードバックをすることで性生活はより楽しいものになります。たくさんの種類の中から選んで試して、コミュニケーションのアイテムにぜひ活用してくださいね」