南魚沼にしかない価値を体感できる場
東京からおよそ2時間、新幹線とローカル線を乗り継ぐと、山あいに細長くひらけた新潟県南魚沼にたどり着く。
南魚沼は日本有数の米どころとして知られる。この地でつくられた最上級のコシヒカリは「日本一おいしい米」として全国的に有名だ。平地の中央を流れる魚野川沿いには青々とした水田が一面に広がり、穂先に黄金色をにじませた稲穂の群れが晩夏の涼風に揺れる。その奥には薄墨色の山々の稜線が幾重にも連なり、美しい陰影を描いている。
何百年と変わらないその光景は、まさに日本の原風景そのものといえるだろう。一棟貸切りの古民家宿「里山十帖 ザ ハウス イズミ(里山十帖 THE HOUSE IZUMI)」は、そんな景色を一望できる小高い丘の上にある。
「もうしばらくすると田んぼの稲穂が一斉に色づき始め、あたり一帯が黄金色に染まるんです。冬にはそれが一面の銀世界になり、春になれば美しい水鏡になる。ここには四季の移ろいとともに変化する美しい自然が常に目の前にある。すごく贅沢ですよね」
そう語るのは、宿を運営する岩佐十良だ。眼前に広がる光景に目を細めながら、岩佐は続ける。
「はるか昔から変わらないこの眺めと、日本一おいしいお米は、この地域の大きな魅力。ここにしかない唯一無二の価値だと僕は思っているんです」
元々は東京で雑誌の編集者をしていた岩佐がこの地でホテル事業を始めたのは、2014年。食と旅をテーマとする雑誌を自ら創刊し、「本当の豊かさ」を追求する中で南魚沼と出合い、2004年に移住。この地に息づく日本の伝統的な暮らしや食文化の中に、求めていた豊かさを見出した彼は、それらの魅力が体感できる場を作ろうと考え、宿泊型複合施設「里山十帖」をオープンしたのだ。