一緒に迷って欲しい、と森山未來さんには伝えました
ー二度目のメンバー脱退を経て、新しいベーシストのヤクモアさんを迎えた新体制のGEZANが始まりました。彼が5月に加入してから『フジロック』まで、休みなく毎日スタジオリハーサルをしてきたそうですが、手応えはどうですか。
ヤクモアはまだ18歳なんですが、オーディションのときもまったくおびえがなくて。今思えばアホなだけだったのかもしれないんですが(笑)。GEZANのために東京に出てきて、今は目に映るものすべてが刺激的な状態で日々いろいろな人に出会ってる。
彼を選んだのはバイブスだけを重視したわけではなくて、ベーシストとしてのポテンシャルの高さを見込んだからなんですが、実際音を鳴らしてみるとセンスやひらめきもありますね。ちゃんと出会えたと確信してます。
だけど本当にアホで(笑)。「将来はロックスターになりたい」っていう人、今どきいないですよね。メンバー全員で見にいった灰野敬二さんのライブに相当面食らって体調悪くなりながらも食らいついて、翌週のワンマンライブも一人で観に行ってたり、そういう様子を見ていて、俺らも初心を思い出してる。ああ、こうやってバンドは再生していくんだなと実感しています。
ーバンドメンバーが変わる、という出来事は残されたメンバーにとってどんな変化をもたらすものなんでしょうか。
よく片腕を失う、みたいな言い方をしますが、まさにそう思います。昨年脱退したカルロスは、自分やバンド全体が迷ったときに根拠なく「こっちがええやん」と言ってくれる灯台のような存在だった。そんな彼に救われていたし、それによって作れていた足場があった。まあ、本当に言うだけで実働はしないやつなんですが(笑)。実働しないからこそ強気で。それで成り立っているバランスってあったんですよね。外側からは見えにくいかもしれないけど、自分はそういうところで頼りにしていた。
でも同時に、本当に必要な人とは必要なときに出会えるようになっていることもわかっていて。その時代時代で入れ代り立ち代りをくり返して生きていくものなんだろうと。今回の映画もそうなんですが、そのサイクルの果てに佐内(正史)さんや森山(未來)さんに出会ったんだと思うと、違った角度で現状を肯定できる。
自分たちの場合は空いた穴を理屈で埋め合わせないようにしていて。ベーシスト選びもオーディションでプロの上手い人もたくさん来たんですが、自分たちにいま足りないものはなんなのかを頭で考えずに、ちゃんと風に吹かれて風に委ねる。そうすることで本当に必要な人に出会えてきてると思っているから。それは今回の映画のキャストのオーディションでも大切にしてる当て感なんですよね。
ー映画『i ai』は別れや喪失がテーマの映画になるとのことですが。
自分のことを振り返ってみると、ずっと死や別れみたいなものの存在に追いかけられているという意識があって、そういう歌を歌ってきたんだと思うんです。言い方を変えると、生きるということに追いかけられているとも言える。
身近な話で言えば、カルロスの脱退は自分にとって大きな別れだったけど、日常には色々なさようならがあって、特に今の時代は考え方や認識のズレが可視化されやすくて、それによって人と疎遠になってしまったりする。大小のさよならが日常的にすごい速度で駆け巡っている。それとどう付き合っていくのか、ということはこれからを生きていく上ですごく大切だと思う。
じゃあ別れってただただ悲しいものでしかないのか。そんなわけがないだろうっていう抗いがこの映画で挑戦したいことなのかもしれません。ストーリーはあるバンドのひと夏の物語なんですけど、そこに今日的なテーマを映し出していきたい。僕がなにか答えを持っているわけではなくて、制作側にも観客側にも「さよならってどう思う?」ということを一緒に迷って、そこに浮かび上がってくるものをつかんでもらいたい。森山未來さんにもそういうことを伝えてオファーをしました。