ジョージ・ミラー
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インタビュー:ジョージ・ミラー

何千年にもわたって語り継がれる多文化的な物語を映画化、「アラビアンナイト 三千年の願い」製作について

Mari Hiratsuka
テキスト:: Matt Schley
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タイムアウト東京 > 映画 > インタビュー:ジョージ・ミラー

瓶の中のジン(魔人)を見つけるとどうなるか、誰もが知っていることだろう。願いを3つ叶えてもらい、その代わりにジンは自由を手に入れるのだ。しかし、ジンを見つけた人に願いがなければどうなるだろう? そのうえ、仕事で神話の研究をしていて、ほとんどの願いが意図したとおりにならないことをよく知っているとしたら?

2023年2月23日(木)に日本で公開される、イドリス・エルバ(Idris Elba)とティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)主演の新作「アラビアンナイト 三千年の願い」は、そんな前提で作られた作品である。本作を手がけたのは、「ベイブ」や「ハッピーフィート」、そして「マッドマックス」全4作など、多彩なキャリアを持つオーストラリア人監督のジョージ・ミラーだ。

現在、シドニーで「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のスピンオフ作品「フュリオサ」を編集中のミラーに、「三千年の願い」、日本への思い、そして「フュリオサ」について話を聞いた。

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── 「三千年の願い」は、A.S.バイアットの「The Djinn in the Nightingale’s Eye」という短編小説を原作としています。いつ頃この作品に出合い、どのような印象を持たれましたか?

1990年代後半に出合いました。A.S.バイアットは、自分が話した童話を集めたアンソロジーを出版していました。彼女は文学の研究者で純粋に学問として文学に取り組んでいるのですが、物語や語りへの関心も強く、「アラビアンナイト」の大ファンであったことから、大人のおとぎ話をいくつか書いたのです。

原作を読んだ瞬間に、物語に引き込まれました。彼女は、なぜ私が他の作品ではなくこの物語に引かれるのかと聞いてきました。私は「本物だと感じたから」と答えました。すると彼女は、「それはきっと、この物語に登場するジン以外のすべてが事実だからなのでしょう」と言ったんです。実際に彼女は物語学の研究者として、(物語と同じように)イスタンブールの学会に行っていましたし。 彼女が興味を持ったことは、すべて私と大きく共鳴するものでした。

例えば、登場人物たちの相反する性質。アリシア(ティルダ・スウィントン)は、理性的な人物で、ジン(イドリス・エルバ)は感情に突き動かされるタイプです。アリシアには寿命がありますが、ジンは事実上不死身です。

また、欲望や愛の本質を見つめることができる物語でもあり、物語を語ることについての、そして、なぜ私たちは物語を語り、それが私たちにどのような働きかけをするのかについての物語でもありました。こういったことすべてが、私にはたまらなく魅力的だったのです。

惑星直列のように条件と機会が揃ったら

──最初に原作を読んだのは90年代とのことですが、なぜ今製作に至ったのでしょう? 技術が進歩するのを待った、ということでしょうか?

技術的な問題ではありません。これまで中断したり、再開したりしながら取り組んできたことの一つだった、ということです。 「デス・ロード」を作るつもりだった時期があり、それが頓挫して「ハッピーフィート」に飛びつき、また「デス・ロード」が盛り上がってきて、どうしても作りたくなったんです。

その後、途中の挫折を経て、ようやく「デス・ロード」を作ったら、(「三千年の願い」の)キャスティングと資金調達が可能になったということです。よくあることです。映画製作とはそういうものなのです。

──映画が作られるということは、何というか奇跡のようなものですね。

ええ、いろいろな意味でそうだと思います。興味深いことに、それはダーウィンの言う自然淘汰のようなものなのです。頭の中でいろいろな物語が私に注目してもらおうと争い、勝ち残ったものに対して「そうだ。今、一番伝えたいのはこれなのだ」と私が言うわけです。

というわけで、「デス・ロード」は淘汰されなかった。棒で叩いても消滅させることはできなかった。「三千年の願い」も同じです。語るにふさわしい物語ならば、それは残り続け、惑星直列のように条件と機会が揃ったときにそれを語る作業に取り掛かることができるのです。

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何千年にもわたって発展してきた、多文化的な物語

──多くの人は、ジンや精霊の物語というと、ディズニーの「アラジン」を思い浮かべます。本作では、ジンの見た目や雰囲気はかなり違いますね。自分なりのジンを作ることが重要だったのでしょうか?

私たちが目にする「アラジン」は、本来アラビアの物語をヨーロッパ風にアレンジしたものですが、基本的には、アジア、インド亜大陸からアラビア世界に入り、スペインやヨーロッパに至る大きな交易路で何千年にもわたって発展してきた、多文化的な物語なのです。ヨーロッパでは「アラビアンナイト」と呼ばれるこの物語は、「千夜一夜物語」としても知られ、現在のコーヒーハウスに相当するような場所で何千人もの語り手によって語られながら、進化してきました。

言ってみれば今日の連続ドラマを観ていくようなものです。店に入ると、誰かが物語を語る。そして、続きが気になるような場面で必ず「次回へ続く」となるので、次の晩にまた来ることになる。実際、最高の語り手になると、続きを聞かせてくれと店の外までお客さんが追いかけてくるそうです。

だから、そういう物語は進化していき、私たちは自身のバージョンの物語を語っているに過ぎないのです。ディズニーの「アラジン」でロビン・ウィリアムズが声を担当した青い精霊は、とても素晴らしかったですね。あれもひとつの解釈です。また、私の大好きな映画のひとつ「バグダッドの盗賊」の解釈もあります。1940年代に当時の特殊効果であのようなことができたのは、驚くべきことだと思います。 

「マッドマックス」の第1作で初めて日本を訪れた

──多くのファンが本作の公開を待っています。今回、来日は叶いませんでしたが、前回来日した際の日本の印象や楽しんだことについて教えてください。

日本の文化には常に強い印象を受けてきました。日本には脈々と流れている力強い文化があり、それは私に大きな影響を与えてきたのです。 私はシドニー・ハーバーに住んでいますが、(先の大戦で)日本の潜水艦が実際に港を攻撃してきたとか、一機の飛行機が港の奥まで飛んで来たとか、驚いてしまうような話が今でも語り継がれています。そういった話から、私が初めて日本文化の中に入っていった経験に至るまで、すべてが私に影響を与えているのです。

我が家を日本風に改装してくれたオーストラリア人の有名建築家は、日本に留学しており、日本文化の影響の大きさを実感しました。

そして、「マッドマックス」の第1作で初めて日本を訪れたときには、私自身が理解していなかったことまで、日本のみなさんがこの映画の本質を相当に理解されていることを知りました。この映画の価値を認めてくれていたのです。

このように、日本は日本映画も含めて今も私に影響を与え続けています。

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新作「フュリオサ」は15年に及ぶ物語

──もちろん日本には「マッドマックス」のファンがたくさんいます。「フュリオサ」の公開を楽しみにしている人も多いです。今は編集中ですよね。どんな感じですか?

いい感じです。編集を楽しんでいます。荒れた天候とコロナ禍にもかかわらず、とても安全で良い撮影ができました。スタッフ、キャストに恵まれ、出来上がったものには本当に満足しています。後は、すべてがどう組み合わされるのか、楽しみにしていてください。

──「マッドマックス」の4作品は、同じシリーズでありながら、どれも独特です。「フュリオサ」はどう表現しましたか?

「デス・ロード」の前日譚ですので、共通する部分も多いです。異なっているのは、「デス・ロード」は3日間という時間枠の中で、登場人物の生い立ちなど、舞台となった世界の背後にある物語を拾い集めなければならなかったことです。

それに対して「フュリオサ」は15年に及ぶ物語となっています。いわば、長編の英雄譚です。 ですから、「フュリオサ」にはそれ独自の特徴があります。ただし、「デス・ロード」との結び付きはとても強いと言えます。

映画「アラビアンナイト 三千年の願い

2023年2月23日(木・祝)全国公開

監督:ジョージ・ミラー
撮影: ジョン・シール
出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントンほか

2022年製作/108分/PG12/オーストラリア・アメリカ合作
原題:Three Thousand Years of Longing
配給:キノフィルムズ

(C)2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

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