アオイヤマダ
Photo: Kisa Toyoshima
Photo: Kisa Toyoshima

インタビュー:アオイヤマダの目に映る鮮やかな日常

日本のトップクリエーター6人から成るクリエーティブコレクティブ「海老坐禅」が魅せる風景

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テキスト:岸本麻衣

「東京2020オリンピック」の閉会式でのソロパフォーマンスが話題となり、身体表現のみならず俳優や音楽制作など、活動の幅を広げて活躍するアオイヤマダ。彼女が属するクリエーティブコレクティブ「海老坐禅」が、初の作品集『EBIZAZEN』を刊行するに当たり、「PARCO MUSEUM TOKYO(パルコミュージアムトーキョー)」で展覧会「海老坐禅展」を開催する。

「海老坐禅」が写す世界は、一見とても独創的な絵画のようで、よく見れば私たちが日ごろ目にしている風景がベースとなっている作品も多くある。彼らの作品づくりはどのようにして行われているのだろうか。

「海老坐禅」のミューズとして輝くアオイヤマダに、制作において大切にしていることを尋ねると、そこには、人や土地といった周囲への感謝と、「海老坐禅」ならではの日常をより楽しむ視点があった。

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ー2019年に結成して、ある種の集大成となる今回の展覧会を迎えて、今のお気持ちは?

アオイヤマダ:すごくうれしいです。「海老坐禅」の活動は私にとってライフワークであり、生活の一部でもあります。だから、これまでの作品がこうして並んでいるのは感慨深いですし、パルコ出版さんからお声がけいただいた縁で作品集まで完成して、涙が出そうなくらいです。

私は子どものころから、言語化はできないけど表現したいこと、やりたいことが強くあって。うまく言語化できないもどかしさがある中で、「海老坐禅」のチームメンバーとはそれが言葉ではない部分で合致して、さらに作品として視覚化できる喜びがあります。

アオイヤマダ
Photo: Kisa Toyoshima

ー先ほどシューティングの様子を拝見して、「海老坐禅」のメンバーからものづくりをとことん楽しむ空気を感じました。

アオイヤマダ:心地いいです。ちょっと大げさかもしれないけど、生きがいも感じています。世の中つい意味を求めがちですけど、「海老坐禅」は中ぶらりんでいることの必要性を表現できるチームだと思います。

失敗のないクリエーティブの世界

ーこれまでの活動で印象に残っていることは何ですか?

アオイヤマダ:設定や環境をかっちりと決め込んで撮影に挑むこともある一方で、「海老坐禅」は偶然を拾い集めるのが得意です。これまでの撮影でも、それまで曇っていた空に数秒だけ光が差したわずかな時間を捉えたり、まったく降っていなかった雪が撮影と同時に降り始めて雪景色を映したり、ということがありました。そういった偶然の自然現象に助けられて神秘的なものが撮れることがありますね。

そうした瞬間はやっぱり印象に残っています。だから、チームメンバーだけでなく環境に頼ることも大切にしています。

アオイヤマダ
photo: kısa Toyoshima

ーそこで起きたことを楽しむスタイルは「海老坐禅」ならではの強みですね。そういった点では、失敗はあまりないですか?

アオイヤマダ:別に失敗を失敗と思っていないかも。だって、見方によっては全部失敗かもしれないし。そういうことは誰も気にしていないですね。

少し話は逸れますけど、チームメンバーの(河野)未彩さんから教えてもらったことで、オマールエビに寿命がないって話がすごく面白くて。オマールエビは生涯を通して細胞分裂できる回数が無限なんだそうです。だから、理論上では不老不死といわれていて。

ただ、脱皮不全を起こしたり、脱皮して大きくなる体に食料が追いつかなくなったりして、死んでしまうことが多いみたいです。自分をよりよくするため成長のはずが、その過程で命が尽きてしまう。そこに哲学的なものを未彩さんは感じる、って言うんです。

私は、そういうオマールエビのはかなさを魅力的に思っていて、さらに共感する部分もあります。自分のことを高めようとするけど、その気持ちが強いあまり急に折れてしまう。答えのないクリエーティブな仕事には、そういう瞬間があると思うんです。そこに共感しますね。

アオイヤマダ
Photo: Kisa Toyoshima

アオイヤマダとして、「海老坐禅」として

ー確かに、クリエーティブの仕事に明確な答えはないかもしれませんね。アオイヤマダとしての表現と、「海老坐禅」としての表現には、どのような違いがありますか?

アオイヤマダ:違いはないと思います。アオイヤマダがやりたかったことが、「海老坐禅」で実現しています。それで言うと、パフォーマンスするときも、音楽を作るときも、お弁当を作るときも、使っている感覚は同じですね。全てが日常の延長線上にあります。

「海老坐禅」のメンバーと歩いていると、それまで当たり前に受け入れていた日常の面白さに気付かされるんですよ。「この色かわいくない?」「この形、面白くない?」とみんなのアンテナがあちこちに引っかかるので、それを面白がっているうちに、そのまま作品撮りにつながることがあります。

私の地元である長野県松本市を歩いたときは、私にとっては見慣れた風景の一つだったオブジェや畑が撮影地になりました。

アオイヤマダ
Photo: Kisa Toyoshima

ー誰かの日常が作品になっているわけですね。

アオイヤマダ:「三九郎(*1)」は私が小さいころからずっと参加している行事で、実際に地域で「三九郎」が行われているところにお邪魔して、作品を撮らせてもらいました。こうして改めて見てみると、いい行事だなと思いますね。

これまでの作品は、やっぱり土地の力もそうですし、その場を作ってくれた人たちの力なくしては生まれなかったと思います。自分たちの思いだけで生まれた作品じゃないからこそ、奇跡に近いものを感じます。

(*1)長野県松本市周辺に伝わる小正月の地域行事。正月に飾り付けた飾り物を円すい形に積み上げて燃やし、無病息災を願う

アオイヤマダ
Photo: Kisa Toyoshima

別の角度から見る日常

ー「アオイヤマダ」として、そして「海老坐禅」として、今後の展望を教えてください。

アオイヤマダ:私一人ではできなかったことが、「海老坐禅」として形になりました。ぜひこれまでの作品をご覧いただいて、作品集も手に取ってもらえたら。

私たちは、自分たちの生きる楽しみを見つけるために作品を作っています。それが皆さんにも響いたらうれしいですし、「アオイヤマダ」や「海老坐禅」の作品がきっかけとなって、皆さんにも日常をより楽しく感じてもらえたらと思います。

その瞬間瞬間で最高傑作がアップデートされていくチームなので、これからも、別の角度から見る日常をお届けしたいです。

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海老坐禅
Photo: Kisa Toyoshima

「海老坐禅」のグループLINEでは、アイデアが活発に飛び交い、しばらくスマートフォンを見ないうちに未読のメッセージが100件に上ることもあるそうだ。しかし、時期やテーマに沿って次第にアイデアはまとまっていき、撮影時には一つの世界観が出来上がる。遊び心と絵画のような美しさが両立することもまた、「海老坐禅」の魅力なのだろう。

インタビューの直前、アオイヤマダはチームメンバーとともに展覧会場内でシューティングを行っていた。自由な制作だからこその明るい雰囲気で、撮影は進んでいく。何カットか撮り終えた後、アオイヤマダがおもむろに「撮っているうちに裾が上がってきてしまう」と、着崩れする衣装についてチームメンバーに相談していた。

自由なものづくりにおいても完成度を求める、トップクリエーターとしての顔を垣間見た。

私たちがよく見ている風景が、「海老坐禅」の目を通して鮮やかに編み直される。全身でその世界を表現するアオイヤマダが、次に立つのはどのような「日常」だろうか。

海老坐禅
Photo: Kisa Toyoshima作品集が積み上げられたエントランス

海老坐禅

2019年ごろからスタートしたクリエーティブコレクティブ。メンバー構成は、アオイヤマダ(パフォーマンス)、河野未彩(アートディレクション)、磯部昭子(撮影)、冨沢ノボル(ヘア&メイクアップ)、二宮ちえ(スタイリング)、Oi-chan(ワッショイ)。​ アオイヤマダをミューズとし、互いの創造に対する趣向にシンパシーを感じて約6年間、「作品創り」と称するシューティングを定期的に行ってきた。非営利であるがゆえに、それぞれの「やりたい」を最大限に生かし、それぞれのアイデアや技術を自由に発揮。クライアントワークではない撮影だからこそできるブレーキのない制作により、斬新で新鮮な「海老坐禅」にしか表せない作品を生み出している。

Writer

岸本麻衣
インタビュアー、書籍の編集補助、現代アートのコーディネーターといくつかのわらじを履いて歩くフリーランス。仕事のかたわら、働く人を紹介するフリーペーパー「あのつく人」を刊行中。あらゆる「働く」を見つめつづけています。

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