テントという不思議な空間で
―まさか、勘九郎さんがテント公演に出演する日が来るとは、と驚いています。
僕も夢のようです。父が19歳の時に紅テント公演を見て衝撃を受け、それがきっかけで「平成中村座」という僕らの宝物ができた。その原点とも言うべきテントに、しかも父の十三回忌の年に出演できるわけですから、感慨深いですね。一番の追善になるんじゃないでしょうか。
―どういう経緯から、このタイミングでの実現となったのでしょう?
本当に偶然なんです。2年前、六平(直政)さんが「新宿梁山泊」に久々に出るということで「下谷万年町物語」(唐十郎作)を観に行き、終わってからみんなでテントで飲みながら「いつかやりたい」とお話ししたら、次の日に(寺島)しのぶさんと豊川(悦司)さんが観に来て同じ話になったそうで、「公演、決まったよ」と(笑)。やっぱり運というか、縁ですよね。
その後、先月には唐さんが亡くなられたので、追悼公演にもなってしまいました。本当を言うと、観ていただきたかったんですけれども。
―唐さんとは面識があったのでしょうか?
僕自身はほとんどないのですが、父は親交があり、子どもの頃にテント公演にも何度か連れていってもらったので、もしかしたらその時にお会いしていたかもしれません。テントにぎゅうぎゅう詰めで座って、ワクワクしながら観た記憶があります。やっぱり、子ども心に衝撃でしたよ。本当に不思議な空間で、芝居の世界に引きずり込まれるような感覚があって。楽しかったし、すごいと思ったのを覚えています。
―何もなかった場所にテントを建てて公演する。その感覚は「平成中村座」でもご経験済みですね。
「平成中村座」の公演が終わったあと、よく地元の人たちが、「今、こんな感じです」とLINEで跡地の写真を送ってくれるんですよ。公演中はすごい熱気でわーっと盛り上がっていたのに、終わった翌日か翌々日にはもう小屋が跡形もなくなっていて、普通の神社の境内や公園やお城の広場などになっている。祭りの後みたいなはかなさは似ていますよね。
―今回、テントを建てるのにも参加されますか?
どうなんでしょう?その期間の稽古は休みで、若手の出演者たちがみんなで建てるそうなので、僕も見に行けたらとは思っています。