すみだ北斎美術館を知る6のこと

世界的に有名な浮世絵師の北斎、開催中の企画展、周辺のおすすめスポットなどを紹介
Sumida Hokusai Museum Credit: Photo: Yosuke Owashi
Written by Time Out Tokyo. Paid for by 日本博
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2020年には、日本博をはじめとする誇るべきカルチャーを大規模に発信する機会が数多く用意されている。その中から、今年ぜひ訪れてほしいヴェニューとしてすみだ北斎美術館を取り上げたい。

葛飾北斎は19世紀以降、日本だけでなく、世界的にも著名な浮世絵師として知られてきた。その北斎が生涯のほとんどを過ごした地がすみだだ。そこに位置する同館は、国内有数の北斎コレクションを所蔵する美術館として2016年にオープン。以来、数々の意義深い展覧会を開催してきた。以下では、すみだ北斎美術館について知っておきたいことを紹介していこう。

1. 絵画は手で鑑賞する。

まずは、この美術館の個性的なAURORA(常設展示室)を見てみよう。AURORAは、『すみだと北斎』にはじまり、『習作の時代』から『肉筆画の時代』まで、北斎が使用した主な画号に従って7つのエリアに分けられる。

画号とは、画家が作品を制作するときに用いるアカウント名のようなものだ。それぞれのエリアで、各時期の代表作の実物大高精細レプリカがエピソードを交えて展示されているので、パネルだけで北斎の生涯を知ることができる。ほかにも、北斎の弟子たちが作画の際に参考にした図版集でもある『北斎漫画』などの絵手本を、タッチパネルモニターで紹介する『北斎絵手本大図鑑』では、「見る」「習う」「遊ぶ」のカテゴリーに従って、『北斎漫画』をなぞって描いたり絵手本をめくったりできる。

一人の浮世絵師の業績を一つの部屋で通覧し、作品を実際に手にするかのようなバーチャル体験ができるのはすみだ北斎美術館ならでは。一度にまとめて展示したり、触れたりできない貴重な実物は、デジタル技術でそのぜいたくな体験を楽しもう。

2. 100年ぶりに再会する。

すみだ北斎美術館が所蔵する作品のうち、何といっても見逃せないのは、『隅田川両岸景色図巻』。この作品は1902年に海外流出し、100年以上所在不明となっていたために幻の作品ともいわれていたが、2015年に墨田区が区内から寄せられた寄付金によって約1億5千万円で購入して話題となった。

北斎数え46歳ごろの作品とされ、全長約7メートルの長さは、北斎の作品でも最長サイズといわれる。画面には、浅草寺や両国橋など隅田川両岸の名所と新吉原での遊興の様子が描かれる。特筆すべきは、隅田川の水面に映る岸辺や船、橋などで簡略な筆遣いながら西洋の陰影法を取り入れた成果が発揮されている。100年以上も秘匿されていた里帰り品だけに、昨日描かれたばかりのような保存状態の良さだ。

ほかにも、シリーズの現存自体が希少な『すみだかは』や長らく全図が未確認であったが、同館が8図全図を取得して、初めてシリーズの全貌が判明した『風流隅田川八景』など、墨田にゆかりのある貴重な作品も同館でこそ見ることができる作品が多数ある。

※展示作品は展覧会により異なる

3. 世界一美しい北斎を見る。

もう一つ、この美術館が所蔵する作品の白眉を見ておきたい。『冨嶽三十六景 武州玉川』だ。版画は同じ版木から摺(す)られていても、いつ摺られたかで作品の希少性が異なるもの。すみだ北斎美術館所蔵の『武州玉川』は、世界中の摺りの状態の良い北斎作品を集めた1991年のロンドンの展覧会で図録表紙を飾ったほど状態が良い。この版画でこの作品より早い時期に摺られた作例は世界中探しても現存しないとされるほどなのだ。川面の波はエンボス加工にも似た空摺(からずり)という技法で表されており、近くで見たときの美しさは忘れられないだろう。

この作品は、北斎に生涯を捧げたピーター・モースの旧蔵品だ。モースは、北斎のカタログレゾネの作成を試みるなど研究者として精力的に活動し、彼の北斎コレクションも世界最大級の規模と質の高さで知られていた。本作品だけでも、一つの版画のさまざまなステートや完全な保存状態の作品を集めようというモースの研究者気質が伝わってくる。 

ここで紹介した作品は企画展の内容に応じて公開されるので、いつでも見られるとは限らない。企画展の出品リストをチェックして、見逃すことがないように準備しておきたい。

4. 今から師弟対決を見に行く。

現在、日本博では総合テーマ「日本人と自然」のもとで、縄文から現代までのさまざまな「日本の美」を体感するさまざまな公演や展覧会、芸術祭を全国各地で行っている

その一つ『北斎師弟対決!』が同館で開催中だ。この展覧会では、北斎と弟子が同じテーマで描いた作品を展示し、両者を比較する中でそれぞれの画風の特徴や影響関係を検証する。

孫弟子を含めると200人にも登ったという北斎の弟子たち。その中からすみだ北斎美術館所蔵の20人の弟子たちの作品を選び、北斎の作品ととともに前後期合わせて約100点を展示する。

「人物」「風景」「動物」「エトセトラ」の4章構成となっており、北斎の弟子をめぐる研究史や日英対訳パネル(一部)など、鑑賞者の理解を助けるツールも充実している。同館内には図書室もあるので、気になる浮世絵師がいたら、さらに調べてみるのも良いだろう。2020年45日(日)まで開催。

北斎は、後世まで大きな影響を与え続けてきたため、虚実入り混じった数多くのイメージが生み出されてきた。それだけに、作品だけではない魅力がこの美術館とその周辺にはあふれている。本展覧会のほかにも、一年を通してさまざまな企画展を開催しているので、自分なりの北斎のイメージをつかんでみてはどうだろうか。

5. 現代建築から下町を知る。

一般に美術館は、その建築にも趣向が凝らされている。すみだ北斎美術館も例外ではない。離れていてもすぐに分かる印象的な外観は、妹島和世の設計だ。妹島は、2010年のベネチアビエンナーレ国際建築展ディレクターを務めた世界的な建築家で、すみだ北斎美術館は2018年の第59回BCS賞を受賞した。

この建築の特徴の一つは、外壁に施された鏡面アルミパネルだろう。外壁の緩やかな変化に対応して面をずらして角度をつけてあり、そこに映し出された周囲の景色が鏡面に沿って揺らぐような効果を生み出している。

そのように細かく計算されながら、この建物が下町という環境の中にあって違和感がないのは、周囲の居住環境やプライバシーに配慮して表面の反射率がコントロールされているからだが、それ以上に建物のスケールが周囲の建物に合わせるように設計されているからでもある。地上4階建てとは思えない収まりの良さだが、4階のスリットのガラス部分は展望ラウンジの開口部になっており、スカイツリーも望むことができる。

立地にも意味がある。この美術館の敷地は江戸時代に弘前藩津軽家の大名屋敷で、北斎は、この津軽藩主の依頼で屏風(びょうぶ)に馬の絵を描いたという。この美術館自体が北斎ゆかりの地でもあり、この場所にあるべくしてある建築とも言えるだろう。

6. 北斎を訪ね歩く。

北斎の作品を堪能した後は、館外に出て、北斎ゆかりの地を巡ってみよう。北斎は本所割下水付近(現在の墨田区亀沢付近)に生まれ、生涯に93回も引っ越したとされながら、そのほとんどは墨田区内の範囲で過ごした。そのため、墨田区には北斎やその作品に関連したイベントやヴェニューが豊富にある。

まずは、すみだ北斎美術館の隣接する公園に面する北斎通りを歩いてみる。この通りは、北斎が生まれた本所割下水跡であることから命名。毎年秋には、ここで北斎祭りが開催されている。

北斎が120畳近くの大きさの紙の上に絵を描くというパフォーマンスを行った回向院を訪れるのも面白いだろう。回向院の近くにあって『隅田川両岸景色図巻』や『冨嶽三十六景』にも描かれている両国橋、先祖が吉良方の小林平八郎であったと自称した北斎にとってはきっと懐かしかった吉良邸跡などもおすすめだ。

見るのに疲れたら、食に走るのもよい。北斎の伝記を著した飯島虚心によれば、北斎は大変な甘党で、北斎への訪問客は大福などを持参したという。そういうわけで、北斎が泉下の客となった今も、我々は北斎にちなんだスイーツを味わうことができるのだ。北斎通り沿いにある『北斎茶房』で、名物のわらび餅を味わってみてもいい。

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国技館もあることから、相撲の街と呼ばれる両国。街中には相撲部屋が点在し、力士が行き交う光景が日常だ。江戸時代に歓楽街として栄えた名残もあり、1718年創業の猪肉料理専門店をはじめとする老舗料理店や、旧両国国技館が建設されるまで勧進相撲が行われていた回向院など歴史的な見どころも多い。2016年には、北斎美術館や両国江戸Norenなど街の魅力を伝える施設がオープンし、2020年の東京オリンピックには国技館がボクシング会場として使われる。本記事では、徐々に変化する両国の今を感じさせる旬の店から、この地で長く愛される老舗までを紹介する。
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