再定義されるDJバー

「間違いない店」の作り方と新店の展望を有泉正明が語る

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インバウンド需要の高まりや風営法の改正も影響して、都内を中心に新しいDJバーが2016年前後から多くオープンしている。

昨今人気のDJバーは、クラブ並みのハイクオリティーなサウンドシステムを備えながら、カウンターやボックス席に座って音楽に聴き入ってもいい、踊りたくなればフロアに繰り出せばいい、という多様な使い方とぜいたくな体験ができることで、幅広い客層を引き込んでいる。

新旧多くのDJバーが存在している渋谷では、2019年にも東間屋翠月といったDJバーが新たに誕生し、いずれも連日にぎわいを見せている。

このちょっとしたDJバーブームの先駆けにとなったといわれているのが、2014年に渋谷にオープンしたブリッジ(DJ Bar Bridge)だ。

平日休日を問わず混み合うブリッジの客層は、音楽好きや業界人、クリエイター、外国人観光客にサラリーマンなど雑多であることが特徴的だ。コミュニティーが細分化している現在の東京では、こうしたカオスでエネルギッシュな雰囲気を作ることは意外と難しい。さまざまな目的、テンションでやってくる客たちが皆、いつ来ても「間違いない」と思える稀有な店なのだ。

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Happy New Year 2020 @ Bridge Shibuya 今年もよろしくお願いします🥺 #toshiyukigoto #djbarbridge

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2019年末、そんな同店の店長を務める有泉正明が手がける新たなDJバー ハート(Heart)が、新宿二丁目にオープンした。

有泉は日本のクラブシーン黎明期である1980年代から、青山ミックス、西麻布P.ピカソ、西麻布イエロー、新木場アゲハなど数々のクラブで店長を務めてきた人物である。東京のクラブシーンが最も盛り上がっていた時代を経て、現在はDJバーというスタイルで新たなスタンダードを提示する彼が、新宿という新天地でどのような店を構想しているのか。豪快な人柄の裏に隠された、経験則に裏付けられた店作りの秘訣とともに話を聞いた。

テキスト:三木邦洋

店自体に客をつける

そもそもDJバーとはなにか。踊ることができるスペースもあり、明け方まで営業している店も多いので、はた目には小箱クラブとどう違うのか、分かりにくい部分もある。法的には、敷地面積や店の構造などで業態が分けられるのだが、クラブ営業ができる許可を取りながら、DJバーとして営業している店もある。

ブリッジの営業スタイルは、先述したような後続の店にも踏襲されていて、クラブ好きも楽しめ、かつクラブよりも気軽で間口が広い店=DJバーの基本ルールになりつつある。

特に特徴的な部分は、「エントランス(チャージ)料金が固定されていて、1,000円前後とクラブよりも安く」「平日も毎日DJが入り」「ローカルのDJを中心にブッキングする」ことだろう。

有泉がブリッジで固めたこの営業スタイルは、どのような背景で生まれたのか。

「大人の遊び場を作りたい、という構想がまずありました。そして、イベントで集客するのではなく、お店自体にお客さんがつくようなやり方にしたかった。

そのためには、いつ行っても1,000円で入れて、お酒がおいしくて、店がきれいで、気持ちのいいスタッフがいる店にする。音楽も、一度来たお客さんがリピートしてくれた時にも満足できるよう、その店らしさが出るようにコントロールする。それを続けていくうちに、お客さんとの信頼関係が築くことができたのがブリッジ。曜日ごとにレギュラーを置いたDJのメンツも、オープン当初からほぼ変わっていません」

DJをただ出演者として扱うのではなく、ともに店の個性を作り上げていく仲間として捉える。どこか、かつてのライブハウスとバンドが運命を分かち合っていた時代のあり方にも似ている。多くのクラブを手がけていた有泉だからこそ、「店に客をつける」ことの難しさと大切さ、そして面白さを知っているのだろう。

あえて接客を重視する

有泉の店づくりは、マネジメントやプロデュースの面でも独自のこだわりがある。

「雑多なお客さんが集まって、リピートしてもらうためには、誘引ポイントをいくつも用意することが必要です。

音響には最大限こだわること、目玉になるようなドリンクメニューを作ること。ブリッジは『自家製ジンジャーエールのモスコミュール』がヒットして、あの規模の店にもかかわらず、いつもアゲハなどの大箱と同量のウォッカを消費してるんです。ハートでは、『自家製ほうじ茶ハイボール』や薬酒など、新たなメニューを展開しています。

『自家製ほうじ茶ハイボール』(左)、『星子ソーダ』(右)

あとはスタッフの接客です。クラブやDJバーのスタッフは無愛想なくらいでいい、丁寧な接客は求めないという風潮もありますけど、だからこそそこを求める。うちもまだまだできていませんが、どういうつもりでお店に立つのか、という意識の部分は常に彼らに問いかけてます。お客さんに楽しんでもらうことが我々の仕事なんだよと。

うちは見た目こそ派手なやつが多いですが、そういういろいろなキャラクターを持つスタッフたちが、キビキビといい仕事をする。クールに作業していても、テーブルに来るときはフレンドリーであるべきだと思いますし、それがまた誘引ポイントになります。

レストランなら、料理で、お酒で、接客でお客さんを満足させようと考えますよね。いらっしゃいませから始まって、マニュアルに沿った接客をする。マニュアルなんて、と毛嫌いする人も多い業界ですが、クラブやDJバーもそれは同じ、というのが、昔から変わらない僕のやり方です。マニュアルがあることで、スタッフ同士の信頼関係が築かれるんです。

僕は下積み時代に、宮森博幸さんという初期のすかいらーくで書記長まで務めていた方が経営していたカフェバーで働いていたことがあるんです。スタッフの教育などは厳しくやりながらも、力の抜けた良い雰囲気の店を作るためのマネジメントのイロハは、彼から学んだものです」

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新天地、新宿

音楽というコンテンツの魅力に寄りかかることなく、いち飲食店として勝負できる環境を用意する。新店のハートでは、そのノウハウをさらに応用した店づくりを行っているという。

「新宿という地については、以前から社長(グローバル・ハーツ社 代表取締役 村田大造)は目を付けていた。今の新宿にはこういった類いの店がない上に、行き交う人は多いですから。新宿は、かつてはリキッドルームがあり、私がやっていたカタリスト、さらに古くは第三倉庫やミロスガレージなんかもあった。ツバキハウスや歌舞伎町のディスコカルチャーもありましたけど、いつのまにかカルチャーごとなくなりましたよね。

ゲイタウンである二丁目の外れに店はありますが、ゲイの人だけでなく新宿で働くアパレル店員も、ブリッジのお客さんも、誰もが混ざって楽しめる店にしたいです」

DJの個性と店の個性が混ざるように

ベテランの大物DJが曜日ごとのレギュラーを担当するブリッジに比べて、ハートはそれぞれ月1〜2ペースのレギュラーを1カ月分組むというスタイルになっている。出演するDJも、若手、中堅、ベテランが入り混じり、ジャンルもディスコ、ハウス、テクノ、ヒップホップ、邦楽、ベースミュージックと幅広い。

DJの選曲にも店の個性が反映されているべきという哲学を貫いてきた有泉にとって、ここまで広範なブッキングをコントロールするのは、初めての経験だ。

「ブリッジではかつて、同じジャンルを30分以上続けないという条件をDJに提示していたこともありました。DJたちにはクラブでのプレイとは違うスタイルを求めています。『あの曲はここにいる全員が聴いてた』という瞬間が生まれるような、色々な音楽がかかる喜びを伝えたい。

ハートでは、レギュラーのDJが連れてきたゲストDJが、ラップトップしか見ないで用意してきたセットを披露するだけの『発表会』みたいなプレイをすることがたまにあります。DJも個性を打ち出して売り出していかなくてはいけないから、そういうスタイルがあることは理解しています。

それでも、クラブでは良くても、DJバーであるうちではダメだ、と言っています。まあ、それがよっぽど良いセットであれば盛り上がることもあるから、一概にダメとも言えないし、試行錯誤が必要な部分もありますが……」

東京の特に若手のDJたちは、ハイコンテクストで細分化されたシーンと向き合って個性を確立している。そうしたDJたちが、ハートという場をクラブとは異なる表現の場として可能性を見出し、うまく混ざり合うことができれば、新たな文化が生まれる場所になり得るかもしれない。

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奥にベッドを並べてリラックススペースに

有泉は、まずはハートを軌道に乗せることを目標にしながら、その先の展望も見据えている。

「セカンドフロアにする予定だったスペースに、ベッドを置きたいと思ってるんです。硬めのベッドを並べて、リラックスできる空間にしようかなと思ってる。寝ちゃダメだけど、イチャつくくらいならオッケーの場所ね。アムステルダムのサパークラブがまさにそんな感じだった。

ブリッジができて以降、DJバーを名乗る店が増えました。これは、酒屋さんが言ってたから間違いないと思う(笑)。なので、DJバーとはなんぞや、ということを我々が作っていく責任があるとも思っているんです。だれもが平等になれるサードプレイスとしてのDJバーのその中身を」

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