東京にピッツァブームが起こるはるか前から、柿沼進は見事な『マルゲリータ』と『マリナーラ』を次々と生み出してきた。決して若くはないこのシェフは、22年前におよそ一年をかけてイタリア国内のあらゆるピッツェリアを食べ歩き、帰国後に中目黒にサヴォイをオープン。姉妹店をオープンさせる一方、同店は聖林館と名前を改め、新しく生まれ変わった。
東京最高峰のピッツァはもちろん、内装のユニークさも特筆に値する。鍛鉄製の階段、ベルベットのカーテンと黒い床板が、壁に埋め込まれた焼却炉のようなオーブンの存在感をより強調させており、まるでスチームパンクなSFの世界に入り込んだような気分が味わえる。
アンティークのサウンドシステムからクラシックが流れる店内では、ピッツァは1枚きっかり60秒で焼き上げられる。だが、ここには教科書通りのマルゲリータはない。絶妙な味加減のトマトソース、モッツァレッラ、色鮮やかなフレッシュトマト、バジルとたっぷりのオリーブオイルが乗せられ、塩が均等に振りかけられている。生地は軽やかで、焼きたてのチャバタを思わせるようなテクスチャーで、かみしめるたびに鮮やかな味が口に広がっていく。
もちろん『マリナーラ』も絶品で、過剰なトッピングでごまかすことなく、限られた食材だけで勝負している。ピッツァメニューはこの2種のみ。しかし、よりバラエティーに富んだ食事をしたいのならば、パスタも試してほしい。