湯島天神そばにある江知勝の門をくぐると、まるで別の時代にタイムスリップしたような錯覚に陥るかもしれない。1871年に創業し、現在は6代目が店の伝統と信頼を受け継ぐ。再建や修復を繰り返しながら長年保存されてきた建物は、日本の美と簡潔さの象徴であり、おそらく原型と変わらない佇まいを残しているはずで、それだけでも一見の価値があるだろう。
石畳を歩いて見事な日本庭園を抜けて入口に辿り着くと、そこにはすでに特別な空間が広がっている。2〜8名向けの和室があり、全席完全個室。常にプライベートな空間で食事ができ、まるで自分たちが唯一のゲストであるかのように感じる。全室から美しい庭園を眺望でき、運が良ければカラフルな鯉が悠々と泳ぎまわる池も眺めることもできる。そこには静けさが流れ、自分がせわしない東京の都心にいることすら忘れてしまう。
江知勝の名物は、創業当初より変わらぬ味で提供されるすき焼き。各部屋に運ばれたすき焼き鍋で、A5ランクの松阪牛肉、豆腐、長葱、きのこ、しらたきなどを使用して作られる。割り下と呼ばれるスープは、醤油、日本酒、昆布、みりんなどを主に、代々伝わる秘伝の味が守られている。霜降りの肉は数秒で火が通るので、あまり長く煮込まずに、さっと溶いた卵にくぐらせて味わおう。その黒毛和牛肉が口の中でとろけるような感覚は、きっと他店では味わえないはずだ。