半蔵門にある割烹稲垣は、関西風、関東風、名古屋風の3種類のおでんを楽しめる欲張りな店だ。現在は、2代目が厨房を切り盛りしているが、先代の味を引き継いだおでんは今も健在。クリアな出汁であっさりした味わいの関西風、濃口醤油で風味付けした関東風、こっくりした赤味噌の名古屋風のいずれも甲乙つけがたいが、絶対に外せないのは名古屋風だ。なかでも、とろりと柔らかい口当たりの「牛すじ」、中まで味の染みた「こんにゃく」と「玉子」は絶品。白飯を頼み、牛すじとつゆをたっぷりかければ(行儀の悪さには目をつぶってもらうとして)、至福の時が訪れる。
だが、この店の魅力はおでんだけに留まらない。きっちりと塩をきかせ、レア感をほどよく残した締め加減の「〆さば」、甘辛く濃いめの味付けで酒が進む「いわし梅煮」、箸休めにちょうどいい「小松菜と油揚げの煮浸し」など、酒肴の充実さもうれしい。まずはビールとおでんをいくつか頼み、お品書きを片手にあれこれ悩むのが楽しい店だ。厨房の清潔さ、無駄な動きのない主人の仕事ぶり、てきぱき接客するスタッフなど店全体が気持ちいい。
関連記事
『東京、おでんの名店15選』