山本眞也シェフは、店の立地は店主の野望に相当するべきだと信じている。高級中華と和のフュージョン料理店を開く土地として選んだのは、最新の流行を生み出すようなエリアではなく荒木町だ。新宿区にある同エリアは300軒以上の飲食店が年配のサラリーマンの心と胃袋を奪い合う激戦区であり、シェフの気概を試すのには最適な土地なのだ。彼が作る料理に最も合うのは、酒好きのために取り揃えた豊富な酒のなかでも、やはり日本酒だ。飲酒とビジネスは、動的な結合という意味では同義かもしれない。
ランチでは油淋鶏などよく見かけるような定番メニューを提供するが、それに比べてディナーは誘惑的だ。夕方遅めに通りかかると入口に貼り出されたシンプルな紙には1万6,000円または2万3,000円、3万3,000円のおまかせコースが書かれている。
豪華なコースの一部を覗いてみると、四川省と福建省の料理2品が含まれる。『水煮肉片』は、ごま油と花椒が豊かに香るスープに、一口大に切った牛肉、大根、ごぼうを入れて煮込むことで、舌を圧倒するような刺激を抑えて芳醇な味になる。さらに、シェフがアレンジを加えた「仏陀の誘惑」を意味する『仏佛湯』は、仏さえも誘惑するような健康的な魅惑の言葉だ。スープに入る具材は、旬の松茸、銀杏、フカヒレ、牛スジなど。本来は大人数で取り分けて食べるように作られる料理だが、ここでは豊富な食材には妥協することなく、1人前の量に分けて提供している。