ミシュラン一つ星シェフ松嶋啓介プロデュースのレストラン。
松嶋啓介は、フランス・ニースにある自らの名前を冠したレストランでよく知られる。このレストランは「エコガストロ」をコンセプトに南仏・地中海料理を提供し、松嶋は若きチーフおよび経営者である。そして、店をオープンして1年もたたずに、二度目の一つ星を獲得した。若干28歳の外国人にしては悪くない経歴である。
30代前半の年齢となった松嶋は、原宿にRestaurant-Iをオープン、彼の原点へと回帰した。決して地理的な意味だけではない。彼自身はニースを拠点としたまま東京で新たな事業を手掛ける。表参道から少し歩き、由緒ある東郷神社の角を曲がると、彼がキャリアをスタートした渋谷のヴァンセーヌのほど近くにレストランがある。彼は料理のコンセプトは「東京らしさ」だと説明する。その料理の特徴は「上品さ」であり、食材は東京・関東近辺から仕入れているという。この点を強調するかのように、人参やトマトの水彩画が白い壁に飾られている。松嶋は、伝統的な日本料理にインターナショナルな味を付け加えるために、フレンチ、イタリアン、中華料理の調理法を使う。たとえば、岩のりのボンボン(岩のりの中に包まれた甘い団子)や、江戸風のマグロのマリネ漬け、などがそうである。テーブルに運ばれてきたミネラルウォーターのグラスでさえ東京産のものだとスタッフが自信を持って説明する。
また、スタイリッシュに髪を立てて髭を生やした松嶋が好きな別の言葉は、彼のエコガストロのコンセプトをアップデートした「エコリュクス」である。地元で穫れた有機栽培の食材を使用するのだ。オール電化でCO2排出ゼロのキッチンは、松嶋のパートナーであるエグゼクティブシェフの神保佳永が受け持つ。開店前のメニュー説明を聞くキッチンスタッフの活気ある笑顔の理由は、ここにもあるのかもしれない。
この「ラグジュアリーな」店舗はいかにもお金をかけましたという内装ではなく、むしろ落ち着いていて、緑に囲まれ、流線型のミニマルなインテリアからなっている。レストランを作るのにかかった年月と同じ、3年をかけて用意された地元のヒマラヤスギの梁が白い壁の印象を優しくしている。メインのダイニングルームは40席あり、床から天井まである窓からは、明治通りの買い物客からは隠れて、心休まる素晴らしい眺めが見える。また、カラオケ付きの心地よい個室も2部屋ある。お客は、ライススフレのガレットとフォアグラと味噌のテリーヌを楽しみながら、防音の部屋の中で、思う存分歌うことができるのだ。
そして2014年7月、「ニースを時差なく感じられる素朴なラグジュアリー」というコンセプトの元、店名をニースの本店と同じKEISUKE MATSUSHIMAと変更。あわせて、9年連続ミシュランの星を取り続けてきた本店の店名表記とデザインも一新した。松嶋の新たなスタートが楽しみだ。
文:Carl Wilson翻訳:佐藤環
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