東京の一流日本料理店の多くは、内装をシンプルかつ質素に抑える。日本料理の初心者、なかでも欧米の有名店の豪華絢爛な店構えに慣れている人ほど、いくら綺麗に片付いているとはいえ、大金を払って、狭い部屋で背もたれのない椅子に座る理由が分からないだろう。だが、ひとたび原正太郎の八寸を食べれば、テーブルクロスも豪華な椅子も必要ないと納得できる。はらまさの料理は芸術作品であり、料理だけに集中して味わうのがよいのだ。
八寸の内容は頻繁に変わるが、秋には絶品のカマスの刺し身、香り高いマツタケ、エダマメ、イクラ、茹で茄子のウニ乗せなどが出てくる可能性が高い。もしメニューにあったら、贅沢な神戸牛のカツレツは必ず頼もう。たっぷりの黒トリュフと新鮮な生わさびとともに提供される一口大に切られた肉は、サクサクの薄い衣に包まれ、うっとりとするようなピンク色をしている。
この小さく無駄のない造りの曙橋の店では、すべての料理を客の目の前で調理する。8席しかない明るい木目のカウンター席をぜひとも獲得して、 感動のため息をつこう。