バスク語で「ワイン」を意味するアルドアック。しかし、酒井涼が腕をふるう同店は、取りそろえられたスペインワインをも凌駕するような、多彩なスペイン料理に出合える宝庫だ。ランチコースは1種類、ディナーコースはスペインの17の地方から選んだ郷土料理が3カ月ごとに入れ替わる「Tradicional」、月替わりでスペインと日本の感性が融合した味のひらめきを表現する「Degustacion」の2種類。「Tradicional」コースでは、スペインと日本の両方での旬の食材をベースに地方を選んでいる。
料理のスタイルからはシュールレアリスムあるいはダダイズムの絵画を思い起こすかもしれないが、あながち間違っていない。彼の料理の盛り付けやソースの色は、画家ジョアン・ミロの作品からインスピレーションを受けている。彼が作るフュージョン料理のメニューでは、美しいピンク色の子牛肉2切れの下には緑色の豆が敷き詰められ、スパイス、カブ、レンコン、ニンジンのスライス、さらにブルーチーズと子牛肉から取ったスープを使った絶品ソースが添えられる。ソースがアクセントとなり、野菜の歯ざわりの良さを引き立て、子牛肉独特の風味にも見事に絡み合う。
次も、4種類のソースを撒き散らした白色の皿が画家のパレットを思わせるような一品。エビとカレイのペーストを詰めたピキージョピーマンに、鮮やかなオレンジ色のパプリカを使ったディップ、少量でも力強い味を持つ薫製パプリカを添えた「ピキージョピーマンの詰め物」。皿の片側には、みじん切りしたタマネギとベーコンを詰めたシイタケの詰め物が2つ、ラードの薄切りを乗せて盛り付けられ、新鮮なオリーブオイル、バジル、バルサミコ酢とマヨネーズを使った絶品ソースが添えられる。
このように見事な多層構造から成るスペインを巡る旅を楽しめるが、シェフの想像力は「料理は楽しいものであるべきだ」というシンプルなコンセプトから生まれる。
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