フランス料理を純粋に美味しい料理として楽しむ、という原点から離れ、最新技術や現代アートのように目新しいプレゼンテーションに力を割きがちな現代の風潮に川崎誠也は逆らっていると言える。自身もかつて、東京のシェフ仲間たちと同様に見せる料理に注力していた過去を反省し、伝統的で堅実でありながら素晴らしく創作する料理によって人々の心と胃袋を喜ばせることに重点を置くようになった。1993年に広尾の明治通りそばにアラジンを開店したころから、このポリシーに揺るぎはない。
東京のフレンチレストランの重鎮となった現在、フランスでの9年間にわたる修行などその確かな経験からくる不屈の姿勢は、季節の食材を使う料理に注がれている。厚切りのトリュフ、里芋、ゆで卵を使った一品は印象的だ。秋のメニューではジビエを多く使い、鹿肉のグリルに、エリンギのソース、風味付けに炙った少量の脂身を添えた一品などを味わえる。
渋谷川沿いという立地もあり、非常に落ち着いた雰囲気で食事を楽しめる。照明がほんのり落としてある店内には、温かみのある暖色や木調が使われており、ランチタイムには太陽が降り注ぐ。