「千と千尋の神隠し」のモデルになったといわれている金具屋旅館を有する、長野県の渋温泉。その川向いの高台にひっそりとたたずむ、小規模な旅館が4軒と、共同湯が3軒だけの静かな温泉地、角間温泉の中に越後屋はある。
吉川英治が執筆のために滞在していたという越後屋の館内は、当時のまま時が止まっているような風情で、室内の障子や窓枠、広縁のテーブルセットも懐かしさを感じさせる。ここで写真を撮れば、誰でもアラーキーの「人妻エロス」風の一枚が撮れそうだ。
浴室は三つあり、いずれも鍵をかけて貸し切りで入浴することができる。目当ての大浴場は、作られた当時はさぞハイカラだったことだろう。
大浴場の隣のローマ風呂は、タイルマニア垂ぜんの代物。壁、床、浴槽のいずれも保存状態が良く、風呂に入るよりもタイルをずっと眺めていたくなってしまう。そして最後は、さらに昭和ムードたっぷりな共同湯に浸かって、締めのひと風呂にしてほしい。