熱海銀座の坂を上りきり、レトロな外観の和菓子店ときわぎの角を熱海駅方面に曲がると、そこに福島屋旅館がある。「福島屋」と書かれた、田舎のおばあちゃんの家の玄関のような引き戸を開けると、そこはまさに昭和の世界。昭和好きの琴線に触れる内観に魅了される。
古い建物特有の香りを漂わせる館内は、これぞ「リアリズムの宿」。黒光りする木製の階段の手すりや、はめ殺しの窓に、共用洗面所にあるタイル張りの洗面台が泣かせてくれる。
温泉は男女別で混浴はなし。脱衣所も昭和30年代からそのまま時間が止まったかのような風情だ。湯の温度は江戸っ子でもなかなか入らないのではないかと思うほど熱い。だが、この完全かけ流しの熱い湯を求めてやってくる人が絶えないのだという。
暴力的なほどの熱さの福島屋の湯は、「絶対にもう一度来て、今度はもう少しゆっくり入ってやる」と、謎の誓いを立てさせるヤミツキ温泉なのであった。