茶臼岳に向かって緩やかなカーブの続く山道を走り、温泉旅館が林立する那須湯本温泉から外れたエリアにぽつんとたたずむ一軒宿、それが北温泉だ。駐車場から宿まで400メートルほど歩かなければならない。たった400メートルといえども、宿の真ん前に車を横付けできないのは不便だ。だが、この不便さこそが、北温泉につげ義春的な風情を留めさせているのだろう。
江戸時代から続く老舗旅館の館内は、昭和の世界にとどまらない、いにしえの時代にタイムスリップしたかのような雰囲気である。目玉は、大きな天狗(てんぐ)のお面が壁に掛けられた浴場。この風呂は混浴で、廊下の突き当りに壁も扉もなく、脱衣所までもが開放されているオープンスペースなのだ。開き直った人にしか入浴が許されない、はだか天国というか地獄というか、とにかく日常を忘れでもしないと入れないことは間違いない。
温泉は全部で7カ所。家族風呂に男女別の浴場もあり、いずれも良い湯である。ユニークなのは屋外にある温泉プール。こちらは水着着用可能なので、家族で楽しめる。時間が許すなら2泊ほどして、温泉三昧の脳みそが溶けるような時間を過ごしたい。