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テキスト:鷲見洋之
「観劇を楽しんだ後も、その余韻が広がるような文化都市を作っていきたい」。豊島区のナイトタイムエコノミー振興について有識者が意見を交わすシンポジウムで、区長の高野之夫は約220人の区民を前に、目標とする街の将来像を宣言した。
「劇場都市」を目指す豊島区が、2017年から4回にわたり、観劇後の夜の街の経済を活性化させようと有識者たちと意見交換してきた『アフター・ザ・シアター懇談会』が2月4日、地元住民を聴衆に招き、特別企画としてシンポジウムを開催した。
懇談会では、2020年夏開業予定の、8つの劇場などを有する商業施設、ハレザ池袋を活用した夜間経済の活性化や、訪日外国人の誘致を目指し、タレントの篠原ともえやモーリー・ロバートソン、企業関係者らを有識者に迎え、議論を重ねてきた。
2018年12月には、タイムアウト東京制作の大塚のガイドマップを活用した、外国人観光客誘致を目指す実証実験も実施。この取り組みは、観光庁の『最先端観光コンテンツ インキュベーター事業』のモデル事業として選ばれたものだ。
「豊島区の強みを住民みんなで磨き上げて」
シンポジウムには、地元大塚の企業や商店街関係者、区議らが来場。オープニングスピーチで高野は、「これまで、昼も夜も楽しめる街づくりを考えて協議をしてきた。最近では取材も増えており、2020年東京オリンピック・パラリンピックは、豊島区の華々しいデビューの場になる。みんなで将来を語り合い、進めていきたい」と挨拶した。
基調講演では、観光庁長官の田端浩が、国のナイトタイムエコノミー活性化の取り組みの現状や課題を解説。外国人客に夜を楽しんでもらうには、買い物などのモノ消費から、体験などのコト消費への移行が欠かせないとして、「住民の皆さんが、豊島区の強みをコンテンツとして磨き上げ、外国人に消費してもらい、コミュニケーションを取っていけば、旅行客の間で評判がたつ。そういうことをやっていくことが大事」と伝えた。
ハレザ池袋開業をきっかけに、多様な人の呼び込みを
その後のパネルディスカッションには、高野のほか、A.T.カーニー日本法人会長で懇談会座長の梅澤高明や弁護士の齋藤貴弘、アナウンサーの中井美穂ら5人が登壇。「飲食店」「情報発信」「受け入れ環境」などをテーマに、区の街づくりについて話し合った。
年間約250本もの演劇を観ているという中井は、「渋谷や新宿の劇場が閉鎖したり改修中だったりする中で、豊島区は演劇ファンにとっての重要な拠点になっている」と説明。だが「演劇を観た後にみんなで話したくても、夜もやっている飲食店が少なく、店舗情報が載っているウェブサイトもない」と、観劇後に楽しめる場所が少ないと指摘した。
梅澤は、演劇の上映時間を多様化させる必要性を強調。「もっと遅い時間帯にスタートするコンテンツが増えれば、観劇後だけでなく、観劇前に街で食事をするという需要が出てくる。外国人客に対して、『昼間に来てくれ』と言うのはすごく失礼」とし、観劇とセットで街を楽しんでもらうことが重要と述べた。
街の情報発信について齋藤は、「大塚はチェーン店があまりないので楽しい。でもそれが外の人には見えていないのではないか」と指摘。中井は、「タレントなどの顔が見える人が情報発信してくれるといいと思う」と提案した。
外国人客誘致のためには、受け入れ環境も充実させなければいけない。これについて観光庁観光資源課長の英(はなぶさ)浩道は、「(観光客誘致のためには)人と人との触れ合いが基本だが、技術的サポートも必要。政府としてもキャッシュレス決済やWi-Fi整備など、対応を支援していく」と表明。齋藤も地元住民に対し、「困ったことがあれば観光庁にフィードバックしてほしい」と促した。
シンポジウムの最後、梅澤は区の今後について、「ハレザ池袋に興味を持って人々に来てもらい、次は違う目的で来てもらえるよう、いろいろな人に、いろいろな楽しみ方をしてもらうことが重要」と、観劇を軸にしながら街の多様な表情を見せる大切さを述べ、「皆さんでイマジネーションを膨らませ、新しいナイトタイムエコノミーのモデルを作ってもらいたいと思う」と期待の言葉をかけた。