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地震や戦争、都市開発により東京の木造建築物は時代を追うごとに失われてきた。近代都市として成長する前の東京は、木造建築物が並ぶ「木の街」でもあったのだ。エリアさえ把握しておけば、都内でも昭和初期に建てられた古い建造物を見つけることができる。港区立伝統文化交流館もその一つだ。
都内に唯一残る木造見番建築を改修しリニューアルオープンした同館は、芝浦花柳界の見番として1936年に造られた。「芸者の事務所」という役割を果たした歴史を持ち、港区の有形文化財に指定されている。その後は港湾労働者の宿泊所となったが、老朽化により閉鎖。近郊に住む住民から建物を保存してほしいという声も上がり、2年間の改修工事が行われた。
20世紀初頭に建てられたこの建物の改修工事を行ったのは、歴史的建造物の再生建築や修復を専門とする建築家の青木茂。「リファイニング建築」と呼ばれる彼の手法は、古い構造躯体(くたい)の80%を再利用し耐震性など現代の基準に合わせて再構築するもの。今回の改修工事では建物を8メートル移動させ、エレベーターを使用できるようにしたり、車いすスロープを設置するなど誰もが利用できるよう大幅な工事を行った。また、色のコントラストにより改修箇所とオリジナルの部分を分かるようにするなどの工夫もされている。
青木は「今回のことで、当時の大工さんが頑張っていたことが分かりました。日本の技術は本当に魅力的です。設計事務所が何を行っても、結局は職人さんがいないとできないことがあり、職人を育て残していくことも重要だと改めて思いました。また、花柳界の建物が残っていたという意義が素晴らしく、継承を見られるのが建築家としては本当に良かったと感じています。
木造建築は、いろんな人が大規模なものにチャレンジしていて、神社仏閣は100年残っているものもある。全く新しい形で作っているものと、古典的な木造建築が合わさった港区立伝統文化交流館がどのように残っていくのかがとても楽しみです」と力を込めた。
1階には、建物とその周辺の歴史を記録した写真や映像を展示したギャラリースペースがある。
ギャラリーの横は障がい者が運営する小さな喫茶室になっており、ドリンクや軽食を提供。新型コロナウイルスの安全対策のためイートインコーナーは閉鎖中だが、ドリンクのテイクアウトなどは可能だ。今後はランチメニューなどの提供も開始される。
建物のハイライトとなるのは、2階の大ホール。かつて芸者たちが「おさらい会」に使っていたという百畳敷きの大広間は、落語や演劇、伝統芸能などをテーマにしたイベントスペースとして使用される。また、地域住民に向けてスペースの貸室も行っており、今後は「交流の間」として国際文化交流の促進や地域社会との関わり、伝統文化の継承を深めるための活動が行われていく予定だ。
交流館へのアクセスは、JR田町駅から徒歩8分。入場は無料で、毎日10時から21時まで開館している。周辺を訪れたらぜひ立ち寄ってみてほしい。
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