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テキスト:高岡謙太郎
時間の経過がもたらした様式美の醸成
どんな音楽ジャンルも洗練されていく。例えば、ロックとポスト・ロック、ヒップホップとトラップ、90年代のテクノと現在のテクノでもそう。シーンに新曲が投入されるたびに、日進月歩で前進していく。
ジャンルの勃興時ならではの荒削りで高揚感のある音源と、演奏や音響的にもテクニカルになり耳ざわりの良くなった現在の音源を聴き比べてみればわかるように、経年によって何度も聴かれて作り直されて、そのジャンルの様式美が洗練される。また、現場に参加していた若者たちも遊び方のマナーを学び、シーン全体が成熟する。一体何なのかよくわからなかった盛り上がりが、音や言葉を介した人々のコミュニケーションを経て、美意識があらわになっていくるのだ。
国内で開催されて6年目を迎えた『Ultra Japan』も、回数を重ねたことによって成熟期を迎えた印象だ。
巨大なダンスミュージック・フェスの様式美の中で核となる部分は、誰もが知るスターDJの存在。万単位のオーディエンスを牽引するパワフルなプレイによって魅了させるヘッドライナーを軸にタイムテーブルが組まれる。今後レジェンドと呼ばれるであろう風格を持ったDJたちが、キャリアを重ねたことで盛り上がり方が浸透し、トリを務めてハズさないDJが誰なのか、ツボを押さえたアンセムがなんなのかも徐々に明らかになってきた。
メインステージに足を運ぶと、DJブースを取り囲む巨大なディスプレイが建てられている。デコレーションは極力控えられ、専属のVJが帯同するアーティストが多数出演し、プレイされる曲に合わせた映像が流される。聴覚と視覚が同期する体験は、巨大フェスならではの高揚感を生み出す。
会場内は、白と黒を基調にした空間演出になっていて、極力色数を絞り込んでいるように思えた。以前は企業ブースが乱立していたが、今年は雰囲気を重視したディレクションがなされている印象だ。
初回の開催から6年が経過し、大学生だったリスナーも社会人になる月日を経て、客層の雰囲気も当然変化している。パリピやヤカラ風の客層の割合も減って、熱狂しながらも全体的にマナーを守って楽しんでいた印象で、羽目の外し方を学んだようにも思えた。
筆者は2015年の第2回開催も参加したが、その時とは状況が明らかに変化している。『ULTRA』ならではの様式美を貫きながら、選曲、演出、客層などが確実に洗練されているように思えた。これは2019年ならではのダンスミュージック・フェスの雰囲気なのだろう。
オリンピックの影響や定着後の苦悩も
華やかに見える巨大フェスも時流に左右される悩みがある。今年の『Ultra Japan』の最大のトピックは、オリンピック使用地のため開催日と開催場所が制限を余儀なくされたこと。昨年は4つのステージで3日間の開催だったが、本年はステージが2つに絞られ、期間も2日間となった。規模感を年々拡大させている印象のあったフェスだけに、異例の取り組みに映った。実際にファンからは、チケット代が変わらないにも関わらず内容が縮小していることに不安の声が上がっていた。
もう一点、ここ数年、国内のEDMシーンは『Ultra Japan』の影響もあって拡張され、海外フェスの『EDC』の国内開催や、国内の巨大フェスである『フジロック』や『サマーソニック』にもEDMアーティストが出演するようになり、フェスのラインナップを構成するために必要ないちジャンルになっている。また、クラブでも『Ultra Japan』のアフターパーティーを含め、各所でイベントが行われるようになった。
ただ、2014年に初開催され日本にEDM系のスターDJを招へいする足がかりを作った『Ultra Japan』も、こうしたシーンの広がりによって難しい局面を迎えている。運営側は「日本のフェスにおけるトップDJの取り合いは激化していると感じます。DJには来日スケジュールに制限があるため、夏の終わりに開催する『Ultra Japan』は、その点でキャスティングに苦労します」と、ブッキングに苦戦している現状を語る。
しかし、実際にはそうした心配とは裏腹に、恒例イベントとして浸透したこともあってか今年も万単位の集客となり、場所と日程を絞ったことが盛り上がりを密にさせていた印象だ。
厳選されることで生まれる熱狂
開催当日の様子はというと、まず会場に向かう道中、場外の公園内に数十個ものテントが立てられているのが見える。出入りが自由なのもあって、小慣れた観客たちがテントやタープを張って宴会をしているのだ。
ステージは、ヘッドライナーを中心にしたメインステージ「ULTRA MAIN STAGE」と、国内DJを中心にしたフロア「ULTRA PARK STAGE」に分けられ、1日目はベース・ミュージック系、二日目は四つ打ち系のラインナップという住み分けだ。
シーンが定着したからといって音楽的に停滞しているわけではなく、「巨大フェスで映えるダンスミュージック」の世界的なトレンドと連動しながら徐々に進化している。前半はニューカーマーが参入しつつ、後半になるにつれ知名度と実力、時代性を加味したスターDJが登場するという流れだ。
ダーティーなベースが轟いて観客をヘッドバンキングさせるSnails、ドラム&ベースを主軸にしながらさまざまなジャンルをプレイするNetsky、DJブースでマイクを持って熱唱するPendulum TRINITY。そして、圧倒的な存在感でヒットチューンを連発するSteve Aokiへ。
トリを務めるのは、凱旋門の頂上でDJプレイをした唯一のアーティストであり、昨年リリースした『Taki Taki ft. Selena Gomez, Ozuna, Cardi B』はYouTubeで15億回も再生されるなど絶好調なDJ Snake。ベースミュージックを基調としながらワールドミュージックの手法をふんだんに散りばめたプレイは、世界規模のダンスミュージックの盛り上がりを感じぜずにはいられなかった。最後には花火が打ち上がりパーティーは終了。定番の演出だが、生で観るとやはり感動は代えがたいもの。万単位の一体感のダイナミズムに思わず身震いをしていまう。
洗練されたシーンが次に提示するものは?
音楽フェスにおいてサブステージが盛り上がってない光景を見受けることは多いが、今回はステージや出演者を厳選したため、両フロアとも集中して楽しめる環境になっていた。やはり出演者が多いと、覚えきれない、回りきれないなどの問題も出てくるが、圧縮して厳選されたことによって熱量が増したように思えた。
確実に盛り上げるヘッドライナー、専属のVJが帯同する視覚的な演出、オーディエンスの熱量とルールを守るバランス、フェスとしての定着具合。スターDJを主体としたラインナップを圧倒的な環境で楽しめるのはやはり『Ultra Japan』なのかもしれない。
海外ではチケットがソールドアウトになる状況が続く、ダンスミュージック・シーン。代替するダンスミュージックのムーブメントが発生しない限りは、当面は日本でも万単位の集客を集めるだろう。しかし問題なのはオリンピックイヤーとなる来年。次回どうなるのか運営サイドに尋ねたところ、「台場はオリンピック使用地となりますので、まずは実現に向けて調整となります」という。洗練されたシーンが世界と連動しながらどういった展開を見せるのか、今後も見逃せないフェスのひとつだ。