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新宿駅西口の一角にある思い出横丁。小さな飲み屋が連なった通りの歴史は長く、終戦後の焼け野原に露天や屋台が集まり闇市『ラッキーストリート』ができたのが始まりだ。海外からの観光客が多く訪れるようになった近年も、戸板一枚で区切った造りは健在している。70年以上の歴史のなかでは、俳優の松田優作をはじめミュージシャンや著名人も足繁く通っていたという。人々の交差する新宿という土地柄ゆえか「店の活気と隣同士の交流を肴(さかな)に一杯ひっかけて帰ろう」と、横丁(以下、敬称略)を愛する常連たちによって支えられている。
一方で新型コロナウイルス感染症の影響は、東京都からの休業要請も含めて多くの飲食店経営者に打撃を与え、現在もその余波は続いている。次波への懸念があるなかで、横丁は2020年6月1日の緊急事態宣言解除後にコロナウイルスの感染対策を見据えた営業のため、また集う客に向けた配慮として対策を打ち出していた。
自粛明けに向けた通りの除菌活動
まず外出自粛が続く5月6、7日の二日間に、各店の店主やスタッフによる除菌活動が行われた。店内はもちろんのこと、共同トイレや通りに到るまで消毒を行い、緊急事態宣言解除後の5月29日にも実施。6月1日以降、再開した店の店頭には消毒液を設置し、通りには注意喚起の呼びかけや、感染防止対策の張り紙を張っている。
また直近の7月には対策をポスターと冊子にまとめて配布を行うほか、引き続き除菌活動を定期的に実施しているという。
各店舗の工夫、客への思いやり
店舗では、座席数の削減や席間の仕切りの設置、カウンターと調理場の間にビニールカーテンを吊るすなど、それぞれの店が工夫を施している。そもそも横丁は小さな店が立ち並ぶ構造のなかで、狭い店内に肩を寄せ合い、譲り合って杯を交わす距離の近さが魅力の場所。座席数を減らすことは、店の経営の上でも、常連客にとっても厳しい判断であったことが伺える。また再開後の来店客にマスクを配布する店や、消毒用アルコールをふるまう店もあった。
心をほぐす憩いの場を未知のウイルスから守るために
新型コロナウイルスの影響下、東京都知事の会見を筆頭に「不要不急」を控える警告が飛び交っている。最低限の生命活動を維持する上で、酒は言うなれば不要の長だ。しかし人生のなかでは、そのような余白にこそ趣きや意味があるとも言えるのではないだろうか。再開から時間が経った現在も、クラスター発生を指摘するニュースでは、酒場に生きる人々の生活は置き去りにされている。
未知のウイルスと共存する上での課題に向き合いながら、いつもの一杯で心をほぐせる憩いの場を守るため、いち客としてできることを共に考えていきたい。
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