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テキスト:高木望
写真:鈴木大喜
台湾・松山空港からタクシーで5分ほど。美しい並木道が続く富錦街に、ひときわ目を惹くエリアがある。ハイセンスなライフスタイルショップ、そして開放的なオープンテラスのあるカフェなどが並ぶ様は、まるで東京の代官山を想起させる。このエリアが台湾で「最新のおしゃれスポット」として定着したのは、ここ数年の話。「富錦樹グループ(Fujin Tree Group)」が富錦街にカフェやショップをオープンしてから、国内外問わず多くの人が訪れるようになった。
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実は今年9月、富錦樹グループが運営するレストラン 富錦樹台菜香檳が、日本橋のコレド室町テラスにて世界2号店をオープンさせる。しかも、富錦樹台菜香檳のほか、同フロアには日本初上陸となる大型書店「誠品生活」やパイナップルケーキが有名な「郭元益(グォユェンイー)」など、台湾で注目されている様々な店舗がテナントとして軒を連ねることとなる。
「台湾国内の百貨店からもテナントオファーがあったのですが、今まで断ってきたんです」。そう語るのは富錦樹グループの代表であるジェイ・ウー(Jay Wu)。なぜ日本上陸を決意したのか。その経緯について、話を聞いた。
富錦街プロデュースの原点は、日本
ジェイ・ウー
取材を行った2019年5月現在、富錦樹グループは、富錦街にファッションや食などのさまざまな店舗を展開している。例えば、ライフスタイルショップとして服や雑貨を販売するFujin Tree 355や、広々としたオープンテラスが心地よいFujin Tree Cafe、先に述べた富錦樹台菜香檳などだ。さらに、6月中旬には完全個室の飲食店 Bao-Xiang(台湾語で「個室」という意味)」をオープンする予定。富錦樹グループの前身は、ジェイが台北東区で初めてオープンさせたセレクトショップだ。
「東区でお店を始めた30代前半から、日本のファッションにすごく興味がありました。しかも、日本のセレクトショップは販売員が着まわしのコツや、新しいコーディネートを教えてくれる。トータルコーディネートをお客さんに提案できるお店を台北でやってみたいと思ったんです。お店ではBEAMSやBeauty & Youthのポップアップを開催したりしていたんですよ」
しかし、当時の東区ではファッションに興味がある層と無い層に幅があり、カルチャーを浸透させることの難しさを感じていた。ある時、ジェイが車で通勤中に富錦街を通ったとき、ふと空き物件を発見する。当時、富錦街はまったく注目されておらず、台湾のなかでも知られていないエリアだった
「その日は天気も良くて、富錦街の美しさに惹かれたんです。知名度の低い場所なのでリスクも感じましたが、中心地からも車で10〜15分くらいのエリア。空港からもタクシーを使えば近いので、観光客も訪れやすいと感じました。それに僕がやりたかったのは、ひとつのお店を作ることではなく、街そのものをプロデュースすること。そうした目標を遂げやすい場所だと思ったんです。
僕自身のキャリアはファッションを提案するところからスタートしましたが、次のステップとして興味をもったのは『それを着てどこへ行くか』でした。そこで、富錦街で買った服を着て富錦街のカフェで過ごしたりご飯を食べる、というすべてのライフスタイルを提案したくて、徐々に飲食店にも着手していきました」
ライフスタイルをトータルコーディネイトする街
「一つの店ではなく街を作りたい」。その想いは、「生活をトータルコーディネイトする」という発想に繋がった。実際に富錦街を訪れると、暮らしの核となる「衣・食・住」が見事に網羅されている。
ジェイが富錦樹に店を構えてから、最初に訪れたのは地元の人々だった。常連客からの口コミで、徐々に中心部から訪れる人も増え、ついには観光客やメディア関係者の目に留まるようになる。
「最初、近くにあるインターナショナル幼稚園の子供を車で迎えにくるお母さんたちが興味を持ってくれたんです。富錦街は路上駐車しやすい環境。車を見張れる場所でゆったりできる安心感があったのも、気軽に訪れてもらえる理由の一つだったのかもしれません。さらに、そのころにスローライフという概念が台湾でも少しずつ浸透するようになりました。そういったライフスタイルを提案したセレクトショップは、2012年にオープンしたFujin Tree 355が最初かもしれないですね。
2014年にBEAMSの路面店を誘致したころから、街が少しずつ変わっていきました。最初はローカルのお客さんが中心でしたが、『MONOCLE』や『KINFOLK』などのメディアに取り上げられるようになり、観光客も徐々に増えていった。日本人や香港人、欧米人の姿が見受けられますが、最近は特にタイ人が多いんです」
そうして「富錦街」という地名を徐々に世界に浸透させていったことで、富錦街より中心地にある百貨店などからも、テナントオファーが入るようになる。しかし、ジェイは富錦街に居続けることを決意する。
「有名な路面店の飲食店は、徐々に百貨店へと移っていきました。台北は観光客も多いし、地域の変化もめまぐるしい。排煙や騒音の影響で、路面店が徐々に規制されつつあるのも理由の一つだと思います。でも、僕らが観光客として海外を訪れたとき、一番行きたいのは、都市の風景を楽しめる場所じゃないですか。だからこそ、富錦樹は『台湾を感じられる場所』を提供することで、百貨店と差をつけようと思いました。お店の目の前には小学校があったり、小さいバイク修理のお店や、昔ながらの文房具屋さんがあったりする。ローカル感が満載なんです。台湾に来たな、という感覚を得られる場所でありたいんです」
タイ料理やベトナム料理のように、台湾料理を定着させたい
では、なぜ富錦街というエリアに強いこだわりを持ちながら、今回の「コレド室町テラス」のオファーを受けたのか。そこには「台湾料理」という食文化を日本に定着させたい、という思いがあった。
「タイ料理やベトナム料理は世界中にありますが、台湾料理はまだまだ知られていません。世界に台湾料理を広めるために、まずは日本から発信したかった。僕は日本のアパレルを台湾に紹介したし、アイスモンスターのような台湾スイーツの日本上陸を手助けするなど、常に日本と台湾の橋渡しをしてきました。台湾料理を世界に広めるための次のステップとして、日本への進出が必要だと感じています。テラスがあって日当たりが良いコレド室町テラスの環境も、富錦街のお店と雰囲気が少し似ています。施設内立地であっても路面店のような雰囲気を作れる場所だと思いました」
もうひとつ、日本上陸の決め手となるポイントがあった。それはコレド室町テラスの同フロアに誠品生活が入る、というニュースだ。誠品生活は、台湾を中心に展開する大型書店チェーン。日本の代官山蔦屋書店が誠品生活からインスピレーションを受けたという話は有名だ。
「誠品生活が日本でどう受け入れられるか、というのは僕たちもすごくワクワクしています。初めて中華圏以外の国に上陸するなら、我々もついて行かないと、という思いがあります。しかも今回のコレド室町テラスには、台湾の代表的なブランドが集まっています。台湾国内でもすごく話題になってるんですよ」
ちなみに、かつての台湾には「食べながら飲む」という習慣が無かったという。シャンパンやワインなどをゆっくり飲みながら台湾料理を楽しむ、という飲食のスタイルを台湾に定着させたのは、まさに富錦樹台菜香檳が発端となる。
台北では「台菜香檳」と言うだけで、それが「富錦樹台菜香檳」のことだと通じるようになった。本国でそこまでの影響力を誇るレストランが日本に上陸することには、大きな期待が集まる。初の国外デビューについて、ジェイは「ワクワクしていますし、緊張しています」とはにかむ。
「台湾のお店はファミリーからビジネスマンまで、様々な人が訪れる。日本でも同様に、気軽に入れるウェルカムな雰囲気の場所を提供したいです。日本でも台湾とまったく同じ味を提供するので、それがどう受け入れられるかが楽しみです。
食は感動を伝えやすいコンテンツだと考えています。実際に、台湾料理の驚きと感動が食べた人たちに伝わっているのを見るのはすごく面白い。現在、我々は飲食のプロデュースに力を入れていますが、台湾でもまだ発見できていないものがいっぱいあるので、もっと開拓していきたい。それらを僕らFujin Tree Groupの目線でプロデュースし、日本にどんどん紹介したいです」
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