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新宿は歌舞伎町。ロボットたちによる奇抜なパフォーマンスが人気の「ロボットレストラン」向かいのビル4階に、ひっそりと誕生したレストランバーがある。その名も「人間レストラン」。
近未来、ロボットがマジョリティとなった世界で、細々と暮らす「人間のためのオアシス」が店のコンセプトだ。人工知能(AI)が発達した世界では、タクシーもコンビニも無人となり、ロボットによって大半の仕事が行われていた。そんな社会で、「人間」が「人間」のために営む稀有(けう)なレストランというわけだ。
しかし、オアシスまでの道のりは容易ではない。看板はなく、目印は、階段の入口に輝く「18禁」のネオン。この看板は同ビル2階に構える店のものだが、入りづらさに拍車をかけている。特に男性の場合、「18禁」の方の店員から確認のため「人間ですか?」と声がかかった場合、「人間です」と答えて目的地は階上のレストランである旨を示さなければならないのだ。
「18禁」のマークが輝くビルの4階に店はある
しかし、薄暗い階段を上りきった先には、猥雑(わいざつ)な道のりからは想像のつかない、木調の広々とした空間が広がっていた。モダンなカウンター席のほか、畳席の用意もあり、居心地は抜群。これまでの歌舞伎町の喧騒(けんそう)がウソのようだ。
一方、ベランダから外を見やれば、店内とは対照的にロボットレストランのネオンが目前でギラギラとした光を発している。
バルコニーの目前で輝くロボットレストランの看板
メニューはアルコールのほか、翌朝5時までフードメニューも注文可能。店一押しの、『行者ニンニクTKG(卵かけごはん)』は、熱々の卵かけご飯に添えられたギョウジャニンニクの香りが食欲をそそり、新宿で飲み明かした締めにふさわしい。華やかな香りの漢方茶『黒文字茶』も気分をスッキリとさせてくれるだろう。
行者にんにくTKG(800円)
通常メニューとは別にある『人間メニュー』なるものには、交代で出勤するという20人程のスタッフの写真と詳しいプロフィールが記載されていた。名前や趣味のほか、恋愛歴や病歴、性癖など、各自の人間らしさが伝わる項目が並び、会話のネタにもなる。出勤しているスタッフの「得意料理」の項目にあるパスタやカレーなども頼めば作ってもらえるようだ。
気になる項目があれば、ぜひ訪ねてみよう
人間による、人間のためのくつろぎ空間
勇気は必要だが、一旦ドアをくぐれば、アットホームで居心地の良い「人間レストラン」。ロボットレストランの向かいに開店するなど、一見冗談のようだが、店名の裏にはオーナーの手塚マキ(41)の確固たる哲学があった。
10代の時に歌舞伎町で働き始め、ホストクラブのオーナーを経て、現在はグループ会社の会長として、同地区のレストランやバーの運営に携わっている手塚。長年、この街で客と接する中で、職業や肩書きなどを超えたところで人々が交わり合う歌舞伎町の「人間らしい」側面を愛してきた。
ロボットレストランが圧倒的な存在感を放つようになった歌舞伎町で、向かいの雑居ビルに空きがあると聞いた時、「人間レストラン」のコンセプトを自然に思い浮かべたという。
「僕は、歌舞伎町の飲食店の運営に関わる中で、人に人が集まり、人間同士だからこそ得られる居心地の良さがあることに気がつきました。この街のどんなに小さくて汚いバーでも、そこを”自分の居場所”にしている人がいるんです。
今後、ロボットやAIが普及してくれば、人間にしかできないことや、人間にしかない魅力の大切さが増すと思う。肩書きよりも、自分の個性やどんな人間なのかということが問われるのが歌舞伎町。
お客さんにも、ここでのんびり自由に過ごすことで、人間であることの楽しさや、自分の人間らしさを感じてほしいですね」
歌舞伎町を歩く手塚
自分は「人間です」と宣言し、ロボットレストランのネオンと向き合いながら、会話や感情に身をまかせる。そんな体験が、自分の「人間らしさ」を感じるきっかけになるのかもしれない。
店内に置かれたインテリア。「やっぱり人間が好き」としたためられている