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今年も『超福祉展』(正式名称:『2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展』)が渋谷を舞台に9月3〜9日に開催。そのなかで『マルチカルチュラルリズムの時代』をテーマにした日本経済新聞とタイムアウト東京が企画するOPEN TOKYO Talkが渋谷ヒカリエで行われた。
「マルチカルチュラルリズム」とは、多様な文化を持つ人が共に働き、暮らしていくために、現状の「多分化共生」を超えた未来を考える新しい定義。トークセッションでは訪日外国人の数が圧倒的に増えた近年の日本の問題や課題を見直すだけではなく、違いを超えて共生していく時代に向けて、どう各国の文化に向き合っていくべきかについて議論が交わされた。
在日外国人が抱える問題と8つの提言
第1部は、タイムアウト東京の副代表・東谷彰子とORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント・高橋政司が登壇。まず東谷から在日外国人が抱える問題を共有するために、さまざまな背景を持つ在日外国人205人に行ったアンケートの結果が発表された。
そこで浮き彫りになったのは日本で働いて住み続けたいと思う人が7割以上いる一方で、「家探しが悪夢のようだった」「日本語が話せないという理由で入店を拒否された」という在日外国人のリアルな声だ。
この結果を踏まえて、話は元・外務省国際文化協力室長で多文化共生政策に主導的な立場で関わってきた高橋が提言する「マルチカルチュラルな社会に必要な8のこと」へ。
“8のこと”とは、「①外国人に先入観や偏見を持たない」「②多様性を評価する」「③コミュニケーションをとる」「④自分の意見をはっきり述べる」「⑤誰が見ても明白な形でルール化する」「⑥日本のやり方を一方的に押し付けない」「⑦多用な宗教、文化の違いに配慮する」「⑧助け合う気持ちを持つ」。
高橋は、旧・西ドイツとオランダで行われた多文化共生の歴史にも触れながら、これらの提言が持つ意味を改めて訴えた。
三者三様の視点から見る「マルチカルチュラルリズム」
第2部では、感性工学の研究者の一面を持ちながら事業プロデュースなどを手がけるアソビジョン代表取締役で慶應義塾大学研究員・國友尚(くにとも・たかし)、新宿・歌舞伎町でホストクラブを運営するSmappa! Group会長で歌舞伎町商店街振興組合常任理事・手塚マキ、タイムアウト東京の代表・伏谷博之が登場し、さらに「マルチカルチュラルリズム」について話を深めていった。
昨年のデータによると訪日外国人の数が3100万人に上ったという。これは過去最高の数だ。この現状について伏谷から國友へ質問が投げかけられた。
「いまだかつて日本にこんなにたくさんの外国人がいる環境はなかったと思うんです。そうなると、日本人がストレスを感じたりすることもあるかもしれない。そのあたり國友さんはどう思いますか」(伏谷)
「多文化共生を考えるときに、最初に日本人がとってしまう行動って受容なんです。日常生活のほんの少しの部分だったらまだ受け入れられるんですけど、今の数だと日本人の4人に1人は外国人に触れている状態。非日常が日常になってきたときは受容だけじゃなくて、自分が主体的に多文化共生に入っていかないと、本当に意味での“共生”はできないと思います」(國友)
そこから手塚だからこそ知る、歌舞伎町で働く外国人労働者や観光客の実情の話へ。
「日本語は話せるけど韓国人や中国人という人が歌舞伎町には多いので、文化的な違いを許容するのは当たり前になっていると思います。おそらくそれは外国人だけでなくLGBTQもそうだし、分かりやすく見た目だけで『この人はこういう人だよね』と判断することが歌舞伎町では基本的にないですね」(手塚)
さらに話題は多岐にわたった。國友が専門とするマーケティングの見地から見た提案、手塚が外国人従業員から知った日本人の感覚との違い、伏谷がレンタカーに貼る外国人ステッカーに対する当事者の反応の話など、時折会場にいた外国人の参加者ともコミュニケーションをとりながらトークは進んだ。三者三様のさまざまな視点、価値観が浮かび上がった話にうなずく観客の姿も。
「僕自身は、知らない文化に触れることは面白いです。多文化共生も前向きに捉えたほうがいいと思いますが、面白いと思う人だけではないのも一つの価値観だし、それも多様性であると思っています」(手塚)
「人って未知のものを知ったとき、感情が揺れてそこで改めて自分の価値感を知るというのがベースにあると思うんです。多文化共生の一員になるためにはどうすればいいのかというのを自分ごととして身近なところから考えていきたいですね」(國友)
「多様性と言っても、個人がなんでも自由で自分勝手にしていいということとはまた違いますよね。この話題についてはまた次の機会に話しましょう」(伏谷)
『マルチカルチュラルリズムの時代』は、遠い未来の話ではなく現在進行の「今」のことだ。1部、2部を合わせた今回のOPEN TOKYO Talkは、私たちにひとつの答えではなく、一人一人がそれぞれの答えを探すためのきっかけを与えてくれるものとなった。