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「理想のミールスが完成したら、再びお店は閉めるつもり。いつまでもあると思うな親とカレー屋」
そう語るのは、昨年10月まで渋谷の虎子食堂でランチのみの間借り営業としてカレーを提供し、カレー好きの間で高い人気を誇っていたカレー屋まーくんの店主、まーくん。カレー作り以外にも、料理研究家やクリエーティブディレクター、DJなどマルチに活動を広げ、注目を集めている。
虎子食堂での営業終了は「生活苦が理由」だったそうだが、ファンたちの間ではあの味を惜しむ声が絶えなかった。そんな矢先、同店がピンク・バイシクル・カレー・ショップ(Pink Bicycle Curry Shop)と名前を改め、等々力で営業を再開させたという情報が入ってきた。高ぶる期待を胸に早速取材に向かった。
同店は、駒澤大学駅から等々力行きのバスに乗り約6分、『深沢坂上』バス停すぐに店を構える居酒屋 さかうえ酒場たぐるを間借りしてランチのみの営業を行っている。看板は出ていない。6月中は不定期オープンだが、7月からはほぼ毎日営業する予定だという。
メニューは『日替わりミールス』(2,500円)のみ。テーブルにはミールス(南インドの食堂やレストランで提供される定食)の手書きメニュー表が置かれている。
ラインナップは、カレー7種と付け合わせ10種、パパド(主に南アジアで食べられる極薄のクラッカーのような食品)、チャイがセットになっている。ここまで種類の多いミールスは、都内でも珍しい。
この日のメニューは、左上から時計回りに
・カレー
クットゥー
キーマ
フィッシュ
クルマ
ラサム
サンバル
キャチャディ
・付け合わせ
ハイビスカスアチャール
リンゴのアチャール
アルマサラ
ビンディーマサラ
アヴィヤル
ゴーヤのマスタード煮
エッグアチャール
・パパドの中に入っている付け合わせ
かぼちゃのココナッツ煮
ナスのトマトチャツネあえ
カチュンバ
となっている。
カレーや付け合わせは、それぞれ素材の味が際立ち、甲乙付けがたいほどに完成されている。まーくんが目指すのは、南インドの伝統的な食文化であるミールスのスタイルをベースにしながらも、型にはまらないカレー作り。「実は南インド料理は好きじゃない」と言い切る彼にとって、インド料理はあくまでも参考資料のようだ。
「インド料理は、物事の構造について考える一つの学問として考えています。もともと口に合わなかった料理をいかにおいしく食べられるように工夫するか。カレーの研究はそういう知識欲から始まりました。南インド料理は1品1品の味がぼやけているものが多いんです。ぼやけているからこそ混ぜ合わせることで違和感なく味を成立させている。うちはその逆です。個々をしっかりとした味付けに仕上げる。それでいて、混ぜ合わせても調和するバランスの取れたカレーを目指しています」
ライスに2、3種類のカレーをかけ、混ぜ合わせる。個々の味付けがしっかりとしているため味がぶつかり合うかと思いきや、自然と混ざり合い新たなうま味が生まれる
さらに混ぜる。付け合わせも挟みながら味の変化を楽しむ
インドのスタイルは踏襲しながらも、現地の再現は目指さない。スパイスの配合から火の入れ方、調味料などを根本的に見直し、自身が考える完璧な状態に仕上げる調理法を見つけるべく、日々研究を重ねている。
「今試作しているのは、香りが一口で何段階も目まぐるしく変わるカレー。例えば口に入れた瞬間と噛んでいる瞬間、食べ終わった後。その過程の中での香りが変化していくような仕上がりを目指しています」
パパドは、中に包まった副菜と一緒にガシガシと崩してカレーと混ぜ合わせる
日々の研究では、スパイスの香りを引き出すテンパリングという工程で、正確に時間を計算し、香りの出し方を考え、スパイスをどういう状態で仕上げてどんなタイミングで入れるかを細かく調べているそう。これらの研究をまとめて、ひとつの料理体系として完成させることが彼の野望だ。
「今後はUber Eatsなどを活用して、家でもバナナリーフ付きのミールスが楽しめるようなセットの販売を構想中です。最近ではレトルトカレーや缶つまのディレクションをしたり、書籍『奇書 カレー屋まーくんのあなたの知らないスパイスの世界』の発売も控えているので、そういった仕事なども広げていきたいと思っています。このお店は研究が本来の目的なので、自分が理想とするミールスが完成したら、その時点でこのお店は終わります。それが1週間後か2年後かはわかりませんが(笑)」
締めのチャイは驚くほど濃厚でクリーミー
6月21日(金)に発売される書籍には、虎子食堂時代のレシピも多数掲載されているという。料理に不慣れな人でも読みやすい内容に仕上がっているとのことなので、食べる専門だったカレーファンも要チェックだ。今後もカレー屋まーくんの活動から目が離せない。
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テキスト:鈴木貴
撮影:中村悠希