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執筆:長谷川あや
写真:中村悠希
古くから、日雇い労働者の集まる簡易宿泊所(ドヤ宿)街として知られている山谷。漫画『あしたのジョー』で、主人公の矢吹丈が所属していたボクシングジムも、山谷の中心地である泪橋下にあったという設定だ。今、若い世代が集まってきているという山谷に、2018年9月、新たな酒場、山谷酒場がオープンした。
通りに面した壁側に並ぶ『山谷酒』ボトルキープの瓶
アルコール類は、甲類焼酎に10種のスパイスを漬け込んだ『山谷酒』のほか、『和山椒酒』『花山椒酒』『カルダモン酒』『珈琲酒』『梅酒』など自家製酒を用意(すべて500円)。思わず「端から全部くださーい」と、叫びたくなる。ビールは『サッポロ黒ラベル』(大瓶750円)のほか、海外のビールも豊富に揃えている。
フードは、『冷奴』『ハムカツ』『焼きそば』など居酒屋の定番から、『フィッシュアンドチップス』『キャロットケーキ』『納豆チーズトースト』など、「え、こんなメニューもあるの?」といったものまでバラエティ豊か。『特大プリンアラモード』(1週間前に要予約)という、
「お酒をまったく飲まれない方もいらっしゃいます。帰るときに、『お酒が飲めなくて、すみません』と言う方もいるのですが、うちとしてはぜんぜん構わない。色々な方に、気軽に使ってもらえれば嬉しいです」と語るのは、オーナーの酒井秀之。
もともとは、西調布で楓という名前の喫茶店を営んでいた酒井。
朝8時から10時までは、モーニング喫茶楓の名のもと、朝食の提供を行っているというのも面白い
喫茶店出身の酒井が手がける店とあり、トースト類も充実。トーストに、自家製の珈琲酒を合わせる人もいるそう
「スパイスの効いた自家製酒との相性を考慮した」というフードメニューは、どれもそそられる。素直に一押しを聞いたところ、『醤肉(ジャンルウ)』(600円)と『特製麻婆豆腐』(800円)を提案された。
数種類のスパイスが入った『特製麻婆豆腐』。「詳しいことは企業秘密」と酒井
『醤肉』は、日本では目にする機会が少ない台湾料理だ。運ばれてきた瞬間、八角の魅惑的な香りが漂ってくる。スパイスと醤油で煮込んだ豚肉を、白髪ネギを巻いて食べるのだが、これがまたスパイスの効いた酒に良く合う。酒好きにはもちろん、スパイス好きにとってもたまらない。
山谷という地名は、地図上にはもう存在しないが、「行ってはいけない街」と言われた、かつてのネガティブなイメージは今だに漂う。しかし、酒井は、あえて山谷という名前を店名に使用した。
「山谷は変化しています。かつてにぎわった商店街は、今やシャッター街となっていますが、若い人たちも移り住んで来ていますし、ギャラリーもできている。今後、近くに映画喫茶(泪橋ホール)もオープンします」
近所の人からは「よくぞ山谷の名前を残してくれた」と、
店の片隅には書棚も。置かれている本は、
テーブルには、
内外装は、上堀内美術に「いい意味で酒場のイメージを裏切るものを」と依頼した。たしかに居心地は抜群で、「こんな店が自宅の近くにあったら……」という言葉がつい口をついた。
体も喜びそうな『山谷酒』のソーダ割を味わいながら、現在進行形で山谷の街が再生していく姿を見守るのも楽しそうだ。
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