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BONE MUSIC展、レントゲン写真が伝える音楽の尊さ

テキスト:
Kunihiro Miki
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2014年にロンドンで最初の「ボーン・レコード」の展覧会を行ったプロジェクトの、アジア初の企画展『BONE MUSIC展』が、東京のBA-TSU ART GALLERYでスタートした。

冷戦時代の旧ソビエト連邦で密造され、アンダーグラウンドで流通していた異質の音楽メディア、ボーン・レコード。その音溝には音源だけでなく、人々が切実に音楽を求めた強い思いと物語が刻まれている。

あらゆる文化が国家によって検閲され、規制されていた当時のソ連では、アメリカのジャズやロックンロールと一部の国産音楽は、聴くこと自体が禁止されていた。

ボーン・レコードは、そうした時代にあっても音楽を強く求めた人々によって作られた。病院で不要となったレントゲン写真に、自作のカッティングマシーンで音楽を録音したのである。

展覧会のキュレーターであり、ジャズ/エレクトロニックのミュージシャンでもあるスティーヴン・コーツは、5年前、ロシアツアー中のサンクトペテルブルグの蚤の市でボーン・レコードと出会った。「非常に安価に売られていた」というそれらは、現在のロシア人でもその存在を知る者は一部の高齢者のみだという。

スティーヴン・コーツ 

「(ロシアでは)誰もボーン・レコードに興味を示していなかった。最初に聴いたのは78rpm(回転数を表す単位)の『Rock Around The Clock』。ビル・ヘイリーだね。その時の僕はこのレコードの歴史も何も知らなかった。この展覧会の目的は、展示を観てもらうためではなく、ストーリーを伝えることにある。ボーン・レコードがいつ、どこで、なぜ生まれ、どのように作られ、聴かれていたのか。その答えが用意されているんだ」

ボーン・レコードのコレクションを始めた当初は影も形もなかったその答えを求め、彼は幾度となくロシアに足を運び、証言者の声を集め、一度は人々の記憶から消えたそのメディアに、歴史的な骨格を与えた。会場では、当時の状況を知る人々への取材模様を納めたドキュメンタリーの上映も行われている。

当時、ボーン・レコードへのカッティングは、通常のカッティングマシーンではできないため、自作機を持つ人々が製造し、密かに流通させていた。

 ボーン・レコードを製造する作業部屋を再現

「ボーン・レコードの売買は、違法ドラッグと同様のやり方で行われていたんだ。ストリートでバレないようにそっと手渡しして、柔らかく変形するレコードをコートの内側に隠したんだ。」

このレコードは、合法のロシア音楽のラベルをカモフラージにしているが、収録されているのは当時違法だったビートルズだという

このプロジェクトは、過去にイタリアとイスラエル、そして誕生の地であるロシアでも開催されている。各国ではどんな反応があったのか。

「音楽に対する興味は世界共通だよ。印象的だったのは、ロシアでもボーン・レコードのことを覚えている人がごくわずかだったこと。自分たちがどのようにして音楽を聴いてきたのかを覚えていないということだよ。この展示は、そのストーリーを伝えることで、音楽そのものがいかに愛されてきたものかを知ってもらうためにあるんだ」

そこには、音楽媒体がデジタルに置き換わった現代だからこそ、というメッセージも含まれている。

「確かに、今は誰もが簡単にデータで音楽を聴いている時代だ。しかし、好きな音楽を聴くことが困難で、聴いていることが公にされたら逮捕されてしまう時代が、数十年前まであったんだ」

ボーン・レコードは、ソノシート以上に痛みやすく、10〜15回ほど聴くとダメになってしまうという。会場の2階には、そうして放置され、腐食し朽ちてしまったボーン・レコードを拡大したパネルが展示されている。

ゴミに過ぎないはずのそれらは、透けたレントゲン写真と腐食部分が融合し、息をのむほどほど美しい。展示を観た我々は、その美しさを裏付けているものが、音楽を切実に求めた人々の物語であることを知っている。『BONE MUSIC展』は、我々に媒体に刻まれる物語の存在とその尊さを教えてくれる展覧会だ。
 

『BONE MUSIC展』の詳しい情報はこちら

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