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先日3月27日、19時から開始し、坂本龍一や水原希子、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)らの著名人をはじめ、30万筆以上もの署名を集めたプロジェクト「SaveOurSpace」。その記者会見が、このほど渋谷SUPER DOMMUNEより無観客配信された。会見ではプロジェクトの概要と背景、今後の動きについて発起人より詳細が語られた。
「現場に携わる全ての人」への補償を求めるプロジェクト
そもそもSaveOurSpaceとは、ライブハウスやクラブなどの文化施設が、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく「安心して休業する」ための補償を求めるために立ち上がったプロジェクト。音楽を支えるライブハウスの店長やDJ、アーティスト、レコードショップのスタッフなどを中心に賛同が集まり、SNSを中心に署名活動が拡散された。
登壇者は全員マスク着用かつ無観客での配信、という新型コロナウイルスに対する感染予防の体制が取られるなか、配信の冒頭では、会見開始までに延べ30万2356筆もの署名が集まったと発表。始めに発起人の篠田ミル(Yahyel)から、プロジェクトの背景と経緯が説明された。
「ライブハウスやクラブ、といった文化が生まれる施設は、新型コロナウイルスの集団発生が懸念される『3密(密閉・密集・密接)』に該当するスペース。しかし経営者らは感染拡大の恐れがある自覚を持ちつつも、日々の生活を続けるために、営業を続けざるを得ない状況です。
現在ライブハウスやクラブは経営の危機に直面しています。音楽やエンタメ業界は実際は中小の個人事業主が多く、1日でもお店を閉めるとその日の暮らしに関わってくる状況です。そこで施設の維持費、従業員の給与、イベントの製作経費 (出演、音響、照明)や、イベントの中止に伴う費用などを含む金銭的な支援を求めたいと思いました。
『今文化や芸術が本当に必要なのか』という声もありますが、我々人間を人間たらしめているのは文化です。スマホやインターネット、テレビを通してつかの間の安息を得られるのも、文化の力だと思います。文化施設への助成は、人間が人間らしく生きるために必要な措置だと思います」と篠田。
また、下北沢のスリー(Three)で店長を務めたのち、4月から新ベニューリヴハウス(LIVEHAUS)をオープンさせるスガナミユウは、今回の新型コロナウイルスによる被害と影響について「ライブハウスやクラブなどの文化施設のみならず、さまざまな施設に降りかかる問題」であると話す。
「2月の末に大阪のライブハウスの集団感染の報道があってから、業界は一気に傾いています。イベントの自粛要請も徐々に増え、先日行われた東京都知事の記者会見でも、バーや居酒屋に対して自粛要請が出ました。
イベントのキャンセル、お客さんが来ない状態が続き、出演者や業者など、店が閉じることで職を失っている関係者も実際に生まれています。『なぜ貯蓄をしてこなかった』という声もありますが、店の規模に問わず、一度コケると大きな損害が出ます。
私たちは音楽や劇場、アートに携わる人間として、この業界の問題に声を上げています。ですが、飲食店、他の業種もそれぞれ声を上げています。音楽業界に限らず、それぞれに応じた助成や、必要な措置を考えてほしいです。
そして、もう一度そういった場所に人が戻ってこれるようにしたい」
アーティストやライブハウスなど多くの賛同者の声
会見では、アーティストの倖田來未や後藤正文、マヒトゥザピーポー(GEZAN)や、京都メトロ、Clubasiaといったクラブやライブハウスのスタッフなど、賛同者からオンライン上で寄せられたコメントを紹介。
文化施設を守るための嘆願書の賛同人になりました。賛同くださる方、署名をよろしくお願いします。場所や会場に張り付いている歴史や技術が文化を複雑で豊かなものにしています。場がなくなることの意味は重いですよね。守りたい。また気兼ねなく集まることができる日常を願っています。 https://t.co/44ocXkKnpn
— Gotch (@gotch_akg) March 28, 2020
そして、賛同人として記者会見に臨んだDJのLicaxxxは、プロジェクトに賛同した経緯を以下のように述べた。
「この先の海外ツアーや出演予定だったフェス、毎週行われているイベントもキャンセルや延期、中止を余儀なくされています。現場で活動するということを軸に置いている人はこの先困窮するでしょう。
恐れているのは、出演してきたライブハウスや文化施設の経営が立ち行かなくなること。新型コロナウイルスが収束し、安全に集まれるようになったとしても、その時に施設が根こそぎ取られているような状況は、音楽を表現する者、音楽を愛する者として危機的状況だと感じています。
補償が足りていない人たちがたくさんいるなかで、個人として自身の意見をそれぞれが発信していくこと、意思を持って発信していくことが大事ではと思います。音楽を愛する者として、今回の署名に賛同します」
また発起メンバーであり国外でも活躍するDJのMars89は、国内外のプロモーターらとやりとりをする中で得た意見を交えながら、以下のように述べる。
「現場のいろんな声を聞いている中で、ソーシャルディスタンスが一番いいとは分かっています。経営が立ち行かなくなるなか、それぞれのライブハウスやクラブは、できる限りの感染対策をしながら努力をしています。そして『本来なら店を閉めるべきと分かっているが、閉めても大丈夫なようにしてほしい』という声を耳にします。
日々関係者とやりとりする中で『日本は芸術・エンタメなどの補償が後回し』といわれます。一方『生活の中で、自分を助けるのは映画や芸術、そういう者に救われている』という話があるのも確か。文化・芸術がどういった場所から生まれてきたか、そして現場があることがいかに大切かをかみ締められればと思います」
なお、同じく発起人であるDJ NOBUは「本来はなるべく出歩かず、人と接しない」という感染拡大防止の手段にのっとり、会場にコメントを寄せる形で会見に参加。コメントは以下の通り(一部抜粋)。
「現在、私たちに求められていることは、新型コロナウイルスという社会的脅威を正しく把握し、その影響を最も受けている医療従事者や介護者、その他公共サービスの最前線にいる人々をサポートし、高齢者をはじめとする最も脆弱な人々を保護することです。個人として、また社会の一員としてどのように対応するのが最善か問われており、迅速かつ慎重に考え、判断し、行動する必要があります。
(中略)この極めて難しい状況に置かれ、苦渋の判断を迫られているたくさんの友人の顔が思い浮かびます。絶望的な気持ちにもなりました。でも、まず自分が高津を起こさなければならないと思いながら、議員会館に足を運びました。そして、それがSave Our Space(SOS)という仲間を持つことにつながり、これだけ多くの人たちの賛同を得ることができました。 ジャンルや職業を超えたコミュニティーの力、さらにそのネットワークが強くなれば、きっと変化を起こせると信じています」
今後はプロジェクトを実行に移すパッケージを計画
今後の活動について、篠田は以下のように述べる。
「明日から30万筆超の署名をもって、国会議員や行政の知見をもらいながら、政策として実行に移すパッケージを考えられればと思います。特にドイツをはじめ海外の事例を我々も積極的に勉強し、日本の実態と照らし合わせながら、実効的な政策を検討したいです。
また、海外ではオンラインフェスの開催や動きが広まっています。我々もその動きに声がけいただいている状況。賛同者にも著名なアーティストがいるので、署名活動を通して得たコネクションや発信力を用いながら、オンライン上で待機期間中に楽しめるような取り組みや、感染拡大防止の啓蒙活動などもできればと思います。自粛と経済の狭間で苦しんでいるのは、音楽に限らずあらゆるスペースの問題です。他のスペースとも連帯の動きを考えていきたいです」
刻一刻と変化する状況のなか、一人一人が考え、声をあげ、行動に移していくことが、生活を改善するために重要となっていく。こういった世の中を変えるであろう活動が、少しでも多くの人に希望を与えることを願う。
タイムアウト東京では、SaveOurSpaceをはじめ、引き続き文化を殺さないためのプロジェクトや施策を紹介していきたい。
テキスト:高木望
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