般若や恵比須、鍾馗(しょうき)など、無数の神楽面が出迎える面工房。一代目の柿田勝郎は、面づくりを独学で学び、道を極めた人物。二代目の柿田兼志とともに、石見神楽のような激しい動きにも耐えられる石州和紙を用いた神楽面を制作している。
神楽面に用いる石州和紙は、あえて表皮のチリを取り除いていないもの。ユネスコ無形文化遺産にも記載されている『石州半紙』の場合は、こういったチリを取り除いたきれいな和紙でなくてはならない。しかし、激しい動きの多い神楽面の場合は、表皮のチリを取っていない和紙の方が頑丈でいいのだという。
柿田兼志は、和紙で作った面の魅力について「和紙の面の重さは木彫りの面の5分の1。面自体を薄くすることで内側に空間もできるので、呼吸もしやすい。大きいものを作れば作るほど、和紙の良さが出る」と話す。
また、型から和紙の面を外す際に、型自体をたたき壊す「脱活」という方法を用いるのもこの地域ならでは。型から抜く方法では作れず、脱活という方法だからこそ作れる面も多く、例えば鼻がくるっと円を描いた天狗(てんぐ)や、ヤマタノオロチの蛇頭面もそうだ。
工房を訪ねた際は、看板犬のうーちゃん(4歳、♂)へのあいさつも忘れずに。お客さんがやってくると一番に出迎えるしっかり者で、面を床に置いて作業をしている際は、近くにやってきても決して面を踏むことはない。神楽団の団員から譲ってもらったこともあってか、笛の音が鳴ると喜ぶ。