観光スポット巡り以上の価値
山田は2020年に、飛騨市古川町で町屋を改装した分散型ホテル「SATOYAMA STAY」 を開業した。同ホテルのコンセプトは「100年後の町並みをつくる」。ゲストを地域から隔離するのではなく、飛騨古川の伝統的な町家での滞在や体験を通して、飛騨の暮らしを体感してもらうことを目的としている。
「地域の人たちのありのままのライフスタイルを感じてほしい」と語る山田は、飛騨古川のような地方に観光客を呼び込む効果的な方法は、地域のコミュニティーが活気づくことだと考えている。
タイムアウト東京 > トラベル >飛騨古川でクールな田舎を作るSATOYAMA EXPERIENCEが目指す観光形態とは
「世界中の人々が訪れ、住みたくなるようなクールな田舎を作る」をビジョンに掲げ、観光事業を行う美ら地球。同社が運営する「SATOYAMA EXPERIENCE」では、「暮らしを旅する」をテーマに、持続可能な観光を提供している。
世界遺産に登録された白川郷や、2021年に持続可能な観光の国際的な認証団体である「グリーン・デスティネーションズ」による「世界の持続可能な観光地TOP100選」に選ばれた長良川流域など、いくつもの観光スポットがある岐阜県の飛騨地方を巡る「
2023年8月18日には、ツアー事業者や旅行会社を対象に持続可能性について審査を行う国際認証団体「トラベライフ」の「トラベライフパートナーステージ」を受賞。国連が認識する「グローバル・サステイナブル観光基準」に準拠していると認定され、日本では4社目、地方部では初の取得となる。
日本の観光産業においても、地域の自然や文化をツーリズムに生かしつつ、それらを壊すことなく、継承への一助とする「サステナブルツーリズム」は重要なテーマとなっている。SATOYAMA EXPERIENCEが目指す、持続可能な観光形態とはどのようなものなのか。美ら地球の代表取締役である山田拓(やまだ・たく)に話を聞いた。
山田は2020年に、飛騨市古川町で町屋を改装した分散型ホテル「SATOYAMA STAY」 を開業した。同ホテルのコンセプトは「100年後の町並みをつくる」。ゲストを地域から隔離するのではなく、飛騨古川の伝統的な町家での滞在や体験を通して、飛騨の暮らしを体感してもらうことを目的としている。
「地域の人たちのありのままのライフスタイルを感じてほしい」と語る山田は、飛騨古川のような地方に観光客を呼び込む効果的な方法は、地域のコミュニティーが活気づくことだと考えている。
飛騨古川エリアで観光を考えてきた先人たちは、「結果観光」という言葉を使っていたという。
「地域の人たちが豊かに暮らしていたら、結果人が来てくれるということです。単に街並みが残っているだけではなく、ライフスタイルそのものが残っている街を案内したい。例えば日本各地の伝建地区(重要伝統的建造物群保存地区)などは、街並みは残されているけど人がいない。建物自体はきれいですが、生活感が失われてしまっているんです。観光と地域そのもののバランスをどう取るか、というところを考えていきたいと思っています」
観光と地域のバランスを保つには、観光客が積極的に地域に参加することが一番だと考え、観光ボランティアプロジェクトを提案。古民家の修復から雪下ろしまで、町の作業に観光客が参加できるようになった。
彼らは、地元の魚たちにも手を差し伸べている。飛騨古川の街中を流れる瀬戸川にはコイが泳いでおり、越冬のために増島城跡の池に引っ越しをするという。秋に「コイ出し」、春には「コイ入れ」という作業を観光客の人に開放。現在では、毎年の風物詩になっている。
SATOYAMA STAYの建物は一棟(NINO-MACHI棟)が新築、もう一棟(TONO-MACHI棟)が古民家再生である。ツーリズムが町並み景観保全にどう寄与できるのかという考えで事業を進めており、新築も再生もケースバイケースで最適解を見出しながら、取り組んでいる。
NINO-MACHI棟に新築を選んだ理由について尋ねると、「それは地元の大工の技術を残すためです。地元の木材を使ったのも、同様に地元の林業を盛り上げたいから。今後は工芸作家の仕事も作りたいです」と山田は話す。宿泊客が滞在するだけでなく、体験を通じて地域の住民を支援することを可能にしたのである。
山田にとって全ての取り組みは、会社の存在意義でもある。
「弊社のスタッフはツアーをやりたいとか、宿をやりたいとかで集まっているわけではないんですよ。サステナブルな社会を構築するために、自分がどんな役になれるかを考えているんです。みんな、積極的ですよ」
伝統的な町並みとそれを取り巻く自然を守ることに情熱を注ぐSATOYAMA EXPERIENCEの取り組みに、今後も目が離せない。
山田拓
株式会社美ら地球 代表取締役/総務省 地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化伝道師
奈良県生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科修了。プライスウォーターハウス(PwC)コンサルタントで多くのグローバル企業の企業変革支援に従事した後、退職。その後、モンベルなどのスポンサー支援を受け、足かけ2年、29カ国にわたる世界放浪の旅に出発。期間中はウェブサイト「美ら地球回遊記」を通じて、小学校との交流や雑誌記事執筆、現地からのニュースリポートなどを行う。
帰国後、地方部の原風景に受け継がれる日本文化の価値を再認識し、岐阜県の飛騨古川に移住。2007年にクールな田舎をプロデュースする美ら地球を飛騨古川に設立。自らの旅人経験を生かし、里山や民家など地域資源を活用したツーリズムを推進する。ボランティア活動や調査など、地域住民との地域資源の保全活動をベースとし、国内外の「SATOYAMA」に魅了される人々のワンストップソリューション「SATOYAMA EXPERIENCE」をプロデュース。2013年「地域づくり総務大臣表彰にて個人表彰を受ける。
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