応援する、から一緒に楽しもう、へ
ーリキッドルームは渡辺俊美さんにとっても思い出の場所なんじゃないですか?
※本インタビューはリキッドルーム2階のタイムアウトカフェ&ダイナーで行われた。
去年まで毎年Tokyo No.1 Soul Setで年末にライブをしていたからね。新宿時代のリキッドルームのラストはTokyo No.1 Soul Setとゆらゆら帝国のツーマンだったから。しかも2デイズ。その時のゆらゆら帝国のマネージャーが、最近、Tokyo No.1 Soul Setのマネージャーになって。
ー渡辺さんは現在、さまざまな名義で活動されていますが、今年は7月24日に渡辺俊美 & THE ZOOT16としてアルバム『NOW WAVE』がリリースされました。本作が2枚組になったのはなぜですか。
最初は、(インストゥルメンタル中心の2枚目を)初回特典にしようと思っていたんだけど、インストだけで歌がなくても聞けるサウンドに仕上がっていて、それはバンドとしてサウンドを追求した結果だと思います。以前までのZOOT16は僕が中心だったけど、何十年後かのステージを想像したときに、歌よりも音楽を続けていきたい、周囲のミュージシャンと気持ち良く演奏してきたいという気持ちが強くなってきた。
これまではサックス以外は全て自分で作っていたところも多かったけど、今は自分ができない部分をバンドメンバーにも頼りながら作っている。あと、ソロ名義なら弾き語りで十分だし、ユニットならTokyo No.1 Soul Setもある。自分の中で、もう1つの音楽的側面として、バンドという表現の場所を作りたかったというのはあります。
ー今作には、家族や故郷である福島への思いも込められているように感じました。収録曲の『Happy Island』は福島という漢字を直訳したタイトルですよね。
あの曲は、当初ジャズをやりたかった気持ちとメンバーの結婚式に歌う曲を作りたいという思い、そして、リハから生まれたカリプソっぽいアイランドミュージックが合わさって「幸せなソング、カリプソ、アイランド……Happy Island……って福(Happy)島(Island)じゃん!」という風につながっていったんです。
福島への思いは変わらないし、最後に『夜ノ森のカーニバル』も入っている。
JR常磐線の富岡駅(福島県富岡町)〜浪江駅(同浪江町)が2019年度末に再開する時に、駅前でバンドで演奏したいという気持ちがあって。だから、震災から8年経って、しっとりとした曲ではなく、再開を祝うお祭りのような曲にしたくて、サンバっぽい曲調になったんです。
※夜ノ森とは福島県富岡町の地名。桜の名所としても有名で、一部はまだ帰還困難区域となっている。
ーソロ名義のアルバム『としみはとしみ』(2012年発売)に入っている『夜の森』とは全く違う曲に変化していますが、それは俊美さん自身の福島に対する気持ちの変化でもあるのでしょうか。
そうですね。今までは猪苗代湖ズも含めて、福島出身者として「応援する」という気持ちが強かったけど、今は「一緒に楽しまない?」という気持ち。
心境は変わらない部分もあるけど、音楽は進化したい。自分の成長も見せたいし、周囲の成長している人へ向けて「生きていてよかったね、一緒に踊りませんか?」という気持ちを表現したかったんですよ。
あと、ここ1年で「怒らないでいよう」って思うようになたんですよ。例えば原発についても、レベルミュージックを用いて意思表明していた部分もあって。それはそれで大事なことなのだけど、ノーを突きつけるなら、こちらにも提案できるものがないといけない。その考えの究極が「怒らない」こと。怒らない方がコミュニケーションがとれるし、怒りからは何も生まれないですからね。それは、子育てから学んだことでもあります。