大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
タイムアウト東京 > Open Tokyo > 車いす目線で考える > 第21回 車いすユーザーの住まい探し
毎年1月から3月は、進学や就職、異動などで新たな住まい探しをする人が増え、賃貸の不動産市場が活況する。物件数も年間を通して最も多い時期となり、比較的自分の希望に合う物件に出合える確率も高い。しかし一般の人に比べ、車いすユーザーの住まい探しは、時期にかかわらず困難を極める。そこで、今回は不動産会社の立場から、車いすユーザーに参考にしてもらいたい3つの物件探しのポイントを紹介しよう。
まず、3つのポイントとは、「優先順位をつける」「営業担当者を味方につける」「賃貸オーナーにメリットをつける」ことだ。
3つのPに優先順位をつける
障害の有無に関わらず、一般的に物件を決める際に指標とすべきは、Place「場所」、Price「賃料」、Plan「間取り、広さ」の3つのPだ。この3つのPが全て「満足」という物件は多くはないだろうから、妥協点も含め70~80%「納得」という物件で決断できるように、Pの優先順位をつけておくことが必要となる。この時に、妥協できない点も併せて整理しておくといい。
そして、直接不動産会社に足を運ぶ前に、不動産情報誌やサイトを利用して、物件を検索してみてほしい。大手の不動産情報サイトでは、バリアフリーを条件入力して検索できるようになっており、画像もたくさん載っているため、ある程度絞り込むことができる。ここで運良く自分に合う物件を探せたら問題ないのだが、たとえバリアフリーで検索しても、実際には玄関に段差があったり、エレベーターなしの物件だったり、室内はバリアフリーでもメインのエントランスに階段しかない、ということもあるのだ。こうしたことを知っておくと、実際に不動産会社に足を運んだときに、自分の希望条件をより明確に伝えることができるだろう。
不動産会社(営業担当者)を味方につける
まず大前提として、不動産会社は契約が成立して初めて報酬(仲介手数料)を得られるため、会社や担当者にとってより短期間で、契約件数を数多く獲得することが、ビジネス上重要になっている。
車いすユーザーが賃貸物件を探す際は、一般の人が気にもしない事を確認したり、希望条件が増えることがほとんどだと思う。例えば、共用部や玄関の入り口に段差はないか、トイレや洗面浴室の扉の幅は十分にあるか、またそのバリアを改修する工事は可能かどうか、最寄駅まで段差はないかなど、障害の種類や症状によって差はあるだろうが、細かい条件が多い。こうしたことから、一般客よりも手間がかかりそうだと思われてしまうと、対応自体を敬遠されてしまう場合がある。
そこで勧めたいのが、営業担当者に契約する意思の強さとその理由、期限を伝えることだ。「そろそろ更新の時期だから、良い物件があれば、引っ越したい」という感じだと営業担当者はやる気を出さない。しかし、「仕事の都合で、何としても3月20日までに〇〇エリアで物件を決めなくてはいけない」と伝えると、担当者は希望条件の難易度が多少高くても、前のめりになるだろう。本来、接客や情報の質に差があってはいけないが、決めるかどうか分からない客よりも、自社で契約してくれる可能性の高い客の方に、必然と力も入るものだ。
賃貸オーナーにメリットをつける
バリアフリー改修工事が一部必要となる場合は、賃貸オーナーの許可が必要になるわけだが、この交渉は難航する場合が多い。しかし首を縦に振ってもらうために、車いすユーザーが、オーナー側に提示できるメリットはある。
一般的に賃貸オーナーが望むのは常に満室であること。空室があると収入が減り、利回りが悪くなるからだ。また、同じ人が長く入居してくれることも重要なポイントなのだ。理由は、賃借人が退去する度に、ハウスクリーニングや補修など、一定の費用を貸主が負担することになるから。更新せずに2年で退去してしまう人よりも、長い期間入居してくれる人の方がうれしい。
車いすユーザーの場合、賃貸物件探しと引っ越しにはかなりの労力がかかる。自分に合った部屋に住めるのであれば、できれば長く住み続けたいと思うだろう。特に一部改修を許可してくれた物件であれば、よほど大きなライフスタイルの変化がなければ転居を考えることはない。実際に、私が経営している不動産会社で一番最初に賃貸住宅のバリアフリー化を手伝った依頼人は、入居期間がすでに7年を超え、3回の更新をしている。
つまり長期間入居は、オーナー、車いすユーザー両者にとって好都合なのだ。
全ての不動産会社で、一般客と同様の対応が望まれるが、まだまだ社会理解が進んでいないのが現状。紹介した3つのポイントを押さえて、比較的スムーズな物件探しにつなげてもらいたい。
大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
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