UFC

東京で広がるアーバン・ファーミングの魅力

アーバン・ファーマーズ・クラブ代表に聞く、都会で始める農的ライフスタイル

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テキスト:平川友紀

今、世界中の都市で、ビルの屋上やベランダなど、都市空間の隙間を利用して農業に取り組む「アーバン・ファーミング」が盛り上がりを見せている。そして2018年3月、東京でもいよいよ、NPO法人アーバン・ファーマーズ・クラブ(以下、UFC)が立ち上がった。

農業というとハードルが高そうに感じるが、家のベランダで、プランターを使って育てるような小さな「畑」も、アーバン・ファーミングの一つ。UFCが提唱するのは、そんな「都会だからこそ実践できる、サステナブルでオーガニックな都市型農的ライフスタイル」だ。 

立ち上げ当初、まさかここまでの広がりを見せるとは思っていなかったと話すのは、代表の小倉崇。多くの都市生活者の心を捉える、アーバン・ファーミングの魅力について尋ねた。

渋谷の真ん中に現れる、小さな畑

渋谷駅から代官山方面に向かって渋谷川沿いを歩くこと10分。並木橋を過ぎた遊歩道に、箱型の小さな菜園が2つ、見えてくる。UFCが手がける農園、通称「渋谷の畑」だ。

 

廃材を集め、みんなでDIYして作ったという畑は、根物野菜が育てられるように土の深さは50センチに設定され、腰をかがめずに作業ができる高さで作られている。

鳥よけの網で覆われた畑では、水菜やルッコラ、ラディッシュにスイカが、川沿いにある麻袋を使ったプランターでは、オーガニックコットンが育っていた。

「食べてみますか?」とその場でちぎってくれたルッコラは、みずみずしく、爽やかな苦味がとてもおいしい。渋谷の真ん中で、畑から直接野菜を食べる体験ができるなんて驚きだ。決して広くはないが、確かにここは畑である。

UFCは、入会金1,000円を払えば誰でも会員になれる。フェイスブックグループを使ったメンバー専用のオンラインサロンでは、自己紹介やイベント案内のほか、畑の様子などが逐一報告されている。

直接手がけている農園は、渋谷の畑、表参道の東急プラザ屋上、恵比寿ガーデンプレイスとウノサワビルの屋上の計4箇所。希望する会員は、家の近くや職場の近くなど、好きな農園を選び、チームに入ることができる。平均して10名前後のメンバーが、順番に水やりや草取りを行っているという。

 

UFC代表の小倉崇(おぐら・たかし)

「メンバーには野菜を育てたいという人だけじゃなく、子どもを土に触れさせたい、農を通じてコミュニティーをつくりたい、サードプレイスっぽいものが欲しいなど、いろいろな人がいる。

近隣の保育園の子どもたちは、食育として種まきや草取り、収穫などをしているし、行政の人たちはまちづくりにつながると言っている。アーバン・ファーミングは、360度いろいろな価値観で切り取れるんだよね。そこが面白いと思う」

田んぼ部、みそ部など、興味のあるメンバーが集って行う、部活スタイルのグループの活動もある。ほかにも、もう少し本格的な農業がしたいと思い始めた人のために、山梨県の甲府では田んぼを、神奈川県の藤野では「UFCリトリートセンター」という拠点を設け、広い畑で野菜を育てたり、会員向けに農業講座を開くなど、活動は幅広い。

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都市生活者は、本能的に土に触れたがっている

UFCの前身は、小倉が相模原市で自然栽培農家として働く知人の野菜に感銘を受け、世の中に広めたいと始めた「ウィークエンドファーマーズ」という農業体験イベントだ。

これが口コミで評判となり、渋谷のライブハウスから「渋谷でも何かやりませんか?」と声がかかった。そしてライブハウスの屋上に作ったのが「初代・渋谷の畑」だった。  

 

「あの畑で行うイベントには毎回数百人が参加していたし、それ以外にも毎日のように見学者がいた。こんなところで出来るのならうちのベランダでも、と実際に野菜作りを始める人も現れました。

それだけたくさんの人が来てくれるということは、都市生活者も本能的に土に触ったり、作物を育てる場所を欲しているということ。知人の野菜を広めるという目標も達成したので、これからは、都市生活者のためにこの活動を更に広げていくことが自分の役割だと思ったんです」

そんな小倉の思いに共感する仲間も集まり、満を持してUFCは立ち上がった。キックオフパーティーには驚くほど大勢の人が集まり、予想以上の反響があったという。

「びっくりしたよね(笑)。自分がやりたいと思うことをコツコツ形作って発信していったら、共感してくれる人がたくさんいたってことかな」 

 

UFCの会員は現在、約330名。キックオフの際には「SHIBUYA 2020 URBAN FARMERS PROJECT」という、具体的なビジョンを掲げた。これは、2020年の東京オリンピック開催までに、渋谷区内に2020人のアーバン・ファーマー(市民農家)と、2020カ所のアーバン・ファーム(市民農園)を開設しようというもの。

途方もない数字に思えるが、ロンドンでは、2012年のロンドンオリンピックを契機に2012箇所の市民農園を開設し、現在も継続している「キャピタルグロウス」という先例があり、決して夢物語ではないという。

実際、何かしらの形でUFCに関わってきた人を合計すると「もう2020人は余裕で超えてるのでは」と小倉。たった1年半で、なぜここまで多くの人がアーバン・ファーミングに魅了されたのだろうか。

「例えばシェアファームだと、お金も結構かかるし、一から十まで全部自分でやるのは初めて野菜をつくる人にはハードルが高い。でもUFCなら、農業に興味のある人たちが集まっていて、どうすればいいのかも教えてもらえる。最初の入り口としてすごく入りやすかったんじゃないかな」

そしてもうひとつ注目すべきは、土に触れるとストレスの素になるコルチゾールという値がグンと下がり、多幸感をもたらすオキシトシンという成分がグンと上がるということ。

これは研究者の実証実験でも証明されている。つまり、何かとストレスの多い都市にこそ、土と触れ合える場が必要なのだ。

本格的じゃなくていい。マイクロファーミングから始めてみよう

 

心身の健康ににもプラスになるアーバン・ファーミング。「やってみたい!」と思ったら、どんな方法があるのだろうか。

「都会でも土と種があれば、野菜はできます。器やプランターの底にバーミキュライトかパーライトを薄く敷く。そのあと、赤玉土の小粒を2、それに対して腐葉土を1、よく混ぜ合わせたものを入れて種をまけば、だいたい芽が出る。

例えば、僕たちはマイクロファーミングと呼んでいるんだけど、コーヒーカップに土を入れて種をまき、キッチンにでも置いとくのね。そして、ちょろちょろっと葉が出たら、それをつまんでサンドイッチか何かに挟んで食べる。簡単でしょ。育てて食べるという体験が大切だからね」

コーヒーカップサイズなら、野菜を育てた経験がなくてもなんとかなりそうだ。それでも不安な人や仲間が欲しいという人は、気軽にUFCに参加してみればいい。東京にいながら、自分らしい農業が始められるだろう。

『アーバン・ファーマーズ・クラブ』の詳細はこちら 

アーバン・ファーミングを始めるなら……

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  • 自由が丘

青山にある人気のインテリアショップ。厳選された国内外の食品や生活雑貨のほか、ガーデニンググッズやハーブ、観葉植物の取り扱いも豊富。植物が多用されたインテリアは、真似したくなるポイントもいっぱいだ。オーガニックのハーブの種なども販売している。

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足立区都市農業公園
足立区都市農業公園

「自然と遊ぶ、自然に学ぶ、自然と共に生きる」をテーマにした公園。園内にある「人と自然の共生館」には、植物について教えてくれるインタープリターが常駐。農業やガーデニングなどの常設展示や解説、イベントを頻繁に行っているほか、農業体験ができる小型農園もある。約50種類ほどの桜のほか、チューリップやコスモスなども植えられ、季節ごとの花が楽しめる。種やガーデニング用品の販売はしていない。

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ビオトープ

白金台にある、3フロアから構成される複合型ショップ。1階のビオトープナーセリー(BIOTOP NURSERIES)では、植物やガーデニングアイテム、ボタニカルアイテムを取りそろえている。種の販売はないが、クランベリーやライチなど、室内でも育てやすいフルーツの植木が豊富。3階には、テラス席が気持ちの良いレストラン、アーヴィング プレイスが入居している。

平川友紀 ライター
リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごす。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。現在はまちづくり、暮らし、生き方などを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。

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