サステナブル特集
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

第2回:東京の飲食業界とSDGs

サステナブル特集:魚大国ニッポンは、海の資源を守れるのか(後編)

広告
タイムアウト東京 > Things To Do > 魚大国ニッポンは、海の資源を守れるのか(後編)
テキスト:浅野陽子

SDGs(エスディージーズ)とは「サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ(Sustainable Development Goals)」の略称で、2015年に国連が採択し、地球上の課題をカテゴリー別に落とし込んだゴールのこと。SDGsの世界の国別達成度ランキング(2020年)では、日本は主要国を大きく下回り、162カ国中17位だった。

大量の食品ロス、魚の獲り過ぎ、プラスチックごみで侵されている海の資源の問題などがマイナス点だが、この事実を知る日本人は少ない。

サステナブル特集の第1回では、世界の漁獲量や魚へのニーズの大きな変化や、日本国内で流通するMSC「海のエコラベル」付き製品について書いた。今回は日本の飲食業界で最新の取り組みを行っている、都内のシェフやレストランの事例を紹介する。

関連記事

第1回:漁業資源からSDGsを考える
第3回:映画からSDGs「食品ロス」問題を考える
第4回:東京のミシュランシェフが闘う食品ロスとSDGs
第5回:食品メーカーのサステナブルとSDGs

「サステナブルと美食」をうたった初のフレンチ

「日本で魚が獲れない、まずいことになっている」というのは飲食業界ではすでに知れ渡っており、シェフたちも危機感を感じている。独自の基準で環境に配慮して獲られた魚を使う店も増えているが、前回書いた「持続可能な漁業で獲られたMSC認証魚を正式に扱っている店」として、原宿のフランス料理店シンシアブルー(Sincere BLUE)が挙げられる。『ミシュラン東京2021』一つ星獲得の高級フレンチ、シンシア(Sincere)のセカンドラインとして、2020年の9月にオープンした。

シンシアブルーの料理は大半をシーフードメニューが占める。そこで使う素材の約半分はMSC認証と、(養殖に対する国際認証の)ASC認証の魚や貝を使っている。冒頭の画像の、甘くないたい焼きは同店の名物料理だ。これもASC認証のマダイを使っている。

シックなフレンチレストランだが、たい焼きをメインに食べ放題の前菜ビュッフェ、デザート付きのフルコース1本で、ドリンク込み(アルコールとノンアルコール、全て飲み放題)で約1万円と衝撃的にリーズナブルな価格設定が大好評だ。小さな子どもも入店可能(土・日曜・祝日のランチ時のみ)なのも女性客や家族連れにうけ、平日も満席になっている(2020年12月の取材時の状況)。

シェフが里帰りの度に感じる、今そこにある危機

 店の立ち上げから関わり、メニューも考案したシンシアブルーのシェフ、吉原誠人(よしはら・まさと)。吉原は海の近くで生まれ育った。魚に対する思いは人一倍強い。近年は、故郷の海の変化に強い危機感を感じているという。

「僕の地元は鎌倉です。子どもの頃から近所の海でイワシやサバをどっさり釣って家に持ち帰り、すぐ食べるような環境で育ちました。ですが、いま里帰りすると『魚が獲れない』『5年前と大違い』と昔からの顔なじみ、特に年配者が口をそろえて言います。海岸線が上がり、昔は海の家で盛り上がっていた砂浜が年々狭くなっているのも怖さを感じます。温暖化の影響でしょうか」

吉原は料理人になってすぐ、フランスで1年修業を積んだ。その際、「自分の育った国のことをもっと知りたい、鎌倉以外の日本全国の食を知りたい」という思いを抱き、帰国後に全46都道府県をバイクで周遊した。その際、海沿いの全ての地域で「魚が昔のように獲れない」と聞いたことにも衝撃を受けたという。

サステナブル特集
2020年9月に開業後、すぐに満席が続く人気店に(Photo: Keisuke Tanigawa)

シンシアブルーのシェフとなった現在は、フランス料理店としての味の完成度は大前提に前出のMSC、ASCの認証エコラベル付きの魚などをメニューに使い、海の資源管理に貢献するような工夫を凝らしている。

また「未利用魚(みりようぎょ)」と呼ばれる魚もカルパッチョなどにして提供。これは国際認証からは外れるが、市場に出回らない、従来は捨てられてしまっていた魚のことだ。調理の工夫で、十分フレンチで出せるメニューになると吉原は話す。

オープンから半年経ち、リピーターも多いが「海の資源に興味があるから来た」という客は少ない。注文時に「MSC認証魚というのはこういう漁業で獲られた魚で」などスタッフが説明を加え、客の環境への意識を促しているそうだ。

一方、飲食店関係者が自社の勉強のために来店するケースは増えているそうで、食の業界でのサステナブルのニーズが日々高まっているのを感じているという。

「今一番多いのは30〜40代のお客さまですが、できれば未来を担う20代の方をもっと多くお迎えして、海や魚の現状を知っていただきたいですね」(吉原)

広告

マクドナルドでもエコラベル認証に

 シンシアブルーは単独店の例だが、日本国内では飲食店を展開するチェーンでもサステナブルに取り組む企業が増えている。ホテル内のレストランだが、ハイアットグループでも認証魚を提供している。

またマクドナルドでも、フィレオフィッシュの箱にMSC「海のエコラベル」が付いているのを知っているだろうか。サクサクの衣、しっとりした白身にタルタルソースがきいたあのフライには、実はMSC認証の魚が使われている。

幅広い世代の人が、子ども時代から一度は口にしているだろう、フィッシュバーガー。この身近なメニューを選ぶことで、海の資源管理に貢献できるというのはうれしい。

「マクドナルドは世界100カ国以上、3万9000店舗でビジネスをしています。皆さまにいつまでもおいしいものをお届けするために食材、包装類は持続可能なものでなければならないと考え、サステナブルな食材や資材の調達を推進しています」(日本マクドナルドの広報担当者)

サステナブル特集
日本マクドナルドのトレーマットでもMSC「海のエコラベル」を紹介(Photo: Keisuke Tanigawa)

明治創業の老舗寿司店からも発信

そして最後に、品川区にある明治創業の老舗高級寿司店、松乃鮨4代目の手塚良則(てづか・よしのり)の取り組みを紹介したい。

手塚は2015年にイタリアのスローフード協会のイベントで登壇した際、日本の漁業やサステナビリティについて多く質問されたことが、この問題を考えるきっかけになった。

サステナブル特集
イタリアで寿司を握り、登壇した手塚(松乃鮨)

「以来、何度か大間のマグロ漁船に乗せていただく機会がありました。魚の稚魚を獲ったらきちんと海に還すという、未来を考えている漁師さんはいます。しかし一方で、魚や海の資源の知識がある人は、私を含め日本でまだまだ少ないのが現状です。

漁業のプロと一般のお客さま、両方に訴えられるのは我々寿司屋。今後も多くのことを学び、発信を続けていきたいです」(手塚)

その後、さらに手塚は奔走し2021年2月、松乃鮨はMSC認証魚を取り扱うためのCoC認証を取得した。

以上、海の資源管理に取り組む日本の飲食店の例を書いた。日々なんとなく耳にする海の資源に関するニュース。前編と合わせて現状や、水産物の国際認証について知り、少しでも興味を持ってもらえれば世の中は変わっていくのでは。

一人一人が小さな行動を起こすことで、海の資源サイクルは回るようになり、現世代から次の世代にサステナブルの輪がつながっていくだろう。

広告

ライタープロフィール

フードライター。食限定の取材歴20年、「dancyu」「おとなの週末」「ELLE a table(現・ELLE gourmet)」「AERA」「日経MJ」「近代食堂」など食の専門誌を中心に、レストランや料理人への取材多数。テレビのグルメ番組への出演実績もある。「NIKKEI STYLE」(日本経済新聞社)の人気コーナー「話題のこの店この味」で毎月コラム連載中。
おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告