創刊号を読み解く 第8回 - ダ・ヴィンチ

あの雑誌の創刊号に映るものとは? 創刊号蒐集家たまさぶろが分析

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創刊号マニア、たまさぶろによるコラムの第8回。今回は、1994年に創刊され、現在も発行されている総合文芸誌『ダ・ヴィンチ』を取り上げる。

求人会社であるリクルートが創刊した「本の情報マガジン」は、25年の長きにわたって厳しい出版業界を生き残ることができたのか。創刊号のページをめくりながら、たまさぶろがひもとく。

斬新だった「本の情報マガジン」

リクルートは1960年に大学新聞広告社として創業。『企業への紹介』『就職ジャーナル』などを発行し、求人を生業として立ち上がった。1984年に社名を株式会社リクルートに変更(現リクルートホールディングス)、『アービーロード』や『とらばーゆ』など、一貫して掲載情報そのものが広告である媒体を発行してきた。

そのため、出版物を多く発行してきているものの、同社はあくまで求人会社であって、出版社ではないと捉えている。一連の紙媒体は、掲載してもらう側が広告料を支払い、情報を発信するビジネスモデルで、媒体側が自らのコストで取材し、雑誌として購買を促すモデルとは一線を画すからだ。

そんな中、リクルートの発行物として最も雑誌としての体を成しているのが、『ダ・ヴィンチ』である。「まったく新しい本の情報マガジン」と銘打った本誌は、1994年5月号として創刊。書籍の広告掲載を目的とするのではなく、企画があり連載があり、コンテンツとして成り立っている一冊だ。そして、雑誌で書籍の紹介をするというコンセプトは、当時極めて新しく映った。『本の雑誌』とも異なる、この唯一とも言えるコンセプトが、現在でも発行され続けている理由の一つだろう。

表紙を飾るのは本木雅弘。彼の当時のお気に入りの一冊、クリストフの『悪童日記』を携えての撮影だ。「著名人とその愛読書」という表紙撮影は、創刊からシリーズ化していたと記憶している。2019年4月発行の創刊25週年号では、大泉洋が花束を背負っているカットが採用されているが、やはり左手に書籍もしくはノートのようなものを携えているので、やはりこのフォーマットは現在でも踏襲されているのだろう。

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表2はNECのデジタルブックの広告。1度目の引退前の伊達公子を起用している。これだけ早い時期にデジタルブック化を進めていたにもかかわらず、すっかりKindleに席巻されてしまうとは。

5ページ目は目次。創刊スペシャル企画として「本で広げた私の好奇心」が最上段に。宮沢りえ、村上龍、柴門ふみ、佐野史郎、辻仁成、渡辺真理、大沢在昌、嶌信彦などの著名人が名を連ね、自身と書籍の関わりについて語っている。

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次に「『ワイルド・スワン』の祖国、中国人の素顔」と題し、中国人家族の現状と『ワイルド・スワン』の著作者で作家のユン・チアンのインタビューが掲載されている。最近はその名を聞かなくなったが、同著は当時世界で1000万部を売った大ベストセラーだった。

紙面後半には映画『ジョイラッククラブ』も取り上げられており、世界から中国の家庭文化が注目を集めていた時代が読み取れる。こうした中国の古き良き文化も雲散しつつある現在が、最近の報道などでも知られるところだ。

当時のヒット作は……?

ページをめくると本の雑誌らしく、「今月の装丁大賞」「今月の腰巻き大賞」として、それぞれの優秀作をピックアップ。前者は書籍の表紙など装丁そのものを評論したグッドデザイン賞みたいなものだ。後者は書籍の「帯」について論評。「腰巻き」という表現は、出版界の業界用語である。

ベストセラーも取り上げている。本号の「今月のヒットチャート」は、1位から逸見政孝・晴恵の『ガン再発す』、浜田幸一の『日本をダメにした九人の政治家』、野口悠紀雄の『超整理法』と続く。鬼籍に入られた人々の名前も多い。

ジャンル別にその月の「出版社推薦本」を紹介するページでは、ミニマムな書評が定番コンテンツとなっており、かなりのページ数を割いている。この点は、非常にリクルート的な誌面作りだ。私も当時は本誌をのぞいては、どれを買おうか購買リストを作っていた。

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「大作家を15分でマスターする 解体全書」では、松本清張をピックアップ。このシリーズは好評だった見え、1996年にはスピンアウト、『解体全書』としてムックで発売された。

表3、表4は

表3の見開きは、またも本木を起用した富士銀行の広告。写真は調理中にフライパンを返している構図だが、飛び跳ねたソーセージがまるで鼻の穴から伸びているように見えるので、異なるショットはなかったのかと、思わずやきもきしてしまう。

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表4は、こちらも創刊したばかりの扶桑社文庫。藤井フミヤがイメージキャラクターだ。本誌中でも、やたらと扶桑社文庫が取り上げられているのはご愛嬌だろう。

奥付に目を通すと、発行人は木村義夫。リクルートの専務取締役を務めた方と思われる。編集人は長薗安浩。長薗は後に『ウェルウィッチアの島』で文壇デビュー。2001年からは文筆業に専念している。アートディレクターは市川敏明が務めている。

版元は変われど

本誌はその後、リクルートからその関連会社の一つであるメディア・ファクトリー(前身は、リクルート出版)に譲渡され、2011年にはKADOKAWAがメディア・ファクトリーを買収。現在、その名はいちブランドとして残る。実際、本誌の版元はKADOKAWAとしてamazonでも表示されるようで、かつての角川書店から発行されている。

雑誌がどんどんと姿を消していく昨今、版元は変わっても、末永く書籍の未来を取り上げ続けてもらいたい一冊だ。

たまさぶろ

1965年、東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。このころからフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社にてChief Director of Sportsとしての勤務などを経て、帰国。『月刊プレイボーイ』『男の隠れ家』などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで1500軒超。2010年、バーの悪口を書くために名乗ったハンドルネームにて初の単著『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』(東京書籍)を上梓、BAR評論家を名乗る。著書に、女性バーテンダー讃歌『麗しきバーテンダーたち』、米同時多発テロ前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』。「あんたは酒を呑まなかったら蔵が建つ」と親に言わしめるほどの「スカポンタン」。MLB日本語公式サイトのプロデューサー、東京マラソン初代広報ディレクターを務めるなどスポーツ・ビジネス界でも活動する。

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