アートディレクターは木村裕治
もし自分が物書きでなかったら、一体何になりたかっただろう。おそらく『Esquire』の編集者だろうと思う。
アメリカの男性誌の雄『Esquire』の日本版が発行されていた事実を、今の若手編集者などは知らずにいるのではないだろうか。
『Esquire』は1933年10月、アメリカシカゴで創刊され「世界で最初の男性誌」とされる。創刊編集長はアーノルド・ギングリッチ。ヘミングウェイやスコットフィッツ・フィッツジェラルド、ダシール・ハメットやドロシー・パーカーなどが寄稿したことで知られる。1925年創刊の『ニューヨーカー』よりは若いが、創刊85年を超えるアメリカを代表する雑誌だ。2013年現在、本誌はハースト社が保有しており、拠点もニューヨークに移っている。少し古いデータだが、2012年時点で72万部を発行している。
日本版の『エスクァイア』が創刊されたのは1987年のこと。1974年創業の就職採用事業会社、株式会社ユー・ピー・ユーから発行された。リクルートが各種情報誌を発行しているので、就職採用事業会社が雑誌を発行していた事実に違和感を覚える方は多くないだろう。しかし、リクルートの発行誌はほぼ広告カタログである点と比較し、こちらは天下の『Esquire』日本版だ。出版人たちは驚きを持って迎えた。
仕掛け人は、編集兼発行人の吉澤潔。1948年京都市生まれの彼は、25歳で京都大学を卒業すると、その翌年1974年にユー・ピー・ユーに設立とともに参画。1984年に同社代表取締役となり、その後、本誌を立ち上げた。本誌の発行は1995年「株式会社エスクァイアマガジンジャパン」名義に移行。発行人は引き続き吉澤、編集人は山田三夫となっている。奥付では、吉澤の意気込みが語られている。
創刊号には「月号」表記がなく「Spring」とだけ記されている。第2号予告も「7月上旬発売予定」とだけあるので、季刊としてスタートしたことになる。
表紙は、『Esquire』の赤い表紙の上にヘミングウェイの人形が置かれた写真。ヘミングウェイは同誌の象徴というわけだ。アートディレクターは、木村裕治。武蔵野美術大学卒、森啓デザイン研究室、江島デザイン事務所を経て1982年に独立。本誌のほか全日空機内誌『翼の王国』『東京人』『和樂』などを世に送り出して来た大御所である。最近では朝日新聞の『GLOBE』などを手がけている。