バンブーツリーハウスを造る
合計12万平方メートルの土地を手に入れた二人は2018年7月、自家製のオーガニック野菜をふんだんに使った「白糸うどん やすじ」と「森のお菓子屋 緑の詩~みどりのおと~」をオープン。同時に、子どもたちが農業体験をするキッズファームも始動した。
この時はまだ、客の数は少なかった。転機になったのは、糸島の日本青年会議所(JC)のメンバーが訪ねてきたこと。彼らは2015年から、糸島の放置竹林問題についての啓蒙(けいもう)活動を行っていた。糸島市のホームページによると、市内には竹林が約360ヘクタール、耕作放棄地への侵入竹林が約450ヘクタールも広がっているそうだ。
ここで、糸島に限らず、日本全国で問題になっている放置竹林について簡単に説明しよう。一昔前、タケノコの栽培や竹材として繁殖力の強い外来種のモウソウチクが輸入された。ところがニーズの低下と山林所有者の高齢化などで放置されたモウソウチクが増殖。その強力な繁殖力で既存の植生を破壊することに加え、根の張り方が浅く、土砂崩れの危険性を高めることにもつながるため、対策は全国的に喫緊の課題になっている。
白糸の森に来たJCのメンバーは、「3年間、町の中でイベントをやってきたから、今度は森の中でやりたい」と相談に来た。前田は山を切り開く時、竹に悩まされたし、大串は建築家として杉ばかりの人工林が木材として使われなくなり、放置されて荒れ果ていくことに心を痛めていたことから、その申し出を快諾。何をしようかと一緒に頭をひねった。
その際、JCのメンバーの「森の現状を見られるようにしたらどうか?」というアイデアから生まれたのが、木製のデッキと樹上に竹をドーム型に組んで造ったバンブーツリーハウス。JCからの声かけで、麻生建築専門学校の施工コースの学生たちも一緒に設置作業を行った。
これが完成したのは、2021年6月。地上から5、6メートルのところに作られたバンブーハウスに入ると、普段とは違う視点で森を見ることになる。目の前に立ち並ぶのは、杉の木と竹ばかり。山という自然の中で、まずはその不自然な状態を知ってもらおうという取り組みだ。