捕鯨問題から考える、多様な考えとコミュニケーション

世界目線で考える特別編『「おクジラさま ふたつの正義の物語」上映会&トークイベント』をレポート

Mari Hiratsuka
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2017年9月1日、タイムアウト東京が主催するイベント『世界目線で考える』の特別編『「おクジラさま ふたつの正義の物語」上映会&トークイベント』がタイムアウトカフェ&ダイナーにて開催された。当日は、太地町でのイルカ追い込み漁と人々を追ったドキュメンタリー映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』を制作した監督の佐々木芽生をゲストに迎え、タイムアウト東京の東谷彰子が司会を務めた。

95分にわたる上映後のトークセッションでは、本作のキーパーソンである、元AP通信記者のジェイ・アラバスターがイルカ漁解禁日当日ということで現地(太地町)から、元シーシェパードのスコット・ウェストと娘のエローラがアメリカからSkypeで質疑応答に参加。会場の参加者40人とともに、クジラ、イルカ問題についてより白熱した議論が展開した。その模様をレポートする。 

上映の余韻が残るなか、Skypeで質疑応答がスタート。質疑応答に参加した4人のプロフィールを紹介する。

本作の監督佐々木芽生(ささき めぐみ)は、映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』を2010年秋から6年の歳月をかけ、クラウドファンディングで資金を調達しながら完成させた。ビートたけしからは本作に対して「捕鯨でも、反捕鯨でもない、どっちつかずのいい映画だ! イルカ漁を巡って太地の港を右往左往する人間たちのコメディ」というコメントが寄せられた。

元AP通信記者のジェイ・アラバスターは映画『ザ・コーヴ』をきっかけに太地を取材し、本当に漁師を理解するために太地町に住んでいたジャーナリスト。現在は、論文作成のため太地町に再び滞在している。この日の現地の様子を尋ねると、「警察や海上保安庁、記者団はたくさんいたが、今年は活動家は2人だけで、海が荒れていたので漁は30分くらいしかしていませんでした」と現地の様子を教えてくれた。

元シーシェパードのスコット・ウェストと娘のエローラはシアトルに在住。スコットは、シーシェパードを辞めた理由として、シーシェパードがシーシェパードがグリンピースのように大きな団体になったことや、目指す方向性と変わったため辞めたそうだ。娘のエローラは、シーシェパードは組織としてポジティブな部分もあるが、ほかの活動にも興味があったので違うグループで活動している。

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会場からの質問

ースコットさんとエローラさんは、映画を観て太地町の人々への思いは変わりましたか

スコット:自分の考えは全く変わっていません。貧困問題やアートなら二面性があるかもしれませんが、この問題には二面性がないと思っています。自分も家族を守るために仕事をしているので、そういう部分では理解できますが、捕鯨は環境にマイナスの影響を与えていると思います。何よりも私たちの活動に対して日本政府が意見をまったく聞き入れないことに苛立ちを感じています。日本は島国で海に頼って生きている国です。だからこそ海を守る活動を率先してするべきではないのでしょうか。

エローラ:自分の太地町での滞在を振り返るということで、良い機会になりました。しかし、信念は変わりません。映画を観て、様々な人の意見を知れたのは良かったと思っています。

ー明らかに侮辱するようなことをしていましたが、その行動を悔やんでいますか

スコット:まったく後悔していません。それ以上にイルカが殺されることの方が残酷だと感じるからです。侮辱するような行動をすることで、自分たちが漁を妨害するという目的は達成しています。質問者さんが怒るのはわかりますが、その矛先は我々ではなく日本政府に向けるべきでしょう。日本は意見を世界にアピールすることができていないです。

アラバスター:こういう対話は今までにも多くありました。スコットとエローラはこの活動に情熱をもって取り組んでいます。そしてキャンペーンが上手な人たちです。西洋社会においては、2人のような反対意見が主流です。日本側はそこに対する意見を上手に発信することができていないということを知っておいた方が良いでしょう。

ージェイさんに質問です、太地町のイルカ産業に携わる人とシーシェパード、それぞれ尊敬できる点は何でしょう

アラバスター:シーシェパードも町民も、志のある行動をしています。情熱を持って行動していることには敬意をもっています。

ー伝統捕鯨と調査捕鯨はまったく違うようなものだと思いますが、スコットさんはどう思いますか

スコット:この2つの歴史的な違いは、あるかとは思います。太地町は歴史的な経緯があってかつては生きるために漁を行っていましたが、今後も続けるかは別だと思います。イルカの追い込み漁は、歴史的なものではないので、文化、歴史の理論にはなりません。現在、ノルウェー、アイルランド、日本がイルカ・クジラ漁をしています。そのなかでも太地町は1800から2000頭と捕獲量が多く世界に与える印象や態度には問題があるでしょう。

ー太地町の子どもや住民はシーシェパードの活動をどう感じていますか

アラバスター:私は、太地町でサッカーチームのコーチをしていて子どもたちや親と交流があります。子どもたちはシーシェパードの活動している様子が日常の光景で、怖いとは思っていませんが、不思議に感じているようです。地元の人たちは言語の問題からコミュニケーションがとれず、何が起こっているかわからない状態でもありました。

エローラ:たしかにコミュニケーション問題はあったと思います。私たちの活動が正しい方法だったかはわかりませんが、対話が生まれることはなかったです。

ーシーシェパードが今年の調査捕鯨妨害を取りやめというニュースが発表されましたが、なぜ止めたのだと思いますか 

スコット:私は実際に抗議船に乗って、捕鯨船の漁師と戦ったこともありました。日本の軍隊が船を守り始めたことで、小さなグループが対抗するのが難しくなったからではないでしょうか。

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質疑応答の後、アラバスターから参加者に対して「捕鯨に賛成か、反対か」という質問が投げかけられた。賛成派20人、反対派10人に分かれ、会場からは「確かにイルカ漁に反対する意見も分かるが、そこで生活している人のことは守るべき」、「当事者の状況も知らずに反対、賛成と簡単に言える問題ではない」などの意見が出た。さらに、フランス人の参加者からは、「映画を観て感じたのは、本当に複雑な問題ということ。フランスはクジラやイルカ漁に反対の国ですが、日本より対話がうまれています。さまざまなトピックで対話をするのがいいと思う」との意見も。「今は太地町が新しい未来を考えてシフトチェンジする機会かもしれない、捕鯨に反対する気持ちが少し強まった」などテーマの複雑さや太地町、シーシェパードら海外からのイルカ漁への考えなど、様々な意見が交わされた。

監督の佐々木は、この問題について日本人は無関心なところがあるが、欧米では圧倒的に反対派が多く、日本大使館に行っての抗議活動も行われている。本作をきっかけに少しでも多くの人から議論や意見がうまれてほしいと締めくくった。

佐々木芽生(ささき めぐみ)

1987年よりニューヨークに在住。1992年4月からテレビのレポーターとしてニューヨークの経済情報番組に出演する。2008年にドキュメンタリー映画『ハーブ アンド ドロシー 』で監督デビュー。世界屈指のアートコレクションを築いた公務員夫妻のドキュメンタリーは、世界30を越える映画祭に正式招待され、米シルバードックス、ハンプトンズ国際映画祭などで、最優秀ドキュメンタリー賞、観客賞など多数受賞した。2010年秋から6年の歳月をかけ、クラウドファンディングで資金を調達しながら、映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』を完成させる。

公式サイトはこちら

映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』
2017年9月9日(土)よりユーロスペースほか順次公開
公式サイトはこちら
配給:エレファントハウス
 (C)「おクジラさま」プロジェクトチーム

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