2016年4月で7周年を迎えたタイムアウトカフェ&ダイナー。4月はアニバーサリーマンスとして期間限定で伊勢うどんを提供したり、新世代のキーパーソンとなるアーティストたちが多く出演したイベント『Song For A Future Generation』や、寺社フェス『向源』とのコラボレーションイベントなど、様々なイベントが開催されてきた。タイムアウト東京が主催し、毎回様々な分野のエキスパートを招くトークイベント『世界目線で考える。』のスペシャルバージョン、『世界目線ラウンジ』もその一つだ。全3回開催された『世界目線ラウンジ』の最終回、そして7周年スペシャルイベントのラストを飾る『世界目線ラウンジナイトエンターテイメントの未来』が2016年4月26日に開催された。風営法改正をリードし、ナイトカルチャーやナイトエコノミーの持つポテンシャルをいかした魅力ある都市づくりに取り組み続ける弁護士の斉藤貴弘と、2015年に『Sensuous City [官能都市]』を発表し、都市の魅力を測る新たな定義と尺度を提案し注目されるHOME’S総研所長の島原万丈をパネラーとして迎えた同イベント。実際に住む人の目線から考える住み良い街や、夜をいかした街づくりや観光、これからの新たな夜の遊び場の形についてなど、それぞれに持つ観点から存分に語ってもらった。
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イベントは昨年、『Sensuous City [官能都市] 』という200ページを超えるレポートを出した島原による「都市にはもっと官能が必要なのではないか」という話から幕を開けた。sensuousという言葉を辞書で引くと、(1)感覚の、五感の(2)五感に訴える、感覚を楽しませる(3)官能的な、内観的なといった言葉が出てくる。いかがわしい感じの意味合いもなきにしもあらずだが、ここでは主に感覚の話。つまり島原が発表したレポートは、感覚で都市を評価してみたらどうなのかということに挑戦したものなのである。彼は、東京、ないしは都市というものを考えていくうえで新しい物差しを提案したいというのがこの調査の動機であると語ってくれた。
もともとの問題意識としては、都市が均質化していっているのではないかということ。2020年にオリンピックが決まったこともあり、東京のあちらこちらで再開発が進んでいる。グーグルの画像検索で「再開発」と検索するとずらずらと出てくる同じようなビルの写真をスクリーンに映しながら、こうも同じ物になってしまった理由は再開発事業に存在するフォーマットの影響だと説明した。このフォーマットでは、昔ながらの街を一度更地にして、大きなビルに建て直すことが良好な都市型住宅だとされているのである。この結果、ごちゃごちゃと存在していた面白い飲み屋、いわゆる横丁が東京中から姿を消しつつあるのだ。
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では、本当に住みやすい街とは一体どんな街なのか。たとえば、東洋経済が出している『住みよさランキング』。2015年版で22年目を迎える非常に由緒あるこちらのランキングでは、4年連続で千葉ニュータウンがある千葉県の印西市が住み良さナンバーワンの街に輝いている。なぜ印西市が1位になったのかというと、東洋経済の『住みよさランキング』の指標は、安心度、利便度、快適度、富裕度、住居水準充実度の指標で測られているからである。つまり、病院のベッドが人口あたりどれくらいあるか、都市の公園面積が人口あたりどれくらいあるかなど、建物がよりたくさんある、より大きくある、より新しくある、こういった街が住み良い街だと評価されているのだ。そのため、あまり人口がなかった郊外に大きなショッピングモールを作って、大きな公園を作って、新築住宅分譲を行うと一気に上位になるというのだ。さらに、『SUUMO』が毎年出している『住みたい街ランキング』は、「あなたが住みたいと思う街はどこですか。3つあげて下さい」というインターネットでの人気投票のため、どうしても良く知られている街でないと出てこないという事情になっているようだ。しかし、これで本当に我々が感じている都市の魅力というものを測れるわけがない。そこで、打ち出されたのがSensuous Cityという新しい物差しだ。
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Sensuous Cityを打ち出す際に島原が参考にしたのが、世界的に有名な都市計画家、ヤン・ゲールの言葉である。「街は、人々が歩き、立ち止まり、座り、眺め、聞き、話すのに適した条件を備えていなければならない。これらの基本的活動(アクティビティ)は、人間の感覚器官や運動器官と密接に結びついている」と語る彼を参考に、島原は都市の魅力を動詞で評価しようと考えたのだ。具体的にどう評価したのかというと、都市に生きているとは、不特定多数の他者との関係性のなかに存在するということから、共同体(コミュニティ)に帰属している感覚があるか、匿名性があるかなどといった関係性指標を4つと、身体で経験し五感を通して都市を知覚するという観点から、美味しいものが食べられるか、自然を感じられるかなどの身体性指標4つの計8つの指標を設け、さらに32の項目を作り、47都道府県の県庁所在地、および東京や横浜、大阪に関しては区ごとに分割し、全体で約1万8千人を対象にアンケートを行ったのだ。その結果、1位に輝いたのは、寺や神社も多い東京都文京区であった。そのほか、2位の大阪市北区、3位の武蔵野市に関しても、街に商店街があったりと、活気がある街が上位にランクインしたという。
では、Sensuous Cityとは実際にどのような街なのであろう。世界の都市計画や都市のあり方に大きな影響を与えたジェイン・ジェイコブズは、約50年前に『アメリカ大都市の死と生』という本を出版し、そのなかで都市の普遍的原理は多様性だと語った。彼女が提唱する都市の多様性を生み出す4原則によると、多様性を生み出すためには住宅や商業などが混在していること、街区は小さく街路や角を曲がる機会が頻繁であること、古い建物もあること、密集していて多くの人がいることの4つの項目を満たすことが必要だという。実際にランキングの上位25%に入った街の特徴を集計してみると、小さな酒場が集まった横丁や個人経営の喫茶店、雰囲気のあるレストラン、商店街、古本屋など、個性ある店が多いのはもちろん、かといってファミリーレストランやカラオケボックスなどのチェーン店がないわけでもなく、住宅や古い建造物、そして様々な店などが密集している街であった。また、1人暮らしの女性が安心して暮らせたり、外国人が住んでいたり、夫婦共働きの家庭があったりと、あらゆる人々が暮らしやすい街となっているのも特徴的だ。つまり、Sensuous Cityには多様性があり、その多様性が魅力ある街づくりには欠かせないものだということがいえよう。「都市にはもっと官能が必要だ」という言葉で彼のプレゼンは締めくくられたがまったくその通りだ。新しいものばかりに溢れた似通った街ばかりでなく、実際に住む人が街自体を楽しめるような要素を持つ街や都市がこれから支持されていくことだろう。
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続いては、アムステルダムで開催されていた『ナイトメイヤーサミット』から帰ってきたばかりの斎藤から最近のナイトライフ事情が語られた。まず初めに、彼自身が法改正をリードしてきた風営法について簡単に説明しよう。1948年から存在する風営法とは、風俗営業や性風俗などを主に規制している法律だが、同法ではナイトクラブやディスコといったダンスに関しても、キャバクラやパチンコと同様にこれまで風俗営業として定義されてきた。また0時以降の営業は禁止されていたほか、0時前の営業やダンス教室でさえかなり厳しい許可を取って営業していたという。さらに、0時以降は飲食店での食事に遊興(エンターテインメント)を加えてはならないともされていたのだ。
この法律のもと、これまでナイトエンターテインメントは違法、あるいは法的にかなりグレーなところで営業をしなければならない状態となっていた。しかし、ここ3、4年くらいで多くの人が疑問を持って動き出し、昨年の6月23日に法律自体が変わり、そして今年の6月23日(木)にその変わった法律が施行されるという運びになったのだ。改正されてどうなったのかというと、まずダンスによる規制はすべて撤廃され、0時以降に酒や食事を楽しむ場でのエンターテインメントの提供も許可があれば可能となったのだ。
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これまでは本当に好きな人が身銭を切ってやってきた部分もあるが、改正後は夜を使ってどのような面白い街が作られていくのかがテーマになっていくという。ライブエンターテインメントを夜間でも展開したり、ホテルや飲食店でバンドやDJのライブを開催するなど、今後は外国人を多く呼び入れるための都市開発のなかでも夜の使い方が色々と検討されているのだ。
斎藤が参加した『ナイトメイヤーサミット』では、ナイトクラブやライブハウスに加え、関連業種を巻き込み、シーンエコノミーを形成し、それをどう街づくりの中で活性化させていくかという話のほかにも、ナイトクラブのなかで生まれるカルチャーや、そこに集まるエッジの立った人たちが街のなかで活躍していく場をどう作っていくのかという議論もなされたそうだ。焦点を当てるべきは、クラブ単体の利益の部分だけでなくクリエイティブシーンやクラブシーンが、ほかの分野で勢いをつける誘発剤となっているかというところ。会場では、クラブのなかだけで盛り上がるのではなく、そこから街の開発や観光、ファッション、アートに良い影響を与えていくことがクラブカルチャーの価値として認識されていたと斎藤は語った。実際にベルリンでは、3千万の宿泊観光客のうち35%がクラブツーリズムに代表されるようにナイトクラブを訪れる観光客だといい、行政もそのことを認め補助金も出しているそうだ。また、アムステルダムの元副市長が民間の都市開発コンサルティングを立ち上げて街づくりに提言した際も、ナイトカルチャーをとても重要視していた。日本でもついに風営法が改正されたが、ナイトカルチャーが文化的な土壌として価値のあるものだと定義されているヨーロッパと異なり、いまだにいかがわしさやネガティブなイメージが持たれている日本では、せっかく夜の扉が開いてもナイトエコノミーや文化、人的なネットワーキングの価値をすぐに作ることはなかなか難しいのではないかとこれからの課題も提示し、イベントはタイムアウト東京代表の伏谷博之が聞き手として参加するトークセッションへと移っていった。
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トークセッションは、タイムアウトカフェ&ダイナーの7周年を祝う乾杯からスタート。参加者との質疑応答も含めながら、熱いトークが繰り広げられた。なかでも印象的だったのは、夜という観点を含めて考えるこれからの街づくりについて。夜の遊び場というと今はまだクラブなどが中心だが、今後はホテル、飲食店、ギャラリーや各種イベントスペース、さらには水上も会場となっていく可能性が大きいというのだ。すでに海外のホテルでは、ラウンジやプールサイド、ルーフトップなどを会場にイベントを開催しているところも多いほか、日本の新しい風営法でもホテルは営業できるエリア規制がなく、新しいエンターテインメントの場としての展開が期待される。さらに、現在の深夜営業というのは繁華街を想定しているため、繁華街でない水辺は営業可能地域から外れているのだが、羽田空港の国際化や24時間化とともにインバウンド観光も見据えて現在開発が進められている東京湾沿いにおいて、エンターテインメントによる夜間も含めた賑わい創出もより重要になってくる。現時点では東京湾のなかであれば営業可能になっており、陸地は不可でも東京湾の海上であれば可能となっているそうだ。夜と水辺の掛け合わせはすごく面白いのではないかと斉藤も話していたが、船の上や桟橋、海上建築物のなかで踊る日もそう遠くはないかもしれない。
斉藤の言葉を借りれば、昼間は皆いろいろな肩書きや責任、見てくれがある。しかし、夜になるとその肩書きを置いて素でコミュニケーションをとり始めることができるのだ。クラブという場所にも様々な人が集まり、そのときばかりは誰も立場などを気にしたりせず、ただひたすらに音楽を楽しむ。多様な人々が自由に、そして生きやすい空間となっているクラブは、島原の言うとおり都市やコミュニティの凝縮された場所、そしてセンシュアスシティの凝縮された場所なのかもしれない。また、斎藤が語ったように都市の一つの機能として今後重要な部分を担っていくことだろう。
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改正風営法が2016年6月23日(木)に施行されるが、改正されてからが本当のスタートラインだと言っても過言ではない。風営法改正によって夜間市場の扉が開かれたが、地域規制など、まだまだ解決すべき問題は多いのだ。また、夜の街と聞いて水商売のようなものを思い浮かべる人も今はまだ少なくないかもしれないが、斉藤がアムステルダムに行きヨーロッパ中の人と話してクラブカルチャーというものはアートであると感じたように、ヨーロッパではクラブは実験場であり、遊び心を持った人が訪ねてくる場所だと認識されている。このような共通認識は今の日本ではまだ持たれていないかもしれないが、今後どのようにナイトライフの認識が変わっていくのか、どのように新しい定義を作り上げていくのか、夜を使ってどう面白い街にしていくのか、そして2020年に向けてさらに必要になってくるであろう夜の遊び場や夜をいかした観光資源をどのように作っていくのか。夜の扉が開かれた今、これまでは比較的別物として捉えられがちだった夜と街づくり、夜と観光という部分がどのように掛け合わせられていくのか期待したいところである。何にせよ都市にはもっと官能が必要なのだから。
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斉藤貴弘(さいとうたかひろ)
弁護士
2006年に弁護士登録。勤務弁護士を経て、2012年に斉藤法律事務所を設立。(http://saitolaw.com)。近年は、ダンスやナイトエンターテインメントを広範に規制する風営法改正をリードするとともに、ナイトカルチャーやナイトエコノミーが持つポテンシャルを魅力ある都市づくりに生かすべく、新しい業界作りをサポートしている。規制緩和やルールメイキングに向けた取り組みは風営法以外にもおよび、東京都の創造的発展を目指す民間有識者からなる「NeXTOKYO」プロジェクトのメンバーでもある。またオランダ・デンハーグの先端アートフェス「TodaysArt」、L.Aのインターネットラジオ「dublab」、それぞれの日本ブランチメンバーとして創造的な文化を生み出すプラットフォーム作りにもコミットしている。
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『インタビュー:齋藤貴弘 弁護士』
島原万丈(しまはらまんじょう)
HOME’S総研 所長
1989年株式会社リクルート入社、株式会社リクルートリサーチ出向配属。以降、クライアント企業のマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略のプランニングに携わる。2004年、結婚情報誌「ゼクシィ」シリーズのマーケティング担当を経て、2005年よりリクルート住宅総研。2013年3月リクルートを退社、同年7月株式会社ネクストHOME’S総研所長に就任。ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事。2014年『STCK & RENOVATION 2014』、2015年『Sensuous City [官能都市] 』を発表。
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