IRの収益をアートマーケット拡大に
IR(統合型リゾート)とは、カジノだけではなく、ホテルや劇場、国際会議場や展示会場、ショッピングモールなどが集まった複合施設のこと。すでにラスベガスやマカオ、シンガポール、韓国などでは、IRが大きなメリットをもたらす観光客誘致施策であることが実証されている。日本でも近年注目を集めており、2018年7月に特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)が公布・施行されるなど、法整備も進んでいるところだ。
カジノ営業を国の認可した区域に限定させ、ギャンブル依存に対する対策も進めるなど、具体的なルールも徐々に固まりつつある。しかし、カジノにまつわる話題が先行していたこともあり、IRへの一般的な理解や認知は不十分と言わざるを得ない。
そこで、今回の『世界目線で考える』は、IRが生み出すメリットや考え得る展開について、ゲスト登壇者たちのアイデアを聞く場となった。
まず、太下がプレゼンテーションの冒頭で示唆したのは、IRの収益が日本のアートマーケットを活性化させる、という可能性だ。太下はIR事業による収益の用途が、IR事業者の募集要項では明示されていないことを指摘する。
「アメリカではIRの収益が第2の税金といわれているほどの規模を持ちます。なんらかの形で収益が自治体に納付されるはずで、その用途について国会の付帯決議で社会福祉と文化芸術の振興などと明記されています。一方、文化芸術に関連する施策を選択することが、日本のアートマーケットを拡大させるチャンスになり、日本の美術市場を拡大させることにつながると考えます。
では、なぜアートなのか。今、世界の美術品市場からすると、日本の市場は先進国の中でも最も小規模です。例えばアートマーケットの市場規模は1位のアメリカと2位の中国、3位のイギリスが占めており、日本はランキングに名前すら上がりません。世界目線で考えると、ほとんど日本にはアートマーケットがないといっても良い状況です。
美術館や博物館などに充てられる日本の文化予算は年間約1,000億円。政府予算の全体のたった0.1%と、先進国の中では最下位です」
さらに太下は、IRにおけるカジノが占める面積は全体の面積のうち3%以下しか取れない、という条件があることを挙げ、ノンゲーミングの領域におけるスペースの用途が文化の振興に役立つのでは、と続ける。
「カジノ以外のスペースの用途としては、美術館や博物館などといったカテゴリーは提示されていますが、具体的な例は明示されてません。私は、例えばミラノ万博でも人気を集めた日本の食文化に関するミュージアムを作ることが効果的であると考えています」