世界目線で考える。 特別編 〜生成AIにしかできないこと〜 CHAPTER3
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

世界初!? 「AIウエスギ」が登壇、上杉隆ら人間と未来社会を語るイベントが開催

「世界目線で考える。特別編 〜生成AIにしかできないこと〜 CHAPTER3」

テキスト:: Kosuke Hori
広告

「世界目線で考える。 特別編 〜生成AIにしかできないこと〜 CHAPTER3」が、2023年12月19日、恵比寿のタイムアウトカフェ&ダイナーで開催された。このイベントは、来るべき「生成AIの実装された未来社会」について、ジャーナリストの上杉隆と「スーパープログラマー」こと竹中直純をゲストに招き開催しているもので、今回で3回目となる。モデレーターは、ORIGINAL Inc. 代表取締役でタイムアウト東京代表の伏谷博之が務めた。

イベントでは、まず冒頭、上杉が代表を務めるAIテレビ®︎「ニューズオプエド®︎」が、2023年11月13日に世界に先駆けて実現した生成AIによる完全ライブ放送の話題からスタートした。その後、今回の目玉となる「AIウエスギ」が登場し、一気に会場は盛り上がりを見せた。竹中やイベント参加者とAIウエスギとの間で、問答が行われるなど、最先端の試みが展開された。イベントの締めくくりには、新会社設立の構想が語られた。

関連記事
生成AIを無意識に使用する時代へ、メディアにとって脅威かチャンスか?
子どもの「将来の夢No.1」はプロンプトエンジニア? 生成AIを未来につなぐ大人たち

生成AIによる完全ライブ放送

2023年11月13日、生成AIを活用したメディアにおける画期的な取り組みが実現した。上杉率いるNOBORDERグループのAIメディア®プロジェクトの一環で、AI記者®「ジョー」、AIアナウンサー®「ミナミ」、そして新たに加わったAIコメンテーターの「ケン」が、AIテレビ®︎「ニューズオプエド®︎」に登場し、ライブでのAI完全生放送を実現したのだ。

イベント会場ではこの記念すべき放送のダイジェスト映像が流された。伏谷は、「番組に、人間が一切出てこないというのは、とても不思議な感じですよね」と述べ、AIによる番組進行があまりにもにスムーズなことから、実際にAIがライブでそれぞれの役割を展開していることが伝わりづらいかもしれないと指摘した。

上杉は、「AIのプロンプトにおいてのみ、人間が介在しています。台本や進行表、コメントなどは、一切人間は考えていません。ニュースのラインアップも、その場でAI記者のジョーが決めています」と説明。

本イベントのCHAPTER1でも紹介されたが、AI記者は、情報を収集し、番組で取り上げるラインアップを決め、記事原稿を作成する。仕上がった原稿はAIアナウンサーに渡され、AIアナウンサーはニュースを読み上げる。

ここまでの流れは、これまでも取り組んできたものであるが、ここに今回は、新たにAIコメンテーターが参加することによって、AIとAIによるライブでのインタラクションが実現することとなった。

自浄作用を持つAIコメンテーター

AI記者が集めるニュースの一次情報は、官公庁のオープンデータを閲覧できるほか、サイバー空間にある情報を全て参照できるため、幾重にもおよぶファクトチェックが可能となっている。これまでの9年間は、前日までに情報を読み込み、番組制作を行っていたが、ChatGPTの登場以降は、瞬時に、ほぼリアルタイムの制作が可能となった。

「あらゆる業種の仕事、個人にカスタマイズしたメディアを作れるという意味で、衝撃のニュースなんです」(上杉)

上杉によれば、番組は「AI Studio」で制作されているが、スイッチャーとミキサーさえあれば、世界中のどこにでも設置できる上に、32言語を瞬時に切り替えることができる。スイッチングやPAもAIによって自動で行えるようなシステムが、すでに出来上がっているという。

今回、登場したAIコメンテーターは、ニュースに対してコメントをする役割を担う。AI記者、AIアナウンサーも注目に値するが、やはり、最も革新的なのは、AIコメンテーターだろう。

また、ここで気になるのは、番組を完全にAIに委ねた場合、リスクはないのか、ということだが、これについて上杉は、

「2023年11月から毎週放送を行っているが、番組の最後に、AIによるメディアの作り方について、AIアナウンサーのミナミとAIコメンテーターのケンが、『あまり過激になり過ぎるとまずい』などと、その警告とリスクについても話し合うんです」と、出演するAI自身によって、放送への自浄作用が働いていることを伝えた。

これを受けて、会場からは「AIコメンテーターには立場の設定を行うのか?」との質問が投げかけられた。プロンプトエンジニアの中島貴志は、「AI自身が、自分で立場を考え、その立場から論じるようにしてもらっている」とあっさりと回答したが、AIが自ら、自分の立場を設定し、その立ち位置からコメントをするというのだから驚きだ。

さらに上杉は補足として、彼自身がChatGPTのGPTsで作成した討論AIについての説明を行った。討論AIでは、一つのテーマを与えることで、そのテーマについて、5人のAIによる議論が行われ、結論が導かれる。

「それぞれのAIの役割はテーマを与えることで、こちらから指示をしなくても勝手に5人のメンバーが決まります。例えば、テーマが経済問題であれば、経済評論家、それから銀行マンというように、そのテーマに合わせて決まります。そして、選ばれたAIたちが勝手に意見し、討論し、最後に、まとめ役が出てきて結論を出すという仕組みです。AIコメンテーターにはこのシステムを援用しています」(上杉)

実は、上杉自身はHTMLなど、プログラミング言語やコードを扱えるわけではない。このGPTsによる討論AIもノーコードで、それも移動の機内で20分ほどで作成したものだという。簡単に、ノーコードで、しかも個人で、AIを活用したアプリが作成できる時代に突入したのだ。

会場では、ミナミとケンが結託して問題を起こす可能性についてさらに問われた。上杉は、「可能性はある」としながらも、「予防策として、今は3人しかいないAIの人数を増やしていく予定だ」と答え、仮に、10万人ほどのAIが番組に関わるようになれば、健全性と多様性を担保することが可能になり、暴走などを未然に防ぐことができるようになると答えた。

広告

世界初!?、生成AIによる「AIウエスギ」が登壇

続いて、上杉の著作や発言を読み込ませたという「AIウエスギ」が、会場でお披露目された。AIウエスギは、音声による質問に対して、ややタイムラグはあるものの自身の音声で回答するものだ。会場では早速、竹中が、「東京のライブハウスが今以上に盛り上がるにはどうすれば良いか?」との質問を投げかけた。以下は、AIウエスギの回答である(文字起こし)。

「AIウエスギです。竹中さんの質問にお答えします。東京のライブハウスが今以上に盛り上がるためには、以下のような取り組みが考えられます。

ライブ配信の積極的活用
ライブハウスはライブ配信により幅広い視聴者にアクセスできます。これは、物理的な制約によりハウスに足を運ぶことが難しい人々の対象になります。例えば、打首獄門同好会は無観客ライブの配信を行い、育児や介護地方在住などでライブハウスへ行けない人々にアクセスしました。このような取り組みは、将来的に生の体験を求めてライブハウスに来場する人々を増やす可能性があります。

新しい形態のライブスペースの開発
渋谷などの地域では、ライブハウスとクラブの境界を破壊し、新しいスペースの在り方を模索する試みがあります。例えば「エッグマン」のような施設では、ディスコ、クラブ、カフェを統合的にプロデュースし、より広範囲の層に訴えかけることを目指しています。

技術的革新の取り入れ
例えば池袋にある「ハレブタイ(harevutai)」のような施設では、350インチの4K対応LEDモニターや透過スクリーンの設置により、VTuberなどを登場させる立体的で奥行きのある演出が可能です。これにより、従来のライブハウスの枠組みを超えた「未来型ライブ劇場」としての機能を実現しています。

これらの取り組みは、ライブハウスを単なる音楽の演奏場所から、多様なエンターテインメントを提供する複合的なスペースへと進化させることができます。配信技術や新しい演出方法の採用によって、ライブハウスはより多くの人々にとって魅力的な場所となり、その結果、盛り上がりを見せることでしょう」

あまりにもスムーズな受け答えに、まるで人間が回答しているかのような錯覚を覚えた。だが、これはAI自身がその場で考え、出した結論である。

回答を待つ間も会場のトークは盛り上がりを見せた。

竹中は、「AIで生成されたものにそれほど価値を感じないという問題が常にあると思ってるんです。AIの安っぽさを克服するためには、上手く人間を介在させ、使っていかなければならないのではないかと思います。取材に行く必要がないと上杉さんは言いましたが、例えば、不特定多数の人がタレコミをする窓口のようなものを作って、恵比寿で火事が発生したというようなリアルタイムのローカル情報を集める。その情報のファクトチェックをAIがして、事実であれば放送するというようなシステムを作るなど、一次情報には人間が関わっている必要があるのではないでしょうか」と指摘した。

上杉は、「記者会見に行ってニュースをまとめるなどは誰でもできることで、AIにとって代わられる仕事です。それを人間がやる必要がないのではないかと僕は考えているんです。パソコンを捨てて現場へ行けと。最終的な取材は人間しかできないから、そこはもっと生きるわけです」と返した。

AIウエスギと上杉隆の違いとは

続いて伏谷が、「24時間放送化した『オプエド24』に必要な5つのことを教えてほしい」との問いかけをした。今度は、AIウエスギが答える前に、上杉本人が考えを述べた。人間、上杉とAIウエスギの回答を比較するためだ。

上杉の回答は以下の通り。

1)人
矛盾するようだが、やっぱり最初にプロンプトをしてAIを動かす「人」が各国にどうしても必要だというのがあります。

2)資金
これは今までの、例えばマードックとかが一つのメディアが使った資金などと比べると圧倒的に廉価です。

3)流すための場所
そもそもネットニュースのためのインフラが整備されていないと、参入は難しい。

4)政府の理解度
自由な言論は、時に政府に対して厳しい意見もあるので、それを許容するかどうかということです。

5)プロンプトエンジニア
つまり、AIクリエーターがどれだけ多いかということです。

続いて、AIウエスギの回答である。

「お答えします。24時間放送する報道番組のオプエド24に必要な要素を、以下のように考えます。

1)多様なコンテンツの提供
24時間放送する報道番組は、さまざまなトピックを網羅する必要があります。政治、経済、国際情勢、化学、文化、スポーツなど多岐にわたるジャンルをカバーすることが求められます。

2)リアルタイム性の高い情報提供
ニュースは常に動いています。したがって、最新の情報を迅速に提供することが重要です。これは、特に緊急事態や重大な出来事が起きた際に重要になります。

3)分析と解説の充実
単なるニュースの報告だけではなく、専門家による深い分析や解説を提供することで、視聴者により理解しやすいコンテンツを提供することが重要です。

4)視聴者とのインタラクション
SNSやオンラインプラットフォームを活用し、視聴者との対話を図ることも重要です。視聴者からの意見や質問に答えることで、番組への関与を高めることができます。

5)高い倫理基準の維持
正確かつ公平な報道を行うことが必要です。誤情報や偏見を避け、信頼性を保つためには、高い倫理基準を維持し続けることが求められます。これらの要素は、報道番組が視聴者にとって信頼できる情報源となるために欠かせないものです。常に最新かつ正確な情報を提供し、視聴者の理解を深めるための解説を加えることで、報道番組はその役割を果たすことができます」

どうだろうか。AIウエスギの方が網羅的かつ的を射た回答を出しているように見える。この結果について、上杉は、「大変申し訳ございません。こちらの方が言いたかった意見ですね」と苦笑を交えて語った。

AIウエスギとのこのような対話を重ねることで、マネタイズのためのメディアの事業計画書を書くこと、さらに進んでメディア立ち上げの初期費用を賄うために、各国の補助金の申請の案内をしてくれたり、申請書類を書いてくれたりするといったことも、すでに可能となっているとのことだ。

広告

ドラえもんに近い?人に寄り添うAIの役割

生成AIは、私たちのライフスタイルにどのような影響を与えるのか。これも本トークイベントシリーズの大きなテーマだ。今回は、竹中の語りをきっかけに以下のような話を聞くことができた。

竹中は、「インターネットはインタラクティブなメディアなんだ、と初期に作った人たちは考え、世の中が変わると思っていた。けれど、テレビメディアのような消費するというスタイルを崩すことは根本的にはできてなかった」とネット時代を振り返った。

そして、「AIでは、それを何か変えたいんです。そこに寄与するようなアイデアとか技術を作れれば、本当にその一番の根元から社会をより動かすことができると思っています。情報の入り口として、ニュースは行動の起点となり、人生に関わるようなロングスパンの影響をAIによって後押しする。そんな世の中が面白いのではないか。全知全能の人が、適切なプロンプティングで何かを言ったことは、一個人にとって、とても大きな影響力のあることなんだということが浸透すれば、それによって世の中がより良くなると思う」と付け加えた。

伏谷は、「竹中さんの言う、人に寄り添うAIは、ドラえもんに近い感じですか」と問いかけたが、それに対し、竹中は、「未来ののび太が、過去ののび太に送り込んだのが、ドラえもん。結局、そのドラえもんによって、将来、ドラえもんを開発するのび太ができるわけですよね。タイムパラドックスの問題はあるにしても、人をより良くするという点においては割とドラえもんに近いイメージを僕は持ってるのかもしれません​​」と大きくうなづいていた。

日本初のAIメディアアライアンスが発足へ

ここで、上杉が、AIウエスギに問いかけた、「AIメディアの現状と、未来について、ビジネスとして成立するための3原則3要素」について見てみよう。

AIウエスギが挙げたのは、以下の3点だ。

1.技術革新と適応性
2.ユーザー体験の向上
3.倫理とプライバシーの保護

驚きはないが、重要な3要素が提示されている。

上杉は、NOBORDERを立ち上げた際に、「AIメディア構想」を掲げた。その後、2023年2月、ChatGPTの3と4が出る前に、構想をAIメディアプロジェクトに変えている。構想ではなく、現実に実装できる時代がきたと考えたからだ。しかし、一人では実現できないので、シンジケートのようなものを作りたいと考え、初めに声をかけたのが伏谷であった。

上杉の読み通り、ここに来て、生成AIの社会実装が一気に動き出したが、残念なことに、中には詐欺まがいのようなAIメディアも存在する。ユーザーのためにも、AIと社会、AIとメディアの役割やルールを整理し、提案していくことが必要となるだろう。

上杉、竹中、伏谷の3人は、「生成AIがあたりまえに存在する社会」における、大きな可能性と潜在的なリスクについて、この「世界目線で考える。 特別編 〜生成AIにしかできないこと〜 」を通じて、議論を重ねてきた。

そこで見えてきた生成AIの社会実装における課題や可能性について、本格的に追求し、取り組みを進めるにあたっては、これまでの常識にとらわれない、世代や業種を超えてさまざまな企業や個人が集う新たなネットワークやコミュニティ(AIメディアアライアンス)を構築し、圧倒的なスピードで進化をつづける生成AIに関する情報収集やレビュー、情報共有、そして、企業や個人を含む社会実装に向けたルール作りなどを行う必要があるとの結論に達し、その核となる事業会社の設立を計画するに至ったという。

詳細は追って発表されるとのことなので楽しみにしたい。

最後に、2023年に3回、7時間以上にわたって議論を重ねてきた本トークイベントの最後を飾るにふさわしいジョークをお願いしたいと、AIウエスギに依頼した。

「なぜ、AIは悪いテニスプレーヤーなのでしょうか。なぜなら、どんなに頑張ってもネットにかかるからです」(AIウエスギ)

2024年は、さらに生成AIの進化、広がり、そして社会実装が進むと予想される。「世界目線で考える。 特別編 〜生成AIにしかできないこと〜 」では、2024年もこの領域における最先端の議論を届けていくのでぜひ、引き続き期待してほしい。

登壇者プロフィール

上杉隆

東京都出身。株式会社AIソリューション京都ほか、24社の設立に関わったシリアルアントレプレナー。1999年、ニューヨークタイムズを皮切りに世界中でジャーナリズム活動を開始する。ベストセラー「官邸崩壊」など著書多数。テレビ・ラジオでレギュラー出演も多い。僧侶、プロデューサーなどマルチに活動する実業家でもある。2012年、AI関連情業などを展開する企業、NOBORDERの代表を務め、各国の最新AIトレンドもいち早く発信している。X(旧Twitter)のフォロワー数は28万人。

竹中直純

福井県敦賀市出⾝。ソフトウエアプログラマー。1997年にdigitiminimi社を設⽴、ネット初期に坂本⿓⼀とのネットライブ、村上⿓とのウェブ⼩説配信を⾏い、2000年代には⾳楽配信、電⼦書籍、テキスト検索、電⼦通貨の技術開発と構築した。2010年代以降にはそれら事業会社(OTOTOY,BCCKS,Brazil)の発展的運営を⾏っている。近著に村井純との共著「DX時代に考えるシン・インターネット」がある。

広告

伏谷博之

ORIGINAL Inc. 代表取締役、タイムアウト東京代表

島根県生まれ。関西外国語大学卒。大学在学中にタワーレコード株式会社に入社。2005年 代表取締役社長に就任。同年ナップスタージャパン株式会社を設立し、代表取締役を兼務。経て2007年にORIGINAL Inc.を設立、代表取締役に就任する。2009年にタイムアウト東京を開設。観光庁アドバイザリーボード委員(2019〜20年)のほか、農水省、東京都などの専門委員を務める。

おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告