生成AIにしかできないことCHAPTER 2
Photo: Kisa Toyoshima
Photo: Kisa Toyoshima

子どもの「将来の夢No.1」はプロンプトエンジニア? 生成AIを未来につなぐ大人たち

上杉隆と竹中直純が登壇、「世界目線で考える。特別編〜生成AIにしかできないことCHAPTER 2」レポート

寄稿:: Mie Yoneya
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2023年10月30日、「広島AIプロセス」での、主要7カ国(G7)の首脳間で合意に至った生成AI(人工知能)に関する行動規範と指針を受けて、企業のみならず個人レベルでの生成AIへの興味関心がこれまでにないほど高まっている。

そんな機運の高まりを感じる前夜とも呼べる8月、タイムアウト東京が主催したトークイベント「世界目線で考える。特別編〜生成AIにしかできないこと CHPTER 1」では、生成AIの潜在的な脅威から、近い将来、魂や意識は宿り、人生のパートナーになり得るか​​に至るまで、さまざまな観点から議論された。

好評につき、10月26日にはCHAPTER 2を開催。登壇者は前回同様、ジャーナリストの上杉隆と、「スーパープログラマー」こと竹中直純、モデレーターはORIGINAL Inc.代表取締役でタイムアウト東京代表の伏谷博之が務めた。

加えて、GPTソリューションズ・インターナショナル社長で、アル・ジャジーラAI研究所主任である重信メイらも参加し、有用なプロンプトエンジニアリングや著作権を守る方法などをテーマに、前回以上に白熱。3時間を超える議論となった。

ここでは、その様子をダイジェストでレポートする。生成AIの進歩のスピード、社会の動勢は、我々の思惑を超えて凄まじい速度で変化している。子どもたちの憧れの職業にAI関連職が入るのもそう遠い未来ではないだろう。

過渡期にある今、私たちは生成AIを「どんな存在」として認識し、何を期待し、注意すればいいのか。半歩先の未来を創るヒントを得てみよう。

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「AIニュース」の進化

上杉が手がける完全自動生成のAIテレビ®︎「ニューズオプエド®︎」は、ChatGPT「GPT-4」の登場により、これまで積み上げてきたノウハウを活用しながら、システムを大幅に入れ替えたという。

記事1本当たりの作成時間はおよそ5秒。事実誤認はほぼゼロだという。なぜなら、生成AIに依存するのではなく、生成AIが作った記事を最終的に人間がチェックしているからだ。

「人間がチェックしたものを人間がチェックする工程から、AIに作らせたものを人間がチェックするような仕組みを構築することで、より多くの質が高い記事が生成できるようになりました。そうすることで、これまでのように企業の広報などが間違った情報を出し、ブランドを傷つけるような事態は避けられます」と上杉は語る。

実際に、AIテレビ®︎、AI記者®︎、AIアナウンサー®︎などの商標を持つ上杉には、問い合わせや講演依頼などが急増している。

とはいえ、さまざまなデータを学習して記事を作るAIニュースの情報元や、二次情報提供者である新聞社などの著作権における議論は続いている。

「AIニュース作成に当たって使用するのは、基本的に、総理官邸や都道府県などが発表する一次情報。これらは私たちの税金によって作られた情報なので、著作権は除外されます。新聞社などのメディア上にある二次情報を使用する場合は、必ずクレジットソースを明記しています」と上杉は参照元への対応について述べる。

生成AI開発に政府が大幅投資、日本の現在地

「広島AIプロセス」でサミット議長国だった日本は、他国に先駆けて「生成AIにおけるスタンダードをまとめる」と述べたことに、竹中は注目する。

「必要なことは、何か事故が起きたときに微修正するくらいの柔軟な法整備です。実際に欧米の法律はそういうふうにできているし、アメリカの憲法は何回も修正されています」(竹中)

広島では踏み込んだ議論はなされなかったようだが、今年4月、ChatGPTの開発者である「OpenAI」の最高経営責任者(CEO)であるサム・アルトマンと内閣総理大臣の岸田文雄が会談を実施。日本の強みであるアニメや浮世絵などの画像・映像生成技術も踏まえて、ChatGPTに関しては限定的に日本に優位な契約をすることを約束していいる。

それを受けて、政府は生成AIに関する助成金や補助金を出すように指示。愛知県の「STATION Ai」をはじめ、神奈川県横須賀市と栃木県鹿沼市では全職員にChatGPTのプロンプトエンジニアリングの講座を実施するなど、日本中がOpenAIを中心とした生成AIにシフトし始めている。

伏谷は「この先どうなっていくのかうまくイメージできないまま、国が後押し、予算がついているようにも感じられます」と危惧する。

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人がAIに追随する世界になってしまうのか……

「AIは、WordやExcelのような道具としての側面を持ちつつも、将来を予測し、我々に知見を与えてくれる道具という点では真逆の存在でもあります。道具だったはずが、私たちはChatGPTが出力するものに従っています。一歩間違えれば、人間がChatGPTに支配されてしまうこともあり得るでしょう」(竹中)

近い将来、私たちが普通に生活していても、至る所で生成AIと接点を持つ世界が訪れる時のために、そのメリットとリスクについて考えるというのが、このイベントの趣旨だったはず。しかし、一足飛びにそこにたどり着いてしまった場合について、伏谷は怖さを覚えている。

「その不安を解消するには、勉強することですね」と竹中は即答した。「AIで代替できる仕事が増加していることを考えても人間はどんどん働かなくてもよくなってきているし、その先の収入について不安も感じている。しかしその不安はどこに根ざしているのかという倫理的な問題をもう一度考えるべきなのです」(竹中)

日本に生成AIが根付く時

竹中が指摘するAIの側面を認めながらも、上杉は生成AIを巡る日本の現状を分析する。

「実際には、AIを使うのは単純に欲望を満たすため。経営者にとって重要なのは、効率化だったり、人員削減だったり、AIが経営にどう寄与できたりするかということです。今がその絶好のチャンス。現状ではモラルやルールを作るのは難しいが、スマートフォンがそうだったように、人々が無自覚のうちにAIを使うようになることが、汎用化・ブレイン化できる唯一の道かもしれません」

健全な言語空間が出現する可能性があるのは、AIがプライベート、パーソナルで使われるようになったときだと、上杉は期待する。

そもそも日本の教育は、覚えた年号を試験に出すなど記憶優先だった。しかしChatGPTなどのAIが登場した今、それは不要になった。教育を担う人々が、答えのあるものは全てAIに任せればいいというように意識転換ができれば、AIはもっと日本中に広がるだろう。

「少し時間はかかるかもしれないですが、学習指導要領に組み込めば広がりが期待できます」(上杉)

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プロンプトエンジニアリングにおける言語の壁

プロンプトエンジニアリングにおいて「何が問題か?」と考えたとき、最も大きいのは「日本語の壁」。生成AIで拡張機能を使えば、一瞬にして30もの言語が変えられるという時代に来ているのに、日本はそれを導入しない。ゆえにガラパゴス化されてきたし、既得権層も変わらずにいる。

「日本語が自然言語である私たちは、当然日本語でプロンプトをやる。しかしプロンプトエンジニアリングでは、日本語で入力するのと英語で入力するのでは圧倒的に差が出てくる。ネイティブではない日本人が英語でプロンプトして、また日本語に戻す。ほかの英語翻訳を使ったり、いわゆる『日本語英語』で入れたりもできるが、やっぱりネイティブには勝てない」(上杉)

ここで、生成AIのプロンプトエンジニアリング技術を活用したコンサルティングサービスを提供するGPTソリューションズ・インターナショナル社長で、アル・ジャジーラAI研究所主任の重信メイが議論に加わった。

「プロンプトに使用するのは自然言語。つまり数字とローマ字です。日本語の場合、それに漢字、平仮名、カタカナを加えた4言語を使いますが、それを戻すという作業が加わるため、情報量が低下します」と重信は指摘する。

「ChatGPTは92%、インターネットは60%が英語です。つまりほとんどを英語で学習し、英語で適切な可能性を示しています。それに対してパーセンテージが少ない日本語やアラビア語はAIが学習する確率もまだまだ低く、ベストな解答の可能性は低いのです。

もう一つは、日本語、英語、アラビア語、フランス語など、それぞれの言語によって人間の考え方、ポートプロセスが違うということ。英語を基に学習したAIは、それらの言語と違う発想となってしまいます。

だから現状では、知りたいことをいったん英語に直してプロットする。英語で戻ってきた答えをGoogle翻訳などでその国の言語に変換するような方法を取っています」と、複数カ国の言語を操る重信は言う。

AI浸透による意外な影響

ChatGPT-4以降、大きな社会的転換期が訪れているのではないかという議論になり、AIが事実に基づいていない情報を生成する現象「ハルシネーション」の対策や、現状すでに問題化されているフェイクやフィッシングアタックについての課題が論じられた。

「スマホに届く『懸賞に当たりました』などいうAIが作成したメールは、これまでは違和感のある文章だったため避けることができましたが、今はかなり人間らしい言葉になっており、その物量も増えています。それらが人に届く前に、自動でどう防げるかが今後の課題でしょう」(上杉)

一方で「企業のみんなで使う面白さもある」と竹中。例えば企業でChatGPTを使う場合、皆が同じボットを使うので、誰が何を発言しているかも見える。そのため、それぞれの考え方を知るだけでなく、もし間違った質問をした場合は互いに修正し合うという、ある種のネットワーク効果も期待できるのだ。

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来るべき未来に向けて今できること

前回のイベントでも話題になったが、日本では、ChatGPTに対してまるで神聖なものと会話するように、丁寧に質問する人を見かける。伏谷は、重信に海外での様子を尋ねた。

「AIは子どもが親に学ぶようにフィードバックを学んでいるところがあるから、丁寧に話す方が良いAIに育つといわれています。日本語の敬語ほど丁寧ではないですが、Pleaseを使う人も多いです」(重信)

来るべき近未来では、無意識下でAIを使っているという時代は間違いなくやってくる。だからこそ過渡期に、ある程度の規範やマナーのようなものを決める必要はあるだろう。

上杉は「今の子どもたちの将来の夢はYouTuberが多いが、おそらく1年後には、プロンプトエンジニアやAIアーティスト、AIクリエーター、AIガーディアンなどが登場するだろうし、AIのルールを決めていくのも彼らになるでしょう」と予見する。

「とはいえ、デジタルネイティブ、AIを作る中核に、今いる人が土台を作っておかなければ、AIはとても危険なものになってしまう」と、上杉は今のAIに触れている人間たちが、今後どのように活用していくのかにもかかっているだろうと語った。

共存の未来予想図

さて、上杉のようにChatGPTを使ってAI記者が記事を量産していると聞くと、仕事がなくなるのではと不安に思うライターも少なくないだろう。

しかし、それは逆だと上杉は言う。なぜなら、どんなにロボティクスが発達しても取材することはできないし、的を得た質の高いプロンプトを入力すれば、当然、答えの質も高くなるからだ。つまり、各企業が質問のプロである記者やライターをプロンプトエンジニアリングとして雇うケースが、今後増えていくことが予想できる。

「日々進化する生成AIの登場で、人間の役割、仕事が減るのではないかとついネガティブに捉えがちですが、もしCHAPTER 3が開催されるのであれば、それぞれの職業や日常生活に当てはめたChatGPTの使い方について話したい」(上杉)

「AIが人類をつぶすか、人類がAIに勝つか、そのどちらかまでこのイベントを続けたい」という上杉の言葉で、イベントを閉じた。

登壇者プロフィール

上杉隆

東京都出身。株式会社AIソリューション京都ほか、24社の設立に関わったシリアルアントレプレナー。1999年、ニューヨークタイムズを皮切りに世界中でジャーナリズム活動を開始する。ベストセラー「官邸崩壊」など著書多数。テレビ・ラジオでレギュラー出演も多い。僧侶、プロデューサーなどマルチに活動する実業家でもある。2012年、AI関連情業などを展開する企業、NOBORDERの代表を務め、各国の最新AIトレンドもいち早く発信している。X(旧Twitter)のフォロワー数は28万人。

竹中直純

福井県敦賀市出⾝。ソフトウエアプログラマー。1997年にdigitiminimi社を設⽴、ネット初期に坂本⿓⼀とのネットライブ、村上⿓とのウェブ⼩説配信を⾏い、2000年代には⾳楽配信、電⼦書籍、テキスト検索、電⼦通貨の技術開発と構築した。2010年代以降にはそれら事業会社(OTOTOY,BCCKS,Brazil)の発展的運営を⾏っている。近著に村井純との共著「DX時代に考えるシン・インターネット」がある。

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伏谷博之

ORIGINAL Inc. 代表取締役、タイムアウト東京代表

島根県生まれ。関西外国語大学卒。大学在学中にタワーレコード株式会社に入社。2005年 代表取締役社長に就任。同年ナップスタージャパン株式会社を設立し、代表取締役を兼務。経て2007年にORIGINAL Inc.を設立、代表取締役に就任する。2009年にタイムアウト東京を開設。観光庁アドバイザリーボード委員(2019〜20年)のほか、農水省、東京都などの専門委員を務める。

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