下北沢駅南口を出て歩いて5分ほど、メインの道路から1本裏に入ったところにある隠れ家的タイ料理店ティッチャイ。本格的な料理はもちろん、オーナーの明るく気さくな人柄もあってか平日のランチ時でも多くの人で賑わう人気店である。しかしここ半年は、どうやらもう一匹の新しいスタッフも店の人気に貢献しているよう。そんな情報を聞きつけタイムアウト東京スタッフは先日ティッチャイを訪ねてみた。
店のドアを叩くと、一番奥の席ですやすやと眠りについている一匹の猫を発見。彼女こそが冒頭で紹介した新人スタッフ、エム(em)である。生まれて間もないころに同店のオーナーに保護され、それから15年間ずっと一緒に暮らしている。これまではオーナーが仕事の間は家で留守番をしていたが、1人で留守番をさせることが可哀想になりオーナーに連れられ店に来るようになったという。そして半年ほど前、初めての出勤を果たしたそうだ。
エムという名前の由来については、エムと出会ったのがベトナムに行った直後であったこともあり、姉妹のような関係になれたらという想いを込めてベトナム語で年下の女性を呼ぶときに使用するエム(em)と名付けた語ってくれた。オーナーに抱えられたときのエムの安心した表情を見ていると、この15年間本当の姉妹のように多くの愛情を注がれながら一緒に生活をしてきたことがこちらにも伝わってくる。ちなみに、エムを救出した場所が菓子屋の亀屋万年堂の裏であったため当初は「かめまん」という名前の候補もあったようだ。
そして最近は、15歳にして初めて恋というものを経験したというエム。相手は少し悪そうな白猫で、彼がやってくるのを店の前で待っている日もあるそうだ。しかし、先日は相手の猫をエムが全力で追いかけていたといい、どうやら今のところはエムの片思いの模様。また、ここ数ヶ月で散歩の楽しさも覚えた彼女はふらりと下北散策へ出かけることが趣味になったという。
存分に外の世界を堪能したら看板猫の役目を果たすべくきちんと店に戻ることも忘れない。散歩に出かけることに関してオーナーは「最初は帰ってくるか心配もしたけどそれだと仕事に集中できないから。これだけ一緒にいるし戻ってくるって信じる方に力を注ぐようにした」と語っていたが、エムはその言葉にしっかりと応えているようだ。こんな2人を見ていると、これだけの月日をともに過ごしてきた彼女たちの間には確かな信頼関係や絆があることが感じられる。ティッチャイは、こんな関係性も垣間見えるとても温かな空間だ。エムは今日もこの店で、寝たふりという技を挟みながらもしっかりと看板猫としての務めを果たしているのであろう。
勤務先:ティッチャイ
看板猫になるまでの経緯:これまではオーナーが仕事の間は家で留守番をしていたが、1人で留守番をさせることが可哀想になりオーナーに連れられ店に来るようになった。そして半年ほど前、初めての出勤を果たした。
—ある1日のスケジュール—
12時 ランチ営業とともに店に出勤
15時頃 ふらりと散歩へ
24時 退社
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