ホテルや高層ビルが立ち並ぶほか、高速道路までもが通るこの赤坂見附エリアでも、弁慶橋を渡ったところにある弁慶橋ボート場に行けば都会の騒々しさや忙しさを忘れてゆったりとした時間を過ごすことができる。浮き桟橋での釣りやボートに乗って釣りを楽しむボートフィッシングなど、都会にいながらも気軽に自然と触れ合うことのできるこの環境自体はもちろんだが、弁慶橋ボート場の癒やしポイントはそれだけではない。ボート場への階段を下っていくと、受付嬢のごとく看板猫のトラミが迎え入れてくれるのだ。
もともとは、トラミの母親であるクロ(10歳)が生後3ヶ月から半年くらいのときに弁慶橋ボート場に迷い込んできたことがはじまり。ボート場のオーナーである浅沼にクロが保護され、その後にトラミが誕生して自然とこのボート場で看板猫を務めるようになったのだ。クロは基本的にあまり仕事をせず事務所でのんびりとしていることが多いため、表に出てくることも少ない。しかし、たまにふらっと散歩に出かけたりもするようなので、もしクロに出会えたらラッキーである。
その反面、トラミは大の人間好きだそうで、土曜日や日曜日といった人が多い日には積極的に外に出てきて接客をするそうだ。平日で比較的人が少なかったこの日はトラミもクロと一緒に事務所でのんびりと過ごしていたが、浅沼が呼んだら器用に壁をつたって降りてきてくれた。以前、悪い野良猫にクロが瀕死の重傷を負わされてしまったことから夜は2匹とも事務所のなかで就寝しているそうで、事務所はもはやクロとトラミの家のようなもの。普段から事務所内を自由に歩き回っているのか、すっかり事務所を住みこなしていた。
その後ポンっと受付台に乗せられると、トラミはしばらくその場を離れずしっかりと店番をしていた。たまにあくびをしてみたり、伸びをしてみたり、なんとものんびりとした受付嬢である。しかし、きっとこのようなトラミのささいな行動が日々訪れる者に癒しを与えていることだろう。
また、トラミは真面目な性格で、ふざけてボートに乗ったり、ボート場の魚を食べてしまったりといういたずらは一切しない。死んでしまったニジマスをすくってバケツに入れ置いておいたものにさえ決して手を出さなかったそう。猫は魚好きだという印象を持っている人も多いかもしれないが、実際はそんな猫ばかりではないようだ(現に猫が魚好きだというのは間違いだという話や、青魚ばかり食べていると病気になってしまうという話もあるが)。ちなみに、トラミの大好物は煮干しと『シーバ』。トラミの場合、魚自体は嫌いではないようだが、生魚はあまり好まないようだ。
カメラを向けてもこの鋭い眼光、最高である。「私、可愛いでしょ?」と無駄に愛想を振りまかないところがまた良い
弁慶橋ボート場の上にはモミの木があるため、大量に咲いたモミの花がボート場にも無数に落ちてくるのだという。ちょっとトラミが地面にゴロゴロとするだけでも体中がモミの花だらけになってしまい、それが痒いのか受付台などにゴシゴシと身体を押しつける様子も多く見受けられた。そして、それを見た浅沼は自分にかかっているモミの花を落とすよりも先に、トラミの花を払ってやる。クロは生まれてから数ヶ月間野良猫時代があったこともあってか少々人間に対して警戒するところもあるようだが、トラミがここまで人間好きなのは生まれてからずっと、本当にトラミやクロのことを想ってくれる心優しい浅沼と一緒に過ごしてきたからだろう。
弁慶橋ボート場からちょっと上を見上げると、そこにはまさに都会を代表するような光景が広がっているが、弁慶橋ボート場にはゆったりとした温かな時間が流れている。今日もトラミは弁慶橋ボート場の看板猫として務めを果たすべく、来店客にも気さくに声をかける浅沼と、ときどき顔を出すクロと一緒に仕事に励んでいることだろう。
勤務先:弁慶橋ボート場
看板猫になるまでの経緯:クロが同ボート場でオーナーに保護されたことがきっかけ。クロは基本的に事務所でのんびりとしているが、その後に誕生したトラミが自然と接客をするようになった。
—ある1日のスケジュール—
9時頃 出社
18時頃 退社
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