生成AIとまちづくり
Photo: Genya Aoki
Photo: Genya Aoki

生成AIは街づくりの何をスマートにしたのか、今糸島で起きていること

「NEXTOURISM イノベーションけもの道〜みんなで見つける新しい観光まちづくり〜 」トークイベントレポート

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2024年8月19日、東京プラザ表参道「ハラカド」3階の「Baby The Coffee Brew Club」で、一般社団法人 日本地域国際化推進機構が主催するトークイベント「NEXTOURISM イノベーションけもの道〜みんなで見つける新しい観光まちづくり〜」(以降「イノベーションけもの道」)の第1弾トークイベントが開催された。

日本地域国際化推進機構は、「NEXTOURISM(ネクスツーリズム)」を掲げ、新時代を見据えた観光の在り方を提言・推進していく目的で設立された一般社団法人である。

「イノベーションけもの道」シリーズは、全国で行われているイノベーティブな取り組みを共有し、その輪を広げくという試みの一つだ。 野生動物が本能的に作り出す「けもの道」になぞらえた概念であり、それは、誰かが意図的に設計したものではなく、人々の自然な行動や欲求に沿って徐々に形成される新しい道筋を表している。既存の枠組みにとらわれない斬新なアイデアが、まるで生き物のように自然に成長し、やがて社会に深く根付いていく。NEXTOURISMは、このような有機的で持続可能なイノベーションこそが、現代の観光や街づくりに不可欠だと考えている。

今回は、民間主導の新しい街づくりの形として注目を集めている福岡県糸島市の「サイエンスビレッジ構想(SVI)」のキーマンであるメタコード代表取締役・平野友康と、メタコード社を共同で運営しているディジティ・ミニミ代表取締役・竹中直純をゲストに迎え、「生成AIとまちづくり」をテーマにトークセッションを実施。実際に街づくりにどのように生成AI(人工知能)が生かせるのか、どんなことに注意しなければならないのかといったことが語られた。

生成AIとまちづくり
Photo: Genya Aoki前田賢治

また、冒頭、NEXTOURISMの会員の活動報告として大成建設の前田賢治が登壇し、2030〜40年をめどに実施される首都高KK線の再生事業、および2024年5月に行われた高速道路を一般開放し、歩けるようにする「GINZA SKY WALK」という社会実証実験などの事例を紹介した。

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「糸島サイエンス・ヴィレッジ: SVI」を核とした生成AIと地域の未来づくり

平野友康(以降平野):糸島市では、「地方創生のロールモデルを作る」という目標を掲げ、生成AIを活用した街づくりの取り組みを行っています。大都市に近接した自然豊かな地域があり、リモートワークの活用が可能で、生活圏人口10万人ぐらいの経済圏であるといった魅力が糸島市にはありました。

さらに、イギリスの情報誌・モノクルが実施した「小さな輝く街ランキング」で、世界第3位の「住みたい街」に輝いた実績もあります。漁港だけで12あり、海・山・さまざまな自然が豊かで、一次産業が栄えている街です。一方で、官民パートナーシップによる地域経営の実現、地域を支える人材の育成といった地域課題も抱えていました。

そこで、「糸島まちづくりモデル」を作ろうと僕らは考えました。それは、地方創生の街づくりに関心を持ってビジネスチャンスを感じる企業や人材を集結させ、街づくりを研究・実装する街を作るということです。この「サイエンスビレッジ」は、九州大学の伊都キャンパス周辺にある10年ほど手つかずだった50ヘクタールほどの広大な土地からスタートしました。

大きな特徴は、「マイクロネイバーフッドユニット」という、5分ほどで歩ける直径200メートルほどの小さなご近所単位のユニットをつなげて街を作っていこうとしていることです。ご近所関係を大切にしつつも、生成AIなど最新テクノロジーが搭載されてる自動車道路を外に作り、中は徒歩圏にするといった前提条件を決めつつも、柔軟に変更できる街を作っていくことにしました。

この「柔軟に変更可能な街を作る」というのがとても大切なことであり、生成AIと大きく関係している部分です。

2027年後以降に訪れる生成AIによる破壊的イノベーション

平野:これは生成AIなどの破壊的イノベーションがキーになってます。今後約3年ほどで、生成AIでAIが作れるようになり、人類は自分たちと同等かそれ以上の知性と出合う可能性があるとされています。これはいわば、現状1兆円のコストをかけていたソフトウエア開発を、無料かつ少人数・短時間で作れるというようなことかもしれません。

街づくりにおいては10年・20年後を想定して計画を考えますが、それほど大きなイノベーションが起こるかもしれない状況で、全てを予測して計画するのは不可能です。そのため、大きなフレームを決めた後は柔軟に変更できるようにし、変化に常に対応していきます。

例えば、小さなデータセンターが町内にあり、AIと連動できるさまざまなセンサーがあり、AIと連動できる道路や建物やロボットのほか、ローカル5Gのネットワークがある――といった共通基盤を用意していき、バージョンアップしていくという具合です。

すでに、ユニットの共通基盤を作るための実証実験センター「始まりの地」を中心に、デモンストレーションを開始・運用されています。5G、直流ネットワーク、生成AIサーバー、移動体、セキュリティーポール、デジタルツイン、農業実験などです。

人間は、5年・10年後にどういう街を作りたいのか、どういう暮らしをしていたいのか、という目標を立て、ビジョンを創造します。そこに向け、このシステムを柔軟に利用することで、今まで不可能だったものを5〜10年で作り上げることができるんじゃないかと考えています。

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市民に向けた「生成AI学校」を整備

平野:私たちが実現するのはテクノロジーの話だけではなく、人と人とが出会う場所です。そういう場所が増えていき、コミュニケーションが盛り上がる……そんな実験都市を作っていきたいです。これによって糸島市の人口を5%増加させられると、10〜20年後には平均年齢が下がり、若い街になっているはずです。

生成AIを活用することで、思考をアウトソーシングし、人間が思いもよらなかったスマートなことができるようになるでしょう。

生成AIは、多くの人が使えるツールなので、市民を向けた「生成AI学校」も始めていこうと考えています。いろんなレイヤーに生成AIを取り入れ、「良き街」を作っていくというモデル地区にしたいのです。

竹中直純(以降竹中):あと半年ほどもすれば、そうしたことを理解する人が増えると思います。テキストから画像を生成する「ステーブルディフュージョン」などを通じてAIのすごさが一気に拡散されたような、大きな変化が訪れるのではないかと思っています。それが具体的に何なのかまでは、いろいろな可能性があって断定はできないのですが……。

人間の関係性や感情を分析・指標化

平野:生成AIによって、これまで見えなかった町全体の関係性も見えてきます。生成AIは人間の感情や関係性なども分析可能なのです。

例えば、小説を1冊丸々読ませて、登場人物全員の人間関係と感情をグラフにするといったことができる。それを街づくりに応用すると、例えばステークホルダーの不満を機械的に解決するのではなく、本質にある感情も含めて最適化していくということが短い時間でできるようになるのです。

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生成AI claudeでのデモンストレーションを実施

この後、実際にNEXTOURISMが用意したテストデータを使って、AIにレポート作成を指示するデモンストレーションを実施した。生成AIを使うことで、何時間もかかるプレゼンテーション資料の作成や分析・説明、個々の理解へのサポートを肩代わりしてくれる。シンプルながら意味のある生成AIの活用法の一つといえるだろう。

また、プロンプトを高齢者や子育て世代など活用対象を変化させたり、パブリックドメインのサイト情報を取り込んだりすることで、どんどんユニークな情報に答えてくれると平野は言う。

「グラフも分類もいらないから、生データが欲しいというふうに変わってきていますね。分析はAIがやってくれるからです」。(平野)

AIがパブリックコメントから導き出す限界

竹中:例えば、(今回使用した資料である)文京区に関して言うと、「グリーンコート」という大きなオフィス兼マンション兼ショッピングモールがありますが、それが街に及ぼした影響みたいなのは、今ぱっと見た範囲の中では入ってないんです。パブリックコメントの限界みたいなことがAIを通じて分かる、というような点については、平野君は言っていなかったので、ちょっと追加しておきたいなと思います。

当然ですが、生データのないものは答えられない。以前のChatGPTでは、広くインターネットから情報を収集するという機能が実装されていたが、今はできません。AIを作っているOpenAIのような会社が自主規制することで、僕らの知的活動における制限そのものになってるという問題は、一つ指摘した方がいいかなと。

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質問の深さが増せば新発見が増える

平野:生成AIは、言語を扱う、例えば言語で街を表現するエスノグラフィ的な手法も得意です。例えば、Google Earthで「湯布院の湯布院町川上という場所の道路に立ってます」と言えば立ちます。

その地点の説明を指示すれば、「後ろの方には山並みがあってどうのこうの……」というふうに描写し始める。歴史や四季データを入れたらそれを含めたコンテクストになり、ブログや市役所の会報を参照させれば住民の声なども取り入れた表現が出力されます。

一番大事なことは、どんどん深く潜っていくことで、思ってもいなかったような切り口が見えてくるということ。そうすると、元になるデータの集め方も変わってくる。もしかしたら街頭インタビューしてとかお茶飲み話みたいなものから、一番貴重なデータが取れるかもしれません。何よりも勉強することのハードルが下がるので、最適化の速度が早まるのではないでしょうか。

竹中:一つ補足しますと、町ができた後に、その町でどんな人がどういうふうに住むかみたいなことも、AIによって動的で変更可能な要素になります。

建物や水の動線といったことは変えられませんが、動的な要素・変更できることが、個人やコミュニティーに対してどんなメリットがあるかを説明できれば、いつでも変更・追加できるという考え方を頭の中にインストールしてくれるのが、この糸島市のプロジェクトが持つ最大の特徴の一つになるのではないかと思っています。

会場からの質問では人間にしかできないことが浮き彫りに

最後は質疑応答だ。質問者からは「生成AIが感情をデータ分析したとして、その感情情報を見て、意思決定のプロセスや決定権者はどう決めるのか?」という疑問が寄せられた。

対して平野は「5万人以下の行政などある程度の小ユニットによる合意形成は成せる」と現状の実例から解答した。

竹中は、「それは今のところ、人間が考え続けなければならないことの一つ。どのゲームの時にそのルールを用いるべきかを学ぶ必要があります」と答えた。

また、「元データとなる情報は人が恣意的に集めなければいけない部分だが、そうしたデータがなくてもAIで街づくりをする方向性はある程度つけられるのか?」という質問に対して、

平野は「基本的に僕が考えている自分の範疇(はんちゅう)の街づくりというのは、計画を立ててAIを使ってなるべく賢い答えを出すのではなく、どんどん人を巻き込んでいってみんなで発見して、必要なものを作っていく、整備していくというものです」と答え、そのツールとしてのAIの有用性や将来性が若者を引きつけたり、個々の能力を底上げすることにつながるのではないかと告げた。

竹中は、「信頼性の面からも、人間の感情を処理するという面でも、今のAIではまだ力不足です」とバッサリ。「やはり、最終的には人間がどう判断するか、人間が良いと感じたものをAIが論理的にどう処理できるかという勝負になるのではないかと感じています」と、人間と生成AIとの伴走の未来を語った。

生成AIによる論理的思考の拡張や分析によって、人間はより簡単にあらゆる情報を取り出し、学べるようになった。その先には、個々人の視野を広げ、思考を深め、柔軟な考え方の変容を可能にする。

つまるところAI時代の人間に必要なのは、「何だか分からないすごいもの」とAIを遠ざけたりせず、学び続けることなのかもしれない。

登壇者

平野友康

メタコード 代表取締役 

1974年生まれ、福岡県糸島市在住。1998年に鴻上尚史主宰「劇団第三舞台」をプロデュースするサードステージのデジタル部門から独立し、株式会社デジタルステージを設立。現在はテレポート株式会社の最高経営責任者(CEO)。「モーションダイブ」シリーズや「BIND」「フォトシネマ」など、「自分たちの生活をデザインする」ソフトウエアを開発。著書『旅する会社』(アスキー)、『ソーシャルメディアの夜明け』(bccks)、ニッポン放送「平野友康のオール ナイトニッポン」のDJ、Ustreamを使った坂本龍一のインターネットライブ中継(スクムトゥス、#skmts)の発起人など。「グッドデザイン賞」金賞、「文化庁メディア芸術祭」優秀賞など受賞歴多数。2023年1月に福岡県糸島市に株式会社メタコードを設立し、糸島での街づくりを精力的に行っている。趣味はジャム作り。

竹中直純

digitiminimi 代表取締役
一般社団法人 日本地域国際化推進機構 アドバイザリーボード 

福井県敦賀市出⾝。ソフトウエアプログラマ。1997年にdigitiminimi社を設⽴、インターネット初期に坂本⿓⼀とのネットライブ、村上⿓とのウェブ⼩説配信を⾏い、2000年代には⾳楽配信、電⼦書籍、テキスト検索、電⼦通貨の技術開発と構築。2010年代以降にはそれら事業会社(OTOTOY、BCCKS、Brazil)の発展的運営を⾏っている。近著に村井純との共著『DX時代に考える シン・インターネット』がある。

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